ウマ娘「タマモクロス」シナリオの感想・レビュー

レースに勝利することで貧困からの脱却を夢見るハングリー精神溢れるウマ娘の話。
タマモクロスの家庭は貧窮問答歌であり暮らしは決して楽とは言えなかった。
だが貧乏でありながらも家族愛が育まれ、その生活には笑いが満ち満ちていた。
家族思いのタマは少しでも家族に楽をさせたいと願いトレセン学園に入学する。
しかしながら早急な勝利に拘る余りタマは視野狭窄となり結果を残せずにいた。
そんなタマを支えるのが我らがトレーナー。タマが抱える問題を見抜くことになる。
走ることが楽しいという原初の気持ちを思い出したタマは見事選抜レースに勝利する。

タマモクロスのキャラクター表現とフラグ生成過程

走ることを貧困からの脱却の手段と見なしていた少女が原初の気持ちを思い出す

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ブラジルでサッカーが人気な理由の一つに、どんなに貧乏でもサッカーが上手ければ身一つで成り上がれるからという現実があります。それ即ち貧困からの脱却、言い換えればハングリー精神。日向小次郎が貧困家庭を少しでも楽にしてやりたいと願ってサッカーしていたのと同様にタマモクロスもレースにその人生を賭けることになります。しかしタマモクロスは勝利に拘る余り視野狭窄となり、本来の力を発揮できないでいたのです。焦れば焦るほど光は遠く見えて、タマはフラストレーションに苛まれます。そんなタマを変えるのが我らがトレーナー。このトレーナーが最初にタマを見かけたのはレースではなく公園で、子どもたちにせがまれて走りを見せていた時でした。弟妹と年の近い子どもたちとの交流は、タマの前のめりさを掻き消し、元来の力を発揮せしめたのです。その走りはまさに白い稲妻。タマの本当の走りを知っていたからこそ、トレーナーはタマの力になりたいと願うのです。一度目の勧誘でタマから覚悟を問われた際、とっさに返答できなかったことを後悔したトレーナーは、これ以降タマへ欲求を素直に告げていくこととなります。こうして走る事の楽しさを思い出したタマは、レースでもその高い実力を発揮し、白い稲妻の名を轟かせたのでした。タマモクロスシナリオの魅力に一つに素直系トレーナーによってタジタジになるタマの可愛さがあります。選抜レースに勝利し仮契約が終わった際、タマモクロスが契約更新を言い出す前にスカウトしたいと被せて行く展開がグッときますね。
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【吝嗇】タマモクロスに見る中庸【浪費】

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フラグ構築後は、吝嗇とも言えるタマの様子が描かれていきます。自分の小遣いを削ってまで家族にお菓子の仕送りをするタマ。両親の結婚記念日のお祝いを買いに来た大型ショッピングモールすら豪華に感じてしまうタマ。パンケーキの値段を見て水だけで凌ごうとするタマ。その様子は節約を通り越して吝嗇とも言うべきものでした。そんなタマの身を削るような日常生活を見たトレーナーは、タマが偏向的だと感じ取ります。選抜レースの際も、勝利に拘り過ぎる余り失敗しましたし、このままではいけない。タマにご褒美を上げながら、調和を取る大切さを教えていきます。(※ただタマモクロスを甘やかしたいだけなのかもしれない)。カフェの値段の高さにビビり水だけでしのごうとしていたタマにパンケーキを奢ると、欲望の肯定が向上心を生み出すという資本主義の原理的な話になります。そして、タマがお祭りの的屋のタコヤキに価値を見出すところが最大のクライマックス。これまでタマは粉ばかりで具が少ない屋台のタコヤキを買う意義を見出せませんでした。しかしトレーナーと一緒にタコヤキを食べることで、「お祭りという雰囲気」の中に価値があるのだと気付くのです。こうして今まで吝嗇であったため視野が狭かったタマモクロスはトレーナーとの交流で人間としての幅を広げていったのでした。
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