ウマ娘「エアシャカール」シナリオの感想・レビュー

競技での勝利を自己の存在証明とする少女が「-7cm」の敗北という絶望に立ち向かう話。
エアシャカールは他者からの理解を必要とせず数値とデータを信奉するロジカルガール。
その排他的な性格は周囲から忌避され孤独に陥りがちであったが全てを勝利で黙らせてきた。
シャカールが信じられるものはパソコンのみであったが、それが絶望を突きつける。
どんなに努力を重ねても勝利にはあと7cm届かずに負けるというのである。
それもでも勝ちたいシャカールは自分が創り出した神へ挑戦を続けるのである。
自分の力を自己の拠り所とするということは一度それが破られれば精神崩壊することを意味している。
トレーナーはそんな危うさを秘めるエアシャカールに付き纏っていくことになる。

エアシャカールのキャラクター表現とフラグ生成過程

幼少期に誰からも理解してもらえなかった女の子
  • 自分で自分が信奉する神を作りし少女がその神から否定されるという絶望
    • エアシャカールは数値とデータだけを信じるロジカルガール。その性格は排他的であり自分が創り出したパソコンだけを信じています。エアシャカールがこんなにも排他的になったのには理由があり、それは幼少期における人間関係作りの失敗に起因していました。エアシャカールは幼少期から排他的傾向を見せていたのですが、それにトドメを刺したのが自分の肉親である母親。小学校の先生から面談を受けても、昔からこうだから刺激せずに放っておいてと述べるなどエアシャカールを理解しようしなかったのです。ここで母親ないし教員がちゃんとぶつかっておけば、エアシャカールはこんなにも拗らせずに済んだのでしょう(その最初の相手がトレーナーであるのだが)。結局、誰からも理解されない(と思い込んだ)エアシャカールは、レースで勝利し周囲を見返すことでしか自分を証明できなくなってしまったのです。
    • この流れは自分でパソコンを創り出すとさらに加速し、データを入力すれば何でも答えてくれるパソコンが彼女にとって神となります。もしエアシャカールが勝利し続けられればそれでも良かったのでしょう。しかし彼女のパソコンはどんなことをしても7cmのハナ差で負けるという答えを示してしまったのです。これはエアシャカールにしてみれば絶望でしかありません。勝利でしか自分を証明できない少女が、自分が信奉する神から、負けると言われているのですから。
    • この7cmのハナ差による敗北という確定事項に対し、苦しみ、喘ぎ、努力していく姿がエアシャカールシナリオの真骨頂となっています。じゃあトレーナーなにすんねん?というお話ですが……エアシャカールの孤高ぼっちを見抜いていたのがトレーナーであり、愚直にもシャカールに関わろうと苦心していきます。「たしかにエアシャカールは他者との交流を必要としていない。数字をもとに、自己完結で淡々と物事を進められるタフさがある。〔……〕万が一、1人で処理できない壁にぶち当った時――いつか他者が必要となった時。どうしようもなくなってしまうということだ。」と述懐するシーンは割と好き。トレーナーの献身?はドン引きするぐらいであり、シャカール自身からもウザがられますが……シャカールはどんなに突き放しても自分を見捨てないトレーナーに次第に絆されていきます。トンチンカンな行動を取るトレーナーに対し、最後はエアシャカールの方から探しに来てくれて一緒に蛍を見るエンドを迎えます。
自分の信じる神が自分の未来を否定している
自己完結で得た強さという弱さ
孤独なシャカールを支える者は神などではない