雑録

【文献サーベイ】呉市海事歴史科学館 研究紀要の分析

博物館には4つの機能があり、それは①調査研究、②収集、③保存、④展示である。
博物館では調査研究が行われており、その成果は紀要で報告される。
すなわち研究紀要を分析すれば、その館がどのような研究をしているのかが分かるのである。
科学ショーのイベント報告などを除くと紀要には現時点(第14号まで)で64本の投稿がある。
ここでは創刊号から第14号(2020)までを対象として分類・整理していく(項目内のソートは年代順)。
なお創刊号は『大和ミュージアム研究紀要』、2号以降は『呉市海事歴史科学館研究紀要』となっている。
Ciniiや国会図書館サーチでは別雑誌扱いなので検索では注意が必要である。
※(大和ミュージアムは厳密には登録博物館でも博物館に相当する施設でもない)

【menu】

1.大和研究

  • メモ
    • 大和ミュージアムだから、さぞ大和関係の論文が多かろうと思うが実はそうでもないことが分かる。継続して調査している研究者もおらず、対象とする分野もバラバラである。
  • 艦艇研究
  • 艦内整備・訓練
    • 桑原功一「就役からミッドウェー作戦出撃までの戦艦「大和」の艦内整備・訓練の展開過程~電路員 樫内 清 一等水兵の活動を通して~」(『大和ミュージアム研究紀要』1号、2007)
  • 対外関係
  • 沖縄戦
    • 石本正紀「戦艦「大和」沖縄特攻生還者の回想録―細谷太郎「戦艦『大和』の思い出」―」(『大和ミュージアム研究紀要』1号、2007)
  • 潜水調査

2.工廠・造船・造兵・艦艇研究

2-1.海軍工廠関係研究

  • メモ
    • 海軍工廠関係のテクストを読むとしばしば見られる千田先生による投稿が主である。千田研究は2010年代前半を牽引した。タイトル中「果たした役割」シリーズが3本あり、歴史的意義を強調する系統となっている。
    • 2017年から投稿を始めた濱名氏は3年続けてノモンハン研究を行っていたが、2020年は一転して海軍工廠をテーマとしている。題材となるのは「一等輸送艦建造ヲ顧ミテ」という史料を用いた戦時下の研究である。
  • タイトル

2-2.造船所研究

  • メモ
    • 工廠の研究を行っていた千田先生だが、2015年には関心が私立の造船所に移っていることが分かる。翌2016年には市川氏が白峰造船所の研究テーマを継承したが、その後は続かず造船所研究は手付かずのままである。
  • タイトル

2-3.造船研究

  • メモ
    • 研究紀要2号で行った資料収集に関する報告をベースにして造船の研究を展開している。内容としては造船の進化、欧米と日本の造船風土を扱っている。
  • タイトル

2-4.艦艇研究

2-5.航空関係研究

  • メモ
    • 2020年度の企画展のテーマとなった航空機に関する研究。主に広海軍・第11海軍航空廠を題材とする。特に久保研究では鋳物に関心があるようだ。
  • タイトル

2-6.兵器研究

  • メモ
    • 大和ミュージアムの兵器展示のうち2つある特攻兵器のうちのひとつ「回天」に関する研究。(もう一つの特攻兵器は「海龍」後期量産型であるが、この研究は無い)。常設展示で兵器資料も展示されているのに回天しか論文が無い。今後の研究が待たれる。
  • タイトル

3.軍縮研究

3-1.高橋論文

4.海軍に関する諸研究

  • メモ
    • 単発で終わってしまった海軍に関連する諸研究。継続して研究されれば充分発展した分野かもしれない。個人的には海軍軍事普及部の研究が気になる所である。
  • 海軍技術史
  • 海軍軍事普及部
  • 海事研究についての研究
    • 臼井敏夫「ネット時代の「海事」研究―キーワード「ランドサット8」[AIS]―」(『呉市海事歴史科学館研究紀要』8号、2014)
  • 人物史
  • 戦地における兵士の行動
  • 補給
  • 医療

5.軍港都市とその遺産

  • メモ
    • 呉が軍港となったことでもたらされた軍港都市から派生した諸関連事業に関する研究。現在の段階では、音楽、近代化産業遺産、軍港周辺諸施設、建築がテーマとなっている。呉は日本遺産になったこともあり、盛んに研究されるであろう分野。
  • 音楽
    • 桑原功一「昭和初期、呉における『新日本音楽』運動の展開~元呉海兵団付軍楽長河合太郎の『新日本音楽』に関する提唱を通してみる~」(『呉市海事歴史科学館研究紀要』2号、2008)
  • 近代化産業遺産
  • 建築・住宅

6.近世文書研究

6-1.杉山論文

  • メモ
    • 2020年の時点で投稿数6本。2015年から欠かさず投稿しているので、将来的に論文数では高橋論文を超えると思われる。その研究の特徴としては近世文書を扱うことが挙げられ、主に幕末維新期の瀬戸内海に関するテーマが扱われる。6つの論文のうち半分が「死亡構造の特質」に関する研究であり人間の死に興味関心があることが窺われる。その他にも在村鉄砲やじゃこう虫などを扱うなど大和ミュージアムの研究の中では異彩を放っている。
  • タイトル
    • 杉山聖子「幕末・明治初年の瀬戸内沿岸部における死亡構造の特質―入船山記念館寄託の寺院関係文書を材料として―」(『呉市海事歴史科学館研究紀要』9号、2015)
    • 杉山聖子「『芸備日報』にみる呉鎮守府建設工事期の地域社会」(『呉市海事歴史科学館研究紀要』10号、2016)
    • 杉山聖子「明治前期の瀬戸内沿岸部における死亡構造の特質―入船山記念館寄託の寺院関係文書を材料として―」(『呉市海事歴史科学館研究紀要』11号、2017)
    • 杉山聖子「広島藩における在村鉄砲の実態―呉市広図書館所蔵の広村近世文書を材料として―」(『呉市海事歴史科学館研究紀要』12号、2018)
    • 杉山聖子「明和・安永期の瀬戸内沿岸部における死亡構造の特質-入船山記念館寄託の寺院関係文書を材料として-」(『呉市海事歴史科学館研究紀要』13号、2019)
    • 杉山聖子「近世広村における農業害虫の発生と防除について-広村近世文書にみられる「じゃこう虫」を事例として-」(『呉市海事歴史科学館研究紀要』14号、2020)

7.北東アジア研究

7-1.ノモンハン研究

  • メモ
    • 濱名氏は史料「昭和十四年 参本情報記録『ノモンハン』事件関係綴」に強いこだわりがあるようで3年連続この史料を用いた論文を投稿している。2020年からは海軍工廠の研究に移ったため、読んでいる史料が変ったことが窺われる。海事歴史科学館の研究紀要にも関わらず日本陸軍や対ソ戦に関する論文を投稿して通ったことがまず驚き。ノモンハン事件における海軍の役割などが気になるところである。
  • タイトル

7-2.満洲研究

  • メモ
    • 単発で終わってしまっているが、満洲国はソ連との国境線であり、日本海軍がどのような関りを持っているかが解き明かされることは重要かと思われる。特に河川を国境としていたのだから、満洲国と日本海軍の関係は研究の余地がある。
  • タイトル
    • 石本正紀「駐満海軍部「乾岔子島方面蘇軍不法越境事件報告」」(『呉市海事歴史科学館研究紀要』2号、2008)

8.博物館学

8-1.博物館経営論

8-1-1.博物館評価論
  • メモ
    • 博物館の評価に関する齋藤氏の研究。ここでは来館者の導線を研究しているが、アンケートによらない独自の評価方法を実施しているところに特徴がある。
  • タイトル
8-1-2.アンケート分析
  • メモ
    • 来館者にアンケートに関する研究。大和ミュージアムそのものに関するアンケートと企画展に関するアンケートが1つずつある。アンケート分析が継続されず2本で終わってしまったところが気になる。
  • タイトル

8-2.収集

8-3.展示

8-4.教育普及

8-4-1.博学連携①授業実践
  • メモ
    • 学習指導要領において、歴史教育が紙面上の用語の羅列に陥らないように博物館利用などの博学連携が唱えられている。そのため博学連携は重要な研究分野なのだが、研究蓄積は少ない。この研究は教職志望の学生によるものであって、恒常的に教員が大和ミュージアムを学習活動に使っているわけではない。呉市の小中高の歴史教育において体系的に学習できるような取り組みが必要である。
  • タイトル
8-4-2.博学連携②教育旅行研究
  • メモ
    • 教育旅行というと学芸員たちが研究のために旅行してその報告をしていると一瞬思われてしまうかもしれないが、それとは逆で大和ミュージアムに修学旅行などでやってきた学生などを対象にした研究である。博物館を訪れた学生たちが何に興味関心を示し、どのようなことを楽しいと感じ、何を学んだのかということをアンケートで分析している。2009年の紀要で報告された後、空白期間が10年間あったが、2019年から突如復活している。
  • タイトル
8-4-3.普及・啓発・継承
  • メモ
    • 博物館は社会教育施設の側面を持つため、教育・普及事業は重要である。文化財を次世代につなげていくためには、研究を掘り下げなけらばならない分野であろう。
  • タイトル

9.雑感

  • 満洲国などの帝国外地における日本海
    • 満洲国は日ソ間の国境地帯とされたので、国境地帯の視察観光なども盛んにおこなわれており『満洲グラフ』では江防艦隊なども特集されることが多かった。日ソ(満ソ)国境地帯における海上警備などにも日本が関わっていたので、これを解き明かすことは意義があることだと思われる。
  • 海軍軍事普及部
    • 帝国日本において軍部は民衆の支持を必要としていた。そのため軍事普及部が啓発活動を行ったわけだが、具体的にそれが軍港都市呉にどのような影響を及ぼしたのかを研究することは意義があると思われる。
  • 戦後呉市に関する研究
    • イギリス連邦による進駐や旧軍港都市転換法による平和産業港湾都市の形成は戦後呉市において重要な社会的事象である。そのため進駐軍が与えた影響や、旧軍港都市からどのような都市開発を目指していったのかを研究することが求められていると思われる。
  • 近代化産業遺産・博学連携・普及啓発に関する研究
    • 呉市は日本遺産として旧軍港都市であることを押している。そのため海軍施設が設置されたことにより形成された諸遺産とそれらが現代においてどのように観光の対象となっていったかは研究しなけれなならない。また博学連携として学校教育における授業実践として大和ミュージアムを用いることもまた肝要である。そして普及啓発活動としてどのようなことを行っておりそれらがどのような効果を及ぼしているかは整理体系化しておかねばならないかと思われる。