ヨーロッパ文化史 20世紀の文化

1.西洋近代社会そのものへの懐疑

  • シュペングラー…主著『西洋の没落』において、人類の諸文化はそれぞれ1個の生体のように生成、繁栄、没落の過程を辿るもので、ヨーロッパのキリスト教文化はすでに終末に近づいていると断言し、WWⅠ後の西ヨーロッパの危機感を背景に大きな反響を呼んだ。

2.実存主義

(1)背景:大衆社会の成立

  • 資本主義→人間疎外の状況(画一化)→無力感・不安感・孤独感を日常の惰性的生活で癒す→大衆化

(2)大衆の特性 ← 実存主義たちが批判!!

  • 「個性的で主体的な真の自己」を創造していくことを放棄して、安易で怠惰な日常性(マイホーム主義、家族生活、大衆娯楽)へ逃避する。
  • 無気力に世間的常識や流行に自分を順応させ、きびしい自己創造の自覚的努力を放棄し、一般的な平均人として生きる。

(3)実存主義とは何か?

  • 現代社会の疎外状況を直視し、各個人の内面的な自覚・決断・努力によって、誰とも取り換えのきかない、かけがえのない主体性を確立し、このことによって人間の自己疎外を克服することを目指す思想。
    • Cf.人間疎外を社会体制の変革により克服しようとしたマルクス主義と対比せよ!

(4)実存主義者たち(キルケゴールニーチェヤスパースハイデガーサルトル)

  • ニーチェの思想「神は死んだ」
    • キリスト教は奴隷道徳である」…人間は従来「力への意志」(自己の弱さにうちかって、より強くより高くなろうとし、新しい人生の価値を作り上げていく意志)をもっていた。しかし奴隷道徳であるキリスト教により力への意志が凡化・平均化されてしまい、人間は人生の目標や意義を喪失し、虚無主義に陥る。
    • 「超人」思想…奴隷道徳から人間を解放するため「神は死んだ」と唱え、神に代わり「力への意志に燃え、イキイキとした人生をおくり、新しい価値を創造する人間」=「超人」を説く。
    • 運命愛…現実の世界を「永劫回帰」(現実の世界は目的もなく、意味もない、永遠の繰り返し)と認識するが、それさえも、肯定し、愛し、「これが人生か、ならばもう一度」と運命を受容する。無意味な人生の悲惨さを乗り越え、ニヒリズムを克服しようというのが、神無き世界を生き抜く超人の姿。
  • ハイデガーの思想「存在とは何か」事物や人間が存在するとはどういうことなのか?←フッサールの現象学
    • 現存在(ターザイン)…「存在するとは何か」ということや「そもそも何かが存在するとはどういうことか」を問うことが出来る存在
    • ダス・マン…周囲に合わせて行動し、主体性を喪失した、没個性的な、誰にもあてはまる既製品のような人間へと頽落した人間。
    • 死への存在…現存在としての人間は「死への存在」であり、死という有限性を自覚することによって、本来の自己の生き方である実存に達する。
    • 存在の忘却…不安から目を逸らし、逃避や気晴らしのため、日常生活に埋没し、おしゃべりにふけり、好奇心の虜になり、曖昧さに安住している。

3.精神分析

  • フロイトの意義
    • 従来の近代西洋の伝統的人間観では「意識」を人間存在の本質と見なしていた。デカルトの「我思う故に我あり」。しかしフロイトは人間の自我は「無意識」に支配されていると提唱したため、衝撃を与えた!!
  • ②無意識と精神分析
    • 近代の理性主義は、生命体としての人間の「内なる自然」(感情・衝動・本能など)を抑圧し、統制する→人間とは「理性」だけが全てなのか?→「無意識 」に着目!!
    • 精神分析学…人間の行動や神経症を、深層心理を解明することによって説明し、治療しようとするフロイトの創始した理論。
  • ③心の三層構造
    • フロイトは、エス超自我・自我によってココロの全体を説明しようとする。
    • a.エス…生命体を支える原始的で野性的な本能の領域。エスには人間を突き動かすリビドー(性衝動)が渦巻いており、快楽原則に従うように自我に働きかける。
    • b.超自我…両親の教育などによって刻み込まれた社会規範の領域であり、自我を統制し、エスを抑圧する。
    • c.自我…エス超自我の働き、外界からの刺激などを調整する働きを担っている。

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4.20世紀絵画

  • キュビスム(立体派)
    • 色々な角度から見た形を一つの面に描く。ルネサンスから始まった一つの視点から対象物を描く遠近法を否定し、複数の視点から見た形を一つの画面で再構成するもの。代表者:ピカソ、ブラックなど
  • ②フォービスム(野獣派)
    • 強烈な色彩と奔放なタッチの絵が「野獣の檻」と批評されたことに由来。自然主義的な対象の模倣を否定し、色彩自体が持つ美的な効果に従って、自己の主観的な感情を色彩そのものによって自由に表現した。
  • シュールレアリズム(超現実主義)
    • 理性的な論理、社会の秩序や道徳を否定し、人間の持つ非合理な本能や欲望を表現しようとする。芸術によって理性の支配する現実を超越し、社会の既成の価値観を覆そうとした。代表者:ダリ。

5.現代科学

(1)自然科学の発展

  • 20世紀の文明 → 自然科学の進展により形成
  • 新しい科学知識 → 現代文明をつくりあげる
  • 20世紀前半 理論面 → 20世紀後半 実用化され、人々の生活に影響を与える。

(2)物理学・生物学・医学の発展

  • ①物理学
  • ②生物学
    • a)生化学…化学の理論と方法に基づき生命現象の解明を目指す学問。1970年に蛋白質の合成に成功
    • b)バイオテクノロジー…生命工学。生命・生物の機能を効果的に利用することを目的にした学問分野。遺伝子の構造を解析し、品質改良や病気の予防・治療にも応用されている。
  • ③医学
    • 抗生物質…微生物の発育・機能を阻止する物質。ペニシリンをはじめとして現在までに約1000種が発見され化学療法や農薬に利用されている。

(3)交通技術・情報機器

  • ①交通技術
    • a)航空機…1903年にライト兄弟が初飛行に成功。WWⅠで兵器として発達し、WWⅡで主兵器となる。
    • b)ロケット…噴射式推進装置。WWⅡ中にV2号という軍事用ロケットがドイツにより開発された。戦後の1957年、ソ連人工衛星スプートニク1号の打ち上げに使用して広まった。
  • ②情報機器
    • a) エレクトロニクス(電子工学)…電子を利用した技術や学問
      • トランジスター…1948年アメリカで発明。真空管に代わり、電子機器の主要部品。
      • 集積回路半導体により可能になった多数の電子部品を狭い基盤に組み込んだ回路。
      • IT革命…情報技術の普及によって引き起こされた社会の急激な変化。
    • b)化学工業…ナイロンやプラスチックなどの人口素材が開発された。

(4)先進工業国の特徴

  • ①産業構造の転換…重厚長大型原素材工業を基軸とする産業構造から、自動車・コンピュータなど付加価値の高い製造業と、金融・流通・サービス産業などへと移行している。
  • ②階級の変化…工場労働者・農民層が減少、高等教育を受けたホワイトカラー層(中間層)が中心。
  • 高齢化社会…平均余命がかつてないほどのびる一方で、出生率は急激に減少したために現れるようになった社会。これまでの家族観やライフ=サイクル観の基礎を掘り崩している。

6.現代文明による危機

(1) 人口爆発

  • 発展途上地域では人口増大。途上地域から先進地域への人口移動が起こり、社会構成に影響。2050年頃には世界人口は100億に達すると予想されている。

(2)環境問題

(3) 地球市民

  • 現代文明の危機を国民国家や地域の枠に捉われずに考えることが求められている。

7.現代大衆文化

  • 大衆消費社会…大量生産、大量消費のシステムにより一般大衆に消費文明が行き届くようになった社会
    • 大都市を舞台に大衆向きに作られた娯楽・余暇文化が登場 ⇒現代大衆文化を形成
      • 映画…1895年、仏のリュミエール兄弟によってサイレント映画が上映。その後トーキー(音声入り映画)やカラー映画へと技術が進歩し、映画産業が確立された。
      • ミュージカル…歌とセリフと踊りで構成される舞台芸術
      • ジャズ…黒人音楽を起源とするアメリカ音楽。
    • ※現代大衆文化は他の文化潮流を排除するわけではなく、過去の文化の再評価、世代別の文化への理解が広がり、多文化共存の方向が模索されている。