ヨーロッパ文化史 19世紀後半の文化

19世紀後半の社会と文化

(1)人文・社会科学に対する自然科学の影響

  • ①社会を考察する際に、統計資料を用いたり、何らかの法則を探究しようとする機運が強まる。
    • マルサス人口論』(1798)…制限されなければ人口は幾何級数的に増えるが、食料は算術級数的にしか増えないから、そこに貧困と罪悪が必然的に生じるという主張。禁欲による人口増加の抑制を唱えた。
    • コント…社会学創始者。社会活動を支配する法則も科学的に求められるとする。知識の発展段階を神学的・形而上学的・実証的に分けたのは有名。
    • ダーウィン種の起源』(1859)…生存に有利な変異の蓄積で進化が起こる(自然淘汰説)。種の進化を唱え、ヒトも他の動物と同じく種の一つだと強調する。
  • ②神学上の問題:ダーウィンの説は、ヒトは神が自身の姿に似せて全生物を支配するために創造した不変なものとする聖書の人間観を大きく揺るがすことになった。
  • ③社会上の問題:1870年代に入ると、社会的弱者や劣等とみなされた民族・人種への迫害を正当化する論理となる。

(2)歴史学

  • ①近代歴史学の創始…ランケが史料批判による科学的研究法を重視したことによる。
  • ②国民史の流行…「国民」の実在を前提にその成立・発展を叙述する。史料館の整備・史料集の刊行が各国で進み、ナショナリズムの風潮とあいまったことが背景にある。
  • 史的唯物論ナショナリズムに批判的なマルクスが唱えた歴史観。人間の物質的な生産活動を土台にして、それを反映する社会的・政治的・精神的な意識形態が形成されるという考え方。
    • 「人間の意識がその存在を規定するのではなく、人間の社会的存在がその意識を規定する」

(3)文学・絵画

  • 写実主義…社会や人間を客観的に描写しようとする。
  • 自然主義写実主義をさらに推し進め、人物の行動を遺伝で説明するなど科学的知見を取り入れる。
  • 印象派…光に関する研究が深まる。光の変化を絵筆で表現しようとする。
  • ④SF小説

(4)新しい芸術運動

  • ①耽美主義…自然主義に反発。美の享受はそれだけで人生に価値と意義を与える。
  • 象徴主義…科学的実証主義への反感。何か別の物を象徴として代行させ、事物や状態の繊細な内面を表現。

(5)大衆社会

2.労働運動と社会主義運動の高まり

(1)第1インターナショナル(1864~76) 国際労働者協会

(2)第2インターナショナル(1889~1914) 正式名称は国際社会党会議

  • ①背景…1873年に欧米の工業国が不況期にはいって労働者の生活が悪化したことにより、労働運動・社会主義運動が拡大。各国で社会主義政党労働組合連合体が結成される。
  • ②契機…フランス革命100周年を記念するパリ万博に対抗して、1889年パリで創設。8時間労働を要求。
  • ③展開…ドイツ社会民主党、イギリスの労働党、フランスの社会党などが参加し、労働運動の基礎を築く
  • ④結末…WWⅠ勃発を契機に各党が自国の戦争に協力する方針に転換したため、活動を停止。

(3)各国政府の社会福祉政策の効果

  • ①労働運動を分裂させる
    • 革命ではなく議会を通じて社会を改良することで社会主義の実現を展望する勢力が出現。
      • ベルンシュタインの修正主義
        • 社会主義の実現を労働者階級の目標とするがマルクス社会主義に到達する原則(階級闘争、暴力革命論、プロレタリアート独裁論)を否定。議会主義による平和革命の可能性・労働者階級の知性や道徳の向上および倫理的努力を重視し、民主主義的実践による議会政治を中心とした平和的・漸進的な社会主義の実現を説く
        • →ベルンシュタインの修正主義は、社会民主主義として大戦前ドイツでは大きな影響を与えるが、中間的性格により、左右両翼から批判を浴び、第二次大戦後に衰退していく。
  • 国民国家への労働者の帰属心を強める
    • WWⅠにおいて各国が自国の戦争に協力するなど労働者の国際的な連帯を弱める。

(4)国際的連帯運動

  • ①国際赤十字社…スイス人デュナンが、クリミア戦争におけるナイティンゲールの活動に深く影響されたのちイタリア戦争の戦場での悲惨さを見て戦時における傷病兵の救護活動を目的に設立された団体。の提唱によって1863年赤十字運動を提唱した。
  • ②国際オリンピック大会…1896年、仏のクーベルタン古代オリンピックの再現として開始。
    • 普仏戦争の敗北の原因が青少年の肉体的堕落にあるとして、スポーツが奨励された当時のフランスの、ドイツに対する復讐心に満ちたナショナリズムの昂揚が背景にある。
    • 各国は政治の手段としてオリンピックに着目するようになり、国家意識昂揚の手段として、大会が利用されるようになった。
  • ③万国平和会議<1899、1907>…ロシアのニコライ2世の提唱によって開催された国際平和に関する会議。
    • 戦争法規に関わるもの(毒ガスの禁止や捕虜協定など)が決定された。

3.ロマン主義からの転換

  • ①資本主義経済の問題点の噴出 + 市民社会の成熟 + 科学技術の発展 →非現実的なロマン主義からの転換
    • a.写実主義…人生の現実をありのまま表現しようとする
    • b.自然主義…人間を科学的に観察し、社会の矛盾や人間性の悪の面を描写する。

4.写実主義文学

(1)フランス

(2)イギリス

(3)ロシア

5.自然主義文学

(1)ドイツ

  • ①ハウプトマン …包容力と時代への順応性により自然主義以後の文学の推移を体現する。

(2)フランス

  • ①ゾラ
    • 『居酒屋』…絶望的な庶民の生活と女性の生き様を描く。
    • 『ナナ』…下層階級出身のナナがその容貌によって上流階級に食い込むも梅毒で死ぬ。
    • 『私は弾劾する』…ドレフュス事件で軍部を批判しドレフュスを擁護。
  • モーパッサン…『女の一生』。夫の無理解と粗暴に苦しむ救いようのない女性の生涯を描く。

(3)北欧

  • イプセン(ノルエウェー)…『人形の家』。女性を取り囲む環境の厳しさと女性解放運動への展望を描く。
  • ストリンドベリ(スウェーデン)…不幸な生い立ちと結婚生活の破局から女性不信の作品。『令嬢ジュリー

(4)ロシア

  • ①トゥルゲーネフ…『猟人日記』『父と子』。農奴制の矛盾と苦悩するインテリゲンツィアを通じてニヒリズムを描く。
  • トルストイ…リアリズムと人道主義を結合しようと努力。『戦争と平和』『アンナ=カレーニナ』
  • ③チューホフ…鋭い観察力、リアリズムに立ちペーソス(悲哀)溢れる筆致でロシア社会・人間を描く。『桜の園

6.自然主義絵画と写実主義絵画

(1)自然主義絵画

  • 古典主義の理想化やロマン主義の誇張を捨てて、ありのままの素朴な自然の姿を描こうとした美術様式。農村や自然の風景を題材にしたものが多い。
    • ミレー「落穂拾い」

(2)写実主義絵画

  • 現実の自然や人間の生活を客観的に描写しようとする美術様式。19世紀中頃フランスを中心におこり、社会主義運動と接近したものもあった。

(3)自然主義写実主義の比較

  • 自然主義的芸術作品は、「自然の理想化」と相反するものではない。
  • ②自然に価値の原理があるとする点においては写実主義(リアリズム)と同意
  • ③「対象物の理想化を許容せず、美醜にかかわらず自然を写す」という意味での写実主義とは矛盾

7.印象派絵画

  • ☆19世紀後半に現れた光と色彩を重視して、対象から受ける直接的な印象を表現しようとした絵画流派。
  • ①マネ…フランス印象派創始者。娼婦などを描いて物議を醸しだした。『オランピア
  • ②モネ…光の画家。『日の出-印象』『睡蓮』、『ラ=ジャポネーズ』などが有名。
  • ルノワール…豊満な裸婦像などの人物画に独自の境地を拓いた。

8.後期印象派

  • ☆19世紀末に印象派から発展した流派。視覚だけにとどまらず、自然の基本的な形と様式の把握にも努めて、自己の感覚の上で構成しようとした。
  • セザンヌ…自然を単純化した独自の画風。『りんごのある静物
  • ②ゴーガン…タヒチで未開社会を描く。『タヒチの女』
  • ゴッホ…精神錯乱を起こし自殺。『ひまわり』