今回の話では処女崇拝を唱えるジャックザリッパーを通して非嫡出子・尾形の怨恨の一端が明かされた。
本作のジャックザリッパーは汚い娼婦から自分の子供であると告げられて絶望する。
最終的には処女懐胎を至高するようになりアイヌの民族伝承を聖母・マリア様に重ねるようになる。
一方尾形は妾の子であり、母は父に固執し、父は妾の子など顧みるはずがなく親からの愛情に飢えていた。
故に尾形は父と同じ地位にまで上り、非嫡出子の自分でもなれる地位の父など大した事無いと証明したいのだ。
だからこそ尾形は封建的社会における農民階層コンプレックスを抱える宇佐美上等兵を妬む。
宇佐美は明治期における封建的社会階層に抑圧されてはいるが、親きょうだいには恵まれて育ったからである。
同様に富裕階層における父から愛されなかった子である囚人上エ地の苦悩も尾形には及ばず無関心な死を迎える。
尾形の行動原理は複雑に見えて実は単純。非嫡出子コンプレックスが尾形を突き動かす


- 【1】自分の命の使い方
- 今回はジャックザリッパーを通して「娼婦の子」がテーマになった。本作のジャックザリッパーは処女崇拝を拗らせており、交配などしなくても処女懐胎で生まれてくると信じている。それ故、尻を東風に当てると子供が生まれるというアイヌの伝承を神聖視し、アシㇼパさんにも尻をめくらせ東風に当てようと強要してくる。アシㇼパさんは自分は父母が愛し合った結果ウコチャヌプコロしたので生まれた来たと反論しジャックザリッパーを逆上させる。アシㇼパさんの貞操の危機に静かな怒りを滾らせる杉元がジャックザリッパーを惨殺し、彼の刺青人皮は回収された。杉元が唱える人生は誰の子として産まれてきたかではなく、何のために生きるのかという思想はゴルカムを一貫して支える「カント オロワ ヤク サク ノ アランケプ シネプカ イサム」そのものであろう。


- 【2】非嫡出子コンプレックス
- ジャックザリッパーが登場したのは「娼婦の子」、「妾の子」、「非嫡出子」を強調するため。これは尾形のことなのである。尾形は陸軍将校の実父を持ちながらも母は娼婦であり、認知されなかった。母はいつまでも父を追い求め自分を見てくれず、尾形は父が母を愛しているなら葬式には来てくれるだろうと判断し母を殺害した。勿論父は来なかったわけだが、今度は自分が父の階級まで上り詰めることで、非嫡出子である自分がなれる程度の地位の父など大した事無かったのだと証明することに固執することになる。尾形は鶴見中尉が自分の履歴を改竄し陸軍学校に入れることを約束したのに、いつまでもそれを果たそうとしないので逆恨みしていくことになる。


- 【3】尾形VS宇佐美
- また、尾形にとっては宇佐美も気に入らない人物であった。宇佐美は明治期封建社会における社会階層の緊縛のメタファーとなる人物として登場するが、家族的には親きょうだいに恵まれていたからね。宇佐美は富裕階層の将校の子弟を同級生に持っていたが、自分は農民階層の出自であり、一生田畑に縛り付けられて暮らすことが確定していた。そんな彼が縋ったのが鶴見中尉からの承認だけだった。彼は上等兵として取り立てられ、鶴見中尉の駒として使われることにレゾンデートルを見い出していたわけだが、分を弁えず鶴見中尉に擦り寄る尾形に不快感を示す。


- 【4】宇佐美の最期
- 宇佐美は尾形に対して商売女の子・娼婦の子・妾の子・非嫡出子と彼が最もコンプレックスに感じていることばで詰ったため、尾形は覚醒する。宇佐美は舐めプをしなければ尾形を殺せていたのだが、尾形は口の中に弾薬を含んでおり一瞬の隙を突かれて弾を込められ銃撃されてしまう。我に返った宇佐美は鶴見中尉の下へと急ぐが、さらに"追い狙撃"をおかわりされ死亡することになる。宇佐美が尾形を娼婦の子と詰ったことで、狙撃手としての尾形は完成した。宇佐美は鶴見中尉に看取られながら死亡し、彼としては幸せな最後を遂げたのであろう(鶴見中尉は宇佐美の死をも部下を愛する慈悲深い上司としての演出に利用していたが)。
- そして囚人上エ地は最も恵まれており親からも期待されていたが、それに応えることが出来なかったというコンプレックスを持っていた。だがそれは自分の人生をどう生きるかを主体的意志決定しなかった具現化として示され、誰からも関心を寄せられず哀れな末路を迎えた。



