雑録

旧軍港都市呉における観光案内所にみられるコンテンツツーリズム

観光案内所、それはその都市の魅力を観光客や市民に提供する場所です。すなわち、観光案内所を見れば、どのようなものが観光資源としてアピールされているのかが分かると言えるでしょう。

では旧軍港都市呉には海軍遺構しか観光資源が無いのでしょうか?また海軍遺構を紹介するとしたらどのように提示しているのでしょうか?公式の観光案内所であれば、様々なニーズに応じた都市の魅力というものを提供しているはずです。そう考えた我々調査班は観光案内所まで飛びました。

ここではその時の所感をまとめておくこととします。

呉市において海軍遺構以外の観光資源としては、音戸の瀬戸平清盛、御手洗の北前船、下蒲刈朝鮮通信使が有名ですが、呉市中心市街地から徒歩で移動するのは難しいかと思われます。

1.この世界の片隅に

f:id:r20115:20210303201703j:plain:w600
呉市の観光案内所で一番推されていたのが、『この世界の片隅に』でした。まず目につくのがポスターです。いたるところに貼り出されており、相当力を入れていることが分かります。案内所内部においてもまた、①「原作者によるロケ地マップ」の他に、②お手製の旧澤原家住宅及び巡洋艦青葉終焉の地への行き方マップ、③すずさん家案内地図の特集コーナーがありました。それらは窓口に申し出ればそれを貰うことができます。また、るるぶの特別版として呉市を扱った薄い冊子が無料配布されているのですが、そこでも『この世界の片隅に』の聖地巡礼が特集されていた。すずさんが暮らした家は実際には存在しないのですが、存在しない場所が「聖地化」され巡礼の対象となっていることが特筆すべき事項として挙げられるでしょう。尚且つすずさん家までの行き方が観光コースとして整備されていることが印象的でした。

2.海猿

f:id:r20115:20210303201509j:plain:w400
観光案内所の受付で『この世界の片隅に』のロケ地マップ等一式を貰った時に、海軍遺構以外の観光スポットはありますか?と聞いたら、紹介されたのが『海猿』です。曰く、海上保安官の潜水士になるために頑張るお話とのこと。『海猿』では訓練で階段ダッシュをするらしいのですが、そのロケ地となったのが「両城の200階段」であり、急な角度と段数が観光スポットになっているそうです。『海猿』は海自ではなく海上保安官が題材だが、海上保安大学校の煉瓦ホールは日本遺産でもある旧呉海軍砲熕部火工場機械室であるので、ここでも海軍遺構とは切っても切り離せないと言えるでしょう。

3.男たちの大和

f:id:r20115:20210303201520j:plain:w600
男たちの大和』は沖縄特攻の際に生き残ってしまい自罰意識に苦しんでいるおじいさんが主人公です。しかし生き残ったのはそのおじいさんだけではありませんでした。戦後、生き残った海軍軍人に育てられた養女という人物がメインヒロインです。この女性によっておじいさんは自分以外の生き残りの半生を知ることになり、最終的に救済されます。そしてメインヒロインが大和沈没地点に養父の遺灰を撒くというストーリーになっています。大和が主題であるため、戦艦大和戦死者之碑がある長迫公園(旧海軍墓地)はもちろんのこと、大和ミュージアムアレイからすこじまなど色々な場所が聖地となっています。旧海軍遺構群は日本遺産と重複する部分があるので、『日本遺産のまち 呉~歴史散策マップ~』を貰うと良いと思われます。観光案内所では何故かマンホールカードをとても推されました。

4.艦これ

f:id:r20115:20210303201528j:plain:w600
選定基準がキナ臭いことで有名な「アニメ聖地88」。呉市は『艦これ』で聖地に認定されているのですが、驚くほど『艦これ』の「か」の字もありませんでした。呉鎮130年コラボの時には大々的に取り上げられていたのでそれなりに何かあると思っていましたが、ポスターもパネルもロケ地マップも何もないな!かろうじてアニメ聖地巡礼記念のスタンプが受付の前にひっそりと置いてあることくらいでした。スタンプ台の前には遣唐使船の模型がデカデカとあり、ちょっと気づきにくいかもしれません。地元の一部の有志商店は『艦これ』を主軸とした振興策として「呉趣印巡帳」なるものを発行しており、提督たちの周遊を生みだしている(生み出そうとしている)のですが、観光案内所にチラシすらありませんでした。

5.海自カレー

f:id:r20115:20210303201533j:plain:w600
海自の艦船で食べられているカレーと同じものがお店でも食べられる!ということで有力コンテンツとなったのが「海自カレー」です。観光案内所は商品引換所となっておりフルコンした人々の写真が展示されています。しかしフルコンすべく30か所も回るのはなかなか難易度が高く、さらには公共交通機関で行けないゴルフ場とかにも設置してあるのでハードルが高すぎます。せめて観光施設ならついでに回れるのでいいのですが、カレーだけ食べにゴルフ場へ行くのか!?(一応救済策としてシールの枚数に応じた景品が貰える仕組みなっています)。そしてこの海自カレーは主導権をめぐり市役所と観光協会がガチで対立していることでも有名となりました。これまでは市役所・観光協会・飲食組合などによる「大和のふるさと呉」グルメキャンペーン実行委員会が海自カレーの事業を担ってきました。しかし市は2020年夏にこの委員会から退くと共に2021年2月3日に新たな委員会を設立したのです。それが「呉海自カレー・呉グルメ実行委員会」であり、市役所・商工会議所・広域商工会などから構成され海事呉地方総監部もオブザーバーとなっています。この二つの実行委員会が今後どのような戦いを繰り広げることになるのか、注目が集まっています。