雑録

『恐山ル・ヴォワール』の感想・レビュー

無意識に発動する読心術に苛まれ鬼を生み出してしまう少女を解放する話。
出雲の名門麻倉家に生まれた葉は、双子の兄に転生してきた陰陽師ハオと戦う運命にあった。
それ故、嫁には高い霊力の持ち主が求められておりイタコのアンナがその候補の一人となる。
だがアンナは霊障により重い過去を背負っており排他的な人格が形成されていた。
頑なに心を閉ざす少女を、霊能による孤独を「ユルさ」で乗り越えて来た少年が救う。
人間の社会集団に排斥されてきた葉とアンナが心を交わしていく過程がグッとくる。

恐山ル・ヴォワール un1

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  • 社会集団からの排除による孤独とその解消
    • 出雲の名門霊媒師一族の家系に生まれた麻倉葉。10歳の冬休みに突如として許嫁が決まり、猫又のマタムネを連れて青森の恐山まで会いに行くことになります。恐山ル・ヴォワール第1話の前半では葉とマタムネの友情が中心となります。葉は柳のようなユルい性格をしていましたが、それは彼なりの処世術。霊媒師一族の生れであることは当然学校でも知れ渡っており、孤独を深めることとなります。そんな孤独に耐え抜く答えが「ユルさ」だったのでしょう。葉のユルさの中に寂しさを見出し、それを指摘するマタムネが今回のハイライト。上野から青森までの寝台特急にはしゃぐ葉を見たマタムネは、葉に友達がいないことを指摘し、斬りこんでいきます。
    • 普段はユルい葉ですが、マタムネの問いには真剣になり、自らがシャーマンキングを目指す動機を言語化することになります。その根源は人間の社会集団からの排除による孤独。人間は群れを形成する生き物であるため包摂と排除の原理が働き、異質な他者を創出してそれを排除することで結束を高める生命体です。葉もハオもアンナもその他シャーマンな皆さんもこの霊的異能により排除されてきた存在なのですね。この排除と孤独を何とかしたいという葉の行動原理が、この後、アンナとハオを救済することになります。マタムネとの会話の中で、あらかじめそれを視聴者に提示しておくという巧みな方法。ハオが排除と孤独の解消のために世界を滅ぼそうとしたのに対し、葉が友情と仲間と家族愛を提唱していくという構図です。
    • 後半からはいよいよアンナ様の登場です。アンナは強い霊力を持つが故、常に読心術が発動し他人の心の中が流れ込んできてしまうという霊障に苦しめられてきました。さらにその霊障により鬼を生み出してしまい周囲の者に危害を与えてしまうのです。これらにより人と交わることができなくなったアンナは孤独を深め、その性格はツンデレ、いやツンドラと化していったのでした。マタムネの粋な計らいにより、初めての出逢いが演出されたのですが、開幕から死ねと暴言ラッシュを食らい、葉は半泣き。二人の出逢いはまさに衝撃的なものとなりました。アンナが読心術から解き放たれ鬼を生み出す苦悩から解放されるには、葉との情を重ねることが必要となってきます。ツンドラが解かされていく展開は大変素晴らしいものとなっております。

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恐山ル・ヴォワール deux2

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  • 人間の心の汚さと悪意による絶望
    • 今回はハオとアンナは同じ能力を持ち、同じ境遇に陥ったことが語られました。アンナは第二のハオであったかも知れず、だからこそハオは自分の嫁(というか母の代わり)としてアンナを求めていたという伏線になります。猫又のマタムネは子猫時代に平安陰陽師であったハオに拾われた恩義がありました。ハオに非常に良くしてもらったことが匂わされています。しかし霊能力により人の心が流れ込んでくるハオは平安貴族の権力闘争の中で人間の心の闇に直面し、闇落ちしていきます。マタムネはそんなハオの心を自分では救えなかったことを悔いているのです。闇落ちした平安時代のハオは、500年後にパッチ族として転生しシャーマンキングの座を狙います。しかしそれを阻むんだのがマタムネと麻倉葉賢であり、この二人に討伐されたハオはまたもや500年後に転生。その現代での転生先には自らの血統である麻倉家を選び、葉の双子の兄として生まれ来たのでした。
    • マタムネにとってハオを救えなかった悔恨は、同じ境遇であるアンナに向くわけです。マタムネ自身が救われるには、アンナを救わなければならないという寸法。一方でそんな事情を全く知らない葉は、着実にアンナとフラグ構築を進めていきます。アンナは自分が葉の妻には相応しくないと思い、身を引くことを告げるためにお土産屋さんまでやってきます。アンナは外にでると他者の心を読み取り鬼を生み出してしまうため、外に出ることを極端に嫌がっています。そんなアンナが葉に自ら言葉を告げるために外出していると考えれば何といじらしいことではありませんか。葉に他の嫁の候補を娶るように言い、愛に来てくれてありがとと感謝を述べる所が今回のクライマックスです。葉も最初はアンナが鬼をけしかけていると疑いますが、そうではないことを知り、鬼に立ち向かうことに。鬼の話を聞いても逃げずに立ち向かっていく葉の姿は、アンナにとって自らと向き合ってくれる存在としての象徴でもありました。アンナの恋情の発露は鬼を掻き消し葉の窮地を救ったのでした。

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恐山ル・ヴォワール trois3

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  • 他者からの受容と存在承認
    • 鬼を生み出していたアンナが葉の危機を目の前にして鬼を消すことに成功した!このことは二人の距離を縮めることに繋がり、二人で紅白を見る所まで接近。二人のお目当てはボブとあわやりんご。葉にとっては父親幹久との唯一の絆がボブ。出産の際、ハオを取り逃がした幹久は自分の無能を悔い修行に明け暮れることになりますが、当然家庭を顧みることはなくなります。葉にとって父親の思い出は、残されたレコードに縋るしかなかったのです。一方で、あわやりんごは自分の臆病な心を衣装と曲調で武装しており、これはアンナの共感を生んでいました。あわやりんごの良さを熱弁するアンナに対し共感と理解を示す葉。そしてアンナの読心の異能の苦しみを受け入れ「なんとかなる」の自論を説きます。そしてシャーマンキングになってアンナを救うと誓うのでした。ここで恐山ル・ヴォワールの第1話の葉の目的と繋がり、社会集団から排除される孤独を癒す手法に接続されるのですね。
    • 葉の献身を訝しみに対して疑念を持つアンナ。ここで読心術の異能が生きてきます。そう、葉がアンナに対して好意を抱いているからこそ救いたいという下心的な下卑た感情が筒抜けになってしまうのです。ビンタして部屋から出てふすま越しになる葉アンナ。「殴った右手がやけに熱い」というアンナのモノローグが今回の最大のクライマックス。そんなアンナに対して葉は初詣に行こうとデートのお誘い。普段鬼を生み出してしまうので外出したくてもできないアンナにとって、この誘いは垂涎のものでした。コンビニコミック版では葉アンナがたこ焼きを食べているシーンがあるのですがアニメではなくて残念……。こうして二人のデートシーンはカットされ、マタムネと鬼の戦いへ。大晦日から初詣のコンボにより人の欲望が渦巻く中、アンナの心に流れ込んでくる思念は大変なものになり、生れ出た鬼も凄まじいものとなっていました。鬼がアンナをママという場面とか好き。片腕を落とされた鬼はアンナを連れ去り、さらなるパワーアップを狙います。マタムネと葉はアンナを救い出せるのか!?と次回へ続く。

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恐山ル・ヴォワール quatre4

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  • 愛は憎しみを越えて
    • ぐーちゃんの雪上車で恐山に向かう葉とマタムネ。辿り着くとそこにはアンナを言葉攻めにしてパワーアップした超鬼が待っていました。ラスボスバトルの始まりです。憑依合体!さらばマタムネのシーンはムネアツです。そして葉を想う愛が憎しみに勝り、鬼が浄化されていくというのもポイント高いですよね。葉が憎いけれども、それ以上にこの男を愛してしまったと述懐するアンナの描写は是非見て欲しいところ!おススメ。そんなわけでハオと同じ境遇に陥ったアンナを救うことで、マタムネ自身も救済されます。マタムネはハオが闇落ちしてしまった後、信じ切ることができなかった。本当に愛があるならば、相手の態度により対応を変えるのではなく、信じ切らねばならなかった。その悔恨はまさに葉がアンナを、アンナは葉を愛し抜くことで達成されることになります。この一連の事件を通して、アンナは自己の災厄を乗り越え、葉の正式な嫁となることになります。
    • ラストはツンデレだったアンナが存分にデレるイチャラブが展開されて幕を閉じます。マタムネ消滅後1週間顔を出さなかったアンナ。色々あって気まずいのだろうと慮った葉は早々に去ることになります。最後の見送りにも来なかったアンナ。葉は祖母に見送られ電車に乗ります。ところがどっこい、アンナは葉が乗る電車に先回りして既に乗っていたのです。わずか一駅分の逢瀬ですが、この電車に揺られながら時間を共有する場面が最高に素晴らしい演出。バアちゃんにバレないようにわざわざ前の駅から乗って、ちょっと意地っ張りなところがまたかわいいと思う葉の心情が、お約束のように読心されてバレバレとなり、アンナが真っ赤になるところとか本当に良いものです。エンディングも凝った演出。漫画版ではこれまでの詩が一括表示される演出でしたが、アニメ版ではEDソングとして流れます。こんな和風な感じだったんですねと思う事しきり。ぜひこのエンディングテーマは皆さんにも聞いて欲しいです。

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