戦間期【3】世界恐慌

1.世界恐慌の発生

(1)恐慌の始まり

  • ①恐慌の勃発
    • 1929年10月、ニューヨーク株式市場(ウォール街)での株価暴落 ⇒ 空前の恐慌
      • →工業生産の急落、企業の倒産、商業・貿易の不振、銀行など金融機関の危機、労働者4人1人が失業
  • ②恐慌の原因
    • (a)農業不況…大戦中は欧州向け農産物が増産したが、戦後に需要が急落し農産物価格が低下。農民の購買力が減退していた。
    • (b)労働者の購買力減退…生産性の上昇に比べて労働者の賃金が低く抑えられていたので、国民全体の購買力が落ち込む。
    • (c)保護貿易主義の欠陥…アメリカ自身が保護貿易主義を取っていたので輸出が振るわず。一方工業生産力が急増としていたので需給バランスが崩れる。
    • (d)その他…賠償、戦債支払いが国際貿易の流れを妨げたことや合衆国に集中した資金が土地や株式の投機  に使われた(金余り⇒金融投機)ことなどが挙げられる。

(2)恐慌の世界的波及

  • ①各国でアメリカ市場に依存していた輸出産業が大打撃。
  • アメリカの金融界が国内でこうむった損害を埋め合わせるために、投資資金を各国から引き上げる。
    • アメリカ=金融の中心 ⇒ アメリカ資本の引き上げ ⇒全世界でも恐慌

(3)自国利益の優先

2.恐慌対策

(1)合衆国共和党政権の世界恐慌への対処

  • フーヴァー=モラトリアム(1931)…賠償・戦債支払いの1年間停止。効果なし。
    • →主要国は恐慌に対処する国際的な仕組みを生み出せず
  • 結局はブロック経済…輸入制限と関税を設けて自国と従属地域の市場を外国に閉ざす。

(2)世界恐慌に対するイギリスの対応

  • ②失業保険の削減など緊縮財政を提案すると与党労働党が反対したため総辞職 (1931)
  • マクドナルド挙国一致内閣成立(1931~35)。恐慌を克服する為、保守党・自由党と組んで組閣したが、マクドナルド自身は労働党から除名された。
    • (a)金本位制停止(1931)…恐慌による貿易赤字で金が国外へ流出したため、ポンドと金の交換を停止。
    • (b)ウェストミンスター憲章(1931)…本国と自治領を対等としイギリス連邦(Commonwealth)を結成。本国の拒否権を撤廃し、「王冠への忠誠」のみ確認した。
    • (c)オタワ連邦会議(1932)…カナダの首都オタワで開催された恐慌克服のためのイギリス連邦経済会議。ブロック経済方式が採択。本国と自治領間での帝国特恵関税の制定。オタワ協定が結ばれた。⇒排他的経済圏スターリング=ブロックの形成
  • ④対独宥和政策;ナチス=ドイツの反ソ的態度に期待してドイツの要求に譲歩して対決を避ける。

(3)世界恐慌に対するフランスの対応

☆フランスでは世界恐慌の影響は1932年になってあらわれる。

  • ①植民地経済会議(1934) →フラン=ブロックの形成
  • ②中道・左派勢力の結集 ←ドイツのヒトラー政権成立、国内の極右勢力の活動
    • (a)仏ソ相互援助条約(1935)…35年に再軍備を始めたドイツに対して英仏伊はストレーザ戦線を結んで対抗しようとするがイギリスが宥和政策で英独海軍協定により再軍備を認めてしまったので失望感が漂う。イタリアはエチオピア侵略に転じ、孤立したフランスはソ連と結んでドイツに対抗した。
    • (b)社会党ブルム人民戦線内閣(1936) ←コミンテルンの1935年大会における人民戦線提唱

(4)世界恐慌に対する米フランクリン=ルーズヴェルト民主党政権(1933~45)の対応

(※1933独→ヒトラー政権誕生)

  • ①内政 ~ニューディール政策~ ※政府の強力な権限で経済を指導し、社会対立の拡大を阻止!
    • cf.ケインズ雇用、利子および貨幣の一般理論』→赤字財政による公共事業で失業問題を解決
    • (a)農業調整法(AAA):生産を調整し、生産物価格を引き上げて農民の生活を安定させる
    • (b)全国産業復興法 (NIRA):政府と企業との協力を強め、企業間の公正な競争を促す。
    • (c)金本位制から離脱 混乱した国際経済からドル経済圏を守る
    • (d)テネシー川流域開発公社(TVA):公共投資による地域開発を推進。労働者を減らす。
    • (e)ワグナー法:労働者の団結権と団体交渉権を確定。労働者の権利を保護。
  • ②外政
    • (a)ソ連の承認 …1933年。ファシズム諸国への対応、ソ連への輸出拡大を図るなどのねらい。
    • (b)反ファシズム…西欧民主主義諸国を支援。公的には中立。
    • (c)善隣外交 …プラット修正 廃止によりキューバ独立承認。中南米にドル=ブロック形成。フィリピン独立約束。

(5)ブロック経済歴史的評価 → 英仏米に一定の効果はあったが、国際経済を縮小

  • ①ブロック市場から締め出された日独伊などは侵略政策により新たなブロックを形成しようとした。WWⅡの序曲。
  • ②ブロック内にとっても長期的には経済回復に害。

(6)世界恐慌に対するドイツの対応

(6)-1.ナチ党の進出 ☆世界恐慌で米国資本撤収→ヴェルサイユ体制を遵守する歴代政権と議会制民主主義へ不信
  • ①1930 ヴァイマル共和国建国以来の社会民主党が失業保険問題で倒れる
    • ⇒ヴェルサイユ体制の打破を唱えるナチ党とヴァイマル共和国の打倒を唱える共産党が伸長!!
    • ☆ナチ党<国民(国家)社会主義ドイツ労働者党>の特徴
      • (a)ユダヤ人排斥を主張する人種差別主義、ヴェルサイユ条約破棄、民族共同体建設による国民生活の安定
      • (b)中産階級の支持獲得…世界恐慌によって失業者が増え、社会不安が広がり議会政治が混乱すると、ナチ党の大衆宣伝に動かされるようになる。
      • (c)支配階級の支持獲得…共産党への危機とヴァイマル政民主政治への不信。産業界・軍部・ユンカーがナチ党へ接近。
  • ②1932 7月の総選挙で第1党に躍進するが11月には後退(占有率38%→34%)。一方共産党は勢力伸長(占有率15%→17%)したので、共産党の進出に怯えた保守層がナチス党支持を決意。
  • ③1933  1月、ヒトラー政権成立(ナチ党・保守派連立政権)
(6)-2.ヒトラーの内政
  • ①ドイツ共産党の解散…1933年2月27日夜に発生した国会議事堂放火事件を口実に弾圧。
  • ②全権委任法 …1933年3月。民族と国家の困難を除去することを理由に政府に立法権を委ねる法案。ヒトラーの独裁体制を合法的に確立した。
  • ③社会統制  
    • 基本的人権・市民的自由は無視され、教育や文化を含む社会のあらゆる領域が厳しく統制。
    • 反対派の弾圧…秘密警察(ゲシュタポ)、突撃隊(SA)、親衛隊(SS)が弾圧、社会監視。
  • ④総統就任…1934年大統領ヒンデンブルク死亡。ヒトラーが大統領・首相・党首の全権を持つ独裁的地位を確立。
  • ⑤経済政策…恐慌対策、失業者削減に取り組む
    • (a)アウトバーンの建設などの公共事業の推進、軍拡、労働奉仕組織への失業青少年の吸収
    • (b)アウタルキー(国内自給)を目指す「四カ年計画」…輸入に依存する天然のゴム、石油、繊維をドイツで産出量が多い石炭などを利用した合成ゴム、合成石油、合成繊維などで代用しようとする計画。
      • ☆37年にはドイツでは失業者がほぼ一掃。他国が恐慌から脱しえない中、独がいち早く景気回復に成功したことは、国際社会におけるナチスの評価を高めた。
  • ⑥社会政策
    • 大衆政策…娯楽(余暇組織、ラジオ)・福祉(貧困層へ救済事業、結婚式の貸付制度等)
    • ナショナリズムの昂揚…1936年ベルリン=オリンピックの開催によって国民の自尊心を高める。