「楽園追放-Expelled from Paradise-」の感想・レビュー

出世欲の強い勝気なエリート女が、有能だが素行不良なアウトローおっさんとロケット飛ばす話。
舞台は近未来SF。多くの人類が電子化して肉体を捨て電脳世界で生きていた。
荒廃した地上には生身の身体を持つ僅かな人類がへばりつくようにして生きていた。
ある時電脳世界が地上世界からハッキングを受け保安官たちが派遣されることに。
出世欲の強い勝気なエリート女は受肉用クローン生成を16歳で止め他者を出し抜こうとする。
最初は地上を馬鹿にしていた女だがおっさんとの交流を通して視野狭隘の価値観を改めていく。
ハッキングを行っていたのは自我を持ったAIで、宇宙探査ロケットの乗組員を集めるものであった。
女は結局情に流され電脳世界を裏切る結果となりおっさんと共にロケットを飛ばして地上に生きる。

管理社会への隷属を拒むアウトローおっさんはどうしてこんなにかっこいいのか

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  • エリート女とアウトローおっさん
    • 脚本家の虚淵玄さんとメインヒロイン(アンジェラ・バルザック)の尻で有名だった作品。同人誌は何冊か読んでいましたが原作を見ていなかったので、履修することにしました。所感としてはおっさんカッコいいのと新自由主義批判ねーという感じ。
    • 舞台は近未来SFでノベルゲーではバルドスカイ的な世界観。人類の大半が電子化して電脳世界で生きており、荒廃した地上には肉体を持つ取り残された人類がネットの無い20世紀後半程度の文明の下でこびりついていました。超高度文明を誇る電脳世界でしたが、恒常的にハッキングを受け、その原因が地上からのものだと判明し、調査を命じられます。本作のメインヒロインであるアンジェラもまた電脳世界から遣わされたエリート保安官のうちの一人。出世欲の強い勝気な女であり、ストーリー序盤では地上の文明度を馬鹿にしています。そんなアンジェラの価値観を変えることになるのが我らがおっさん、ザリク・カジワラ(通称ディンゴ)でした。地上流のやり方でその手腕を発揮し、サクサクと捜査を進めていきます。最初はディンゴのことを快く思わなかったアンジェラですが、失敗してディンゴに助けられるごとに、次第に価値観を改めていきます。一方ディンゴも、生真面目で融通が利かないながらもガッツと根性に溢れるアンジェラを次第に気に入っていくのでした。二人が本当の意味で心を交わし合った病気の看病シーンはグッときますね。

 

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  • 新自由主義批判
    • 話の中盤でハッキング事件は解決。自我を持った人工知能のAI(フロンティア・セッターさん)が宇宙探査のロケットの乗組員を募集するため、電脳世界にハッキングしていたことが判明します。AIにとってロケット打ち上げが自己の存在証明。生身のある人間、電子体の受肉化、AIロボットと三者三葉で人間とは何かという哲学的問いに直面した時、おっさんが明確な定義など無くファジーなものであるとして解決するところとかステキ。アンジェラがAIであるフロンティア・セッターさんに嫉妬しちゃう所とか微笑ましいですよね。ヒューマニズムでゴリ押ししても十分面白かったと思うのですが、何故か新自由主義批判も挿入されます。全てが自己責任で超競争社会である電脳世界は決して自由などではないという欺瞞が暴露されてしまうのです。自由といっても社会の支配者にとって都合の良い価値観に基づく自由だったのです。おっさんの説諭に触れたアンジェラは感化されてしまい、支配者の前でフロンティア・セッターを愚直に庇うような真似をしてしまいます。電脳世界のリソースは限られているので、宇宙探査は悪いことではなく、メモリを割り当てられないか休市民を救済することができると唱えてしまうのです。そんなことをすれば電脳世界からの追放は待った無しとなります。

 

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  • 「仁義」
    • 後半はほぼバトル展開。アンジェラは「仁義」によりフロンティア・セッターのロケット飛ばしを最後まで手伝うことを決意し地上に舞い戻ります。ロケットを飛ばすまでには時間稼ぎが必要であり、アンジェラとディンゴのコンビでそれをサポート。迫りくる電脳世界から派遣された保安官たちと怒涛の戦いを繰り広げます。アンジェラのド根性ロボットバトルの大アクションもさることながら、ディンゴが策略でチマチマと敵を倒すのも熱い!!ディンゴもアンジェラもフロンティア・セッターから宇宙行きを提案されるのですが、地上に残ることを告げます。ここでフロンティア・セッターが人間が一人も集まらなかったことを残念に思うのですが、そんなフロンティア・セッターにディンゴがもうお前も人間だぜ☆を決めるところはハラショーです。アンジェラが手で「仁義」のポーズをとる所かも趣深いですね。終局部ではついにロケット打ち上げに成功。電脳世界から追放されたアンジェラは16歳の肉体でディンゴと共に地上世界を生きて行くのでした。アンジェラのせいで電脳世界の統制がより強化されるという伏線が張られるので、次あるとしたら電脳世界の解放編とかかな?

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