雑録

倫理 応用倫理【5】異文化理解と人類の福祉

【目次】

1.異文化理解と倫理

1-1.文化の多様性

  • 人類の集団形成と文化の発生
    • 文化とは何か?→人類が「一定のまとまり」を形成して暮らすようになった際に発生する、その成員が共有する生活の知恵や様式の体系のこと。
      • 地域のまとまりには地域文化、民族のまとまりには民族文化がある。
  • 言語
    • 現在の世界には5000~8000の言語がある。言語を民族を数える尺度とすると、それに対応した数の民族文化があることになる。
  • 多民族国家
    • 国際社会における独立国家はおよそ193ヵ国。言語や民族の多様性はその中に収まりきらない。ほぼ全て国家は、内部に複数の言語・民族を抱える多民族国家である。
  • 多民族国家・日本
    • 単一民族国家日本…かつて日本は大和言葉を話すヤマト民族の単一民族国家であるという言説が過去にあったが、現在では否定されている。
    • 国民国家と帝国の形成により日本国に帰属することになった人々…アイヌ、旧琉球王国、半島・大陸など。現在日本国には複数の民族が定住し、それぞれ民族固有の文化が存在している。
    • 外国人労働者…自国より高い賃金を得るため日本に入国する外国人労働者数の増加、1980年代後半から国内の大都市や地方都市の一部で外国人コミュニティが形成されている。
  • グローバリゼーションとその問題点
    • 多文化状況…人、モノ、情報が国境を越えて大量に行き交う時代にあって、異文化同士が接触する機会がかつてないほど頻繁になっている状況。
    • 文化摩擦…多文化状況のなかで異文化への無理解から生じる緊張や葛藤のこと。民族の紛争や対立を煽る一因となるため、異文化を理解するための努力をしなければならない。

1-2.多文化状況の倫理

  • 文化の要素
    • 言語・制度・技術・宗教・価値観など
  • カルチャー-ショック
    • 異なる文化に触れたときの違和感。人は自己が生まれ育った文化の中で常識や価値観を身につけ、その文化を自明のものとして感じるため、異なる文化は不可解で常識外れに感じられる。
      • cf.サイード(E.Said,1935-2003)…一見、客観的な見方と思われている東洋・西洋という区別も、じつは西洋近代中心の東洋のとらえ方(オリエンタリズム)がつくりあげたものであると主張。
  • エスノセントリズム
    • 語義…自分の身についた民族文化を無意識のうちに絶対視し、自己中心的な尺度で異文化をとらえようとする見方
    • 弊害…自分たちの文化を受け入れない者を差別・排除する同化主義が発生する。日本では文化の同質性が比較的高いとされるため、単一民族国家であるという固定観念にとらわれ、異民族・異文化に対して非寛容的な態度に陥る。
  • 文化相対主義
    • 文化人類学の分野でレヴィ-ストロースが提唱。いかなる文化も、人々の生きる環境の違いに応じて、歴史的に多様に形成された固有の価値を持つとする見方。
  • 多文化主義
    • 文化の違いを積極的に認め、互いに尊重し合おうとする立場。
    • カナダ…二言語・多文化政策。国内にある複数の民族文化の混在を積極的に肯定することによって社会の統合を図ろうとする。
    • オーストラリア…かつては有色人種を移民として受け入れない人種差別政策「白豪主義」をとっていたが、1970年代以降転換して異文化との共存を尊重するようになった。移住者のもつさまざまな言語・文化を尊重し、維持していくことは自国の文化を豊かに発展させることに寄与するとの観点を唱える。

2.人類の福祉

2-1.人類の福祉

  • 利己主義的自由競争の末路
    • 他者との関係を考慮せず、各人がひたすら自己の利益・幸福を追求すれば、さまざまな利害の衝突が生じる。そして、生命や財産を脅かされたり自己の実現を抑圧されて差別や不平等なあつかいを受けたりする人々が生み出される。
  • 社会全体の福祉
    • 利己主義的自由競争がもたらす不均衡を是正し、すべての人のよき生を実現するために必要な観点
  • 福祉国家の誕生
    • 資本主義の弊害が社会主義国を生んだため、その対応として資本主義諸国が福祉国家化する。
    • 憲法や法律で個人の自由や権利が保障される一方、すべての人々が実際に人間らしい生活を営むことができる社会の実現がめざされる。
    • 社会保障や福祉の制度がさまざまなかたちで取り入れられる。
  • 搾取と貧困と不平等
    • 栄養不足人口9億人以上。食糧不足の原因は内戦、政情不安、自然災害、過放牧、過耕作にともなう環境破壊など複数の要因が絡み合って生じる。当事国のみで問題を解決することは困難。
    • 経済のグローバル化により一国・一地域の経済不安がたちまち世界全体に広がっていくので貧困や不平等の問題は解決が目指されなければならない。
      • 1974年の国連総会では、後発発展途上国(最貧国)と認定した国に対する特別の配慮を要請している。
  • 南北問題と国際協力
    • 先進国と途上国の経済格差(南北問題)を是正するためには、先進国の経済力・技術力にともなう国際協力が必要。

2-2.自立を支援する国際協力

  • ODA(政府開発援助)
    • 特徴…日本の援助の特徴は道路・鉄道・港湾・発電所などのインフラストラクチャー(社会資本)の整備。
    • 問題…環境破壊や資源の浪費をまねき、住民生活の生活向上につながらない。
    • 課題…感染症対策、初等教育の普及、人材育成など支援の内容が多岐にわたり、環境問題など地球的規模の課題に協力してとりくみ、解決をめざしていくことが求められる。
  • アマルティア・センと潜在能力
    • センはインドの経済学者。ベンガル大飢饉の経験から飢餓や貧困問題に取り組み、1998年ノーベル経済学賞
    • 現代世界における貧困の解決、富の分配の不平等を研究し「潜在能力」を唱える。各人がよりよい生き方をみずから選んでいく自由(潜在能力)がどれだけ確保されているかという観点を重視し、福祉をとらえ直す。
    • センの考えは、善き生(well-being)を、「生き方の幅」を基準にはかることによって、人々の生きる環境や能力の多様性に即した福祉の在り方を目指そうとするもの。

2-3.福祉の実現のために

  • 人権とは?→すべての人間が生まれながらに等しく有する基本的権利
    • 現代世界でも人権は保障されていない…地域紛争や不安定な政情、人種や民族、宗教的な理由により差別や迫害を受ける。
  • 日本国憲法」前文
    • 「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたい」
      • →日本の社会の一員として、人類の平和と福祉に貢献する道を求めていく。