雑録

ハミダシクリエイティブ体験版の感想・レビュー

風変わりなヒロインをウリにするまどそふとの今回の題材は「不登校」ヒロイン。
雰囲気としては俺ガイル系でスクールカーストSNS的人間関係が扱われる。
特異な才能を持つが故に集団生活に適応できない少女たちの苦しみが描かれていく。
一方、主人公は肥大化した自己意識により臆病な自尊心と尊大な羞恥心に苛まれる。
籤引きで生徒会長に選ばれた主人公は不登校ヒロインを役員に任命し大奮闘。
体験版は生徒会の初試練として他校を招いての意見交換会がメインイベントとなる。
最後に製品版の次のイベントは文化祭であることが告げられ、体験版は幕を閉じる。

息苦しい学校での集団生活~スクカとSNSによる包摂と排除の原理~

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  • 学校に行けなくなり高校生活を諦めかけているヒロイン達
    • 本作の特徴は何といっても「不登校」を扱うこと。攻略ヒロインたちは特異的な秀でた才能を有しており専門分野では名を馳せているものの、それぞれの事情で高校生活を諦めかけてしまっています。一方で主人公は凡庸なる自己に直面しなければならない年頃であり、肥大化した自我意識に苛まれています。
    • 彼/彼女らが集団に属せずぼっち状態である大きな理由は傷つくことが怖いから。集団生活を送るためには、周囲の空気を読んで周りに合わせることが求められます。しかし己のプライドや肥大化した自我意識は、それを阻んでしまうのです。自分を低くして相手を立てることが出来ないので、集団の中でうまくやれないし、集団の中でうまくやれなかったことにもまた傷ついていくという大変面倒な青年期。
    • しかしこれは普遍的なものであり多かれ少なかれ誰もが直面することです。この危機に対し、通常であれば自己の分というものを弁え次第に適応できるようになるのですが、なまじっか才能があったりプライドが高かったりして拗らせてしまうと集団生活に馴染めなくなってしまうのです。それを表象しているのが本作のタイトル「ハミダシクリエイティブ」であり、才能を持っているが故に集団から排除されてしまうというタイトル解題になっています。
    • ここで注目されるのが強烈な自己意識。私が高校の頃は『山月記』を読んで李徴は俺か!?と思ったものですが、私の受け持ち生徒が言うには現代の高校生は『俺ガイル』を読んで「俺って比企谷八幡だ!」と思うらしいです。両者に共通するのが「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」。時代を越えて共有できる価値観だからこそ、古典として読み継がれてきたのでしょうし、本作の主人公たちにも多かれ少なかれ反映されているのでしょう。

 
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  • サブヒロイン竜閑天梨に見る「平等・公正をタテマエとした学校生活の矛盾」
    • 本作は個人における不登校の事情だけでなく、高校生活を取り巻く社会的背景もクローズアップされます。その役割を担うのが読モをやっているカースト上位の竜閑天梨さんで、スクールカーストSNSが前面に押し出されます。日本社会では身分や階級、序列や格差は不可視のヴェールに覆われ一見すると見えないようになっていますが、公然としてあるのは周知の事実です。そのため日本社会のカーストはさして問題になりません。その一方、学校空間はタテマエの上では平等・公正が唱えられているため、誰もが自分が輝けるキラキラ意識の期待を抱かされてしまうので、現実を見たときのショックが大きい。だからこそわざわざ「スクール」カーストなる言葉が使われるのですね。そしてその序列の固定化に使われるアイテムがSNS。旧来の日本社会だと男性は喫煙所、女性は井戸端会議で人間関係の不満を噴出させていましたが、現代ではSNSがその代用となりました。喫煙所や井戸端会議は単なる噂や言説の域をでませんが、SNSはデジタルトゥーとして文字や写真に残ります。それが序列化を加速させ、より強固なものとしていきます。読モとして活躍したいのでカースト内行事に参加できず、次第にハブられていく天梨さん。天梨さんは避難先を求めて主人公に擦り寄ってきます。しかしリア充陽キャである天梨さんが陰キャ生徒会集団と馬が合うわけもありません。体験版末尾では、主人公が天梨さんに擦り寄られているところを攻略ヒロインたちに目撃され乳繰り合っていると勘違いされてしまい、折角生徒会メンバーと深めた関係が一気に崩壊してエンドとなります。この後どうなるかもとても気になります。

 
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  • ラスボス的ヒロイン「鎌倉詩桜」
    • 読者に対してヘイトを集めさせるように設定されているヒロインが「鎌倉詩桜」。ラスボス的位置づけ。私もライターの術中にはまり読んでいて糞ムカついたので、ワザマエ!と称えるしかありません。物語を動かす動力源であり、根本的な要因となります。本作は籤引きで生徒会長に選ばれた主人公が苦労しながら生徒会を運営していくことが主眼となるのですが、そもそも生徒会長を投げ出した人物こそが鎌倉詩桜だったのです。彼女は現役の売れっ子作家であり、自らの作家経験を深める為に生徒会に就任し、引っ掻き回し、そして投げ出すという暴虐っぷりを披露します。さらに弁が立つため、彼女独自の論理展開により、全く悪びれもせず、こちらに非があるとして糾弾してくるのです。普通だったら詩桜さんのような人間が相手にされるわけもなく、切って捨てられるわけですが、主人公は必至に食い下がっていきます。
    • 体験版のクライマックスは、生徒会の初仕事としての他校を招いての意見交換会となっていますが、ここでも鎌倉詩桜さんは一波乱を起こすのです。主人公はこれまで意見交換会のために準備してきた苦労や自分のちっぽけなプライドを捨てて、意見交換会のスムーズな運営の為に鎌倉詩桜さんの助力を請います。ここで詩桜さんは一度は引き受けておきながら、直前に他の生徒会メンバーと衝突し、いきなり蹴ってしまうのです。イヤマァ、詩桜さんが蹴らないと主人公の見せ場が無くなるため、シナリオ展開上うまい運び方であるといえます。同時に詩桜さんに対するプレイヤーのヘイトを集めることにも成功しているので、技巧的には素晴らしいと言えるでしょう。体験版の時点で、これだけ糞ムカつくキャラに仕立てあげられているので、製品版でどのように転がるのか、本当に楽しみです。


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