日本植民地研究会 第27回全国研究大会

午前の部は自由論題で主にネット上のデータベースに関する報告。
午後の部は共通論題で「軍隊と社会の視点から植民地を考える」報告。
台湾・朝鮮・満洲の地域が対象であったが、軍事史の専門家は満洲の方のみ。
また「社会」との関係性があまり見えてこないとの批判がフロアからあった。

自由論題報告

  • アジ歴グロッサリーに関する報告
    • アジ歴はもともとは行政文書を一般の方が利用できるように公開するというものだった。しかし現在では研究者の利用も多い。またアジ歴の史料を利用した情報発信も行っている。旧植民地・占領地における植民地官僚がどのような理由で採用され、どのようにポストを獲得し、その役職を終えた後は次にどこに行くのかをアジ歴の史料を使って明らかにしたが、これをアジ歴グロッサリーとして発信している。
  • サハリン・樺太史料に関するデータベースに報告
    • サハリン・樺太史研究は2008年以降、ますます活発化している。しかし日本植民地研究会はサハリン・樺太に興味がないのであろうか。『日本植民地研究の論点』ではサハリン・樺太に関する諸研究は無視されている。そのため植民地研究としてのサハリン・樺太史に限界を感じたので、境界地域史という概念を前近代だけでなく近現代にも応用することとした。そしてサハリン・樺太史に関する史資料をデータベース化し、研究の際のアクセシビリティを高めている。

共通論題報告

  • 台湾について
    • 植民地台湾の空間編成に軍隊がどのような影響を及ぼしたか。前近代台湾は化外の地であり、人口が増えたので清朝は行政組織を整えたが、先住民族と関わり合いになりたくなく、地域を分断し、相互の行き来を禁止していた。台湾は海峡を通して大陸と繋がっており、台湾の空間は東西に形成されていた。しかし日本統治が始まると海峡が分断された一方で、台湾の南北を一体的に支配することが目指され先住民族との遮断も撤廃された。そのため日本政府は莫大な労力をつぎ込むこととなった。戦後、蔣介石政権による台湾支配が始まると、国民政府は日本の施設を接収・転用した。大陸軍人たちは特権を与えられ、大陸軍人の村が形成されるに至った。これは現在でも国民党の票田になるなどしている。
  • 満洲について
    • 満洲国軍を「ある程度の育成に成功した」と肯定的に評価する報告。朝鮮や台湾に先駆けて徴兵制を実施し、国内治安維持部隊から対外作戦補助部隊へと性格が変化したと述べる。そして満系軍官の日記・回想録を用いて満洲国軍の実態を明らかにしようとしている。結論としては、以下の通り。満洲国内の情報統制は破綻していて満系軍官は日本の敗北を見据えていた。国兵法で徴兵された兵士も教育レベルが高かった。満洲国軍の対外作戦補助部隊はビルマ遠征計画がなされるほど進展し、45年には長期にわたって華北に遠征した。日本の敗北後、満系軍官は国民党が優勢だと認識しており、国民政府による接収を望んでいた。
  • 討論
    • 今回の共通論題のテーマは「“軍隊と社会”の視点から植民地を考える」というものであったが、社会との関係があまり見られないとの批判があった。台湾と朝鮮の報告は空間を中心にするものであったし、満洲の報告は空間に関するものすら薄かった。それ故、そもそも論として「社会」とは何を想定しているのかを、きちんと定義する必要があったのではないかとの議論があった。