クナド国記「優里」本筋シナリオの感想・レビュー

共同体に組み込まれ代替可能な画一品であった少女が「個」を確立する話。
能力と適性により社会での役割が機械的に割り振られ選択の自由が無いその社会。
特権身分以外の大衆は誰もが仮面を被せられ社会を動かす規格品に過ぎなかった。
封建遺制の近代的自我・資本主義の労働疎外・実存主義のダス=マンを混ぜた感じ。
凡俗を代表する優里は能力の低い自分の遺伝子など残すべきでないと思い込んでいた。
そんな優里の価値観を変える為、一矢報いる戦術を模索するのがシナリオの主軸となる。
作品はフラグ圧し折り方式の一本道であり個別√に入らないとグランド√に進んでいく。

社会の維持のために個を捨てさすこと⇔社会の発展のために個を認めること

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  • 代替可能な規格品の一部からの脱却
    • 常に外敵による侵略の危機に晒されていた小さな共同体。そこでは全体を生かすことが何よりも優先され、一部の特権身分を除いては、個が認められていませんでした。彼らは日常生活において常に仮面を被せられ、自分が死んでも代わりはいくらでもいるという状況だったのです。社会を維持するべく能力と適性により機械的に役割が割り振られ、誰もが代替可能な規格品の一部に過ぎませんでした。
    • しかしそれは社会を維持する時には有用でも、発展性はありません。永遠に閉じられた共同体内部の話なら良かったのですが、外敵の驚異が無くなった今、戦時統制がいつまでも続くわけがありません。それ故、今こそ個を確立する必要があったのです。本作の面白い所は、社会全体の普遍的なテーマを個別具体的なキャラクターを用いて表現することに成功していること。社会における個の確立の問題は一人のキャラの恋愛観によく落とし込まれています。このテーマを表象することになるヒロインが優里であり、彼女は凡俗を代表する平民の一人です。それ故、自分の遺伝子を後世に残すことなど無価値であると思い込んでおり、恋愛など歯牙にもかけなかったのです。
    • では、そんな優里に個を確立させるためにはどうすればいいか。本作は異能バトル物でもあるので、筋肉が全てを解決します。すなわちレア能力を持つ異能保持者である特権身分とバトルして、身体強化(怪力)の異能しかない凡夫でも善戦できることを周囲に示せばいいのです。と、いうわけで修行回開始。主人公や他の特権身分に鍛えられることで成長していく優里は、更に勝利のために戦術を練ることをも覚えていきます。特権身分でないからこそ、逆にできる戦い方。それは戦場の指定と罠の配置。短期間でそれを成すには周囲の協力が必要であり、彼女がこれまで培ってきた人脈の力によるもの。即ち、優里が個を確立する下地が十分にあったってことじゃん、主人公がそれを眼覚めさせただけで……→→イイハナシダナー的な流れになります。
    • 優里と特権身分のタイマンバトルは、今まで娯楽が無かった大衆に対して見世物として提供されたのですが、優里のバトルは大衆に個の確立を促す触媒としても機能します。こうして戦時統制社会からの転換を目指す目論見はまた一歩進んだのでした。ちなみに優里シナリオでは並行して貨幣経済の導入も図られるのですが、喫茶店程度にとどまり、あんまり経済学的な掘り下げは無かった。

 
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