内野智司「主題学習の理論と主題の設定」平田嘉三編『新しい世界史教育の方法』所収、明治図書、1972、25-35頁

1)主題学習の根拠

  • 主題学習に求められているもの
    • 過去の歴史事象の学習を通して、現在や未来に対しても正しく機能する歴史的思考力を高める。
  • 通史学習の限界
    • 知識体系としての歴史の理解を第一義とする系統主義的学習
    • 歴史的思考力や判断力も、個々に作用する例は通史学習においても日常見られるが、高校生の歴史意識の発達段階からいって、個々の断片的、断続的作用のみではじゅうぶんとはいえない。
  • 主題学習の根拠
    • (1)通史学習の限界に対するオルタナティブ
      • ハーバード・センターのブルーナー理論の具体化、スタンフォード大学の「発見学習」、西ドイツにおける「範例学習」
      • 〓:知識の系統性を前提としながらも、教材の精選により、最も本質的なもののみを重点的に取り入れる。
      • 〓:生徒の自主的活動を重視し、真の学力の育成を目指す。
      • 〓:そのため、教材の系統的配列とともに重点とする歴史事象をテーマ風に扱う。
    • (2)歴史意識の発達段階
      • 中学校時代に身に着けたが、まだ十分実践的に陶冶されていない、諸思考の可能性に真の統一を与え、『生きた力』として確立させるためにこそ、最後の完成を目指す高等学校歴史学習の課題がある。これを成すのが主題学習。
    • (3)高等学校「世界史」における教材配列・学習方法
      • 教科書の解説・補足・要約に始終した授業の枠を乗り越える一つの学習形態としての意義
      • 通史学習の補完的機能だけでなく、世界史の構造の本質に直接迫る。
      • 通時学習(特定の時代・地域に限定されがちなさまざまな学習をつなぎあわせた)は、ひとつの主題の系統的、連続的な追求や、あるいは特定の歴史事象を総合的に掘り下げることは困難であり、それを可能にするのが主題学習。

2)主題学習と系統学習との関連

  • 通史学習と主題学習をいかに有機的に関連付け、世界史教育として一つの体系にまとめあげるか
    • A類型:通史学習の終了した後で世界史学習の総決算として十分時間をかけた主題学習が設定されるべきだという考え方。
      • ひとつの主題のもとに、完成された知識体系を与えるだけでは、やはり基本的には系統学習の範疇に属する。
      • 具体例1:通史学習では扱い得ない世界史の構造の本質に関するものを全時代に渡りグローバルに学習させる
      • 具体例2:前近代は通史学習とし、近現代は主題学習として構成する(近現代史は一般に主題風の教材構成がとられているから)
    • B類型:系統学習の一部を適宜肥大化・深化させることによって、主題学習として位置づけようという考え方。
      • 「東西文化の交流」のように通史学習の適切な段階において取り扱わなければ、世界史理解のうえで、重大な支障をきたすものがある。
      • 比較的限定された時代・地域の範囲内で展開しうる主題の場合など、通史学習を深める方向で位置づけた方が効率的なものもある。
  • 系統学習と主題学習の関連を類型化するのは机上の空論である。世界史の指導計画の全体の中から、その主題のねらいや内容を考慮しつつ、通史学習における位置づけを検討すべきであって、主題ごとに慎重に決定されるべきである。

3)主題学習の基準

A類型の基準
  • 主題
    • 時代的・地位的に限定された狭い学習ではとらえられない、全時代的・全地球的な主題であり、全体の世界史を背景として、さらに通史の基礎的知識の上に立ち、はじめてその主題に対する正しい問題意識や学習への取り組みが可能になる主題。
  • ねらい
    • 断絶的・断片的に扱ってきた史実をひとつのテーマのもとに再構成する。
  • 基準1)その主題の解明によって、現代をより正しく把握しうるものであること。
    • Ex.西ドイツN・W州学習指導要領「ヨーロッパの現在の精神的・政治的状況」
  • 基準2)本来の史実の系統的配列による通史学習とは異質のもの、つまり、歴史の本質や歴史的なるものの構造に関する主題。
    • Ex.歴史における風土・民族・宗教、アジアとヨーロッパの比較、歴史における個人と集団の役割など
B類型の基準
  • 前近代と近現代で分けて考える。
  • 前近代
    • 文化圏ごとの孤立化を防ぎ、世界史的統一をはかる図るための横の統合的機能を果たすべきテーマが最優先事項
  • 近現代
    • 通史学習が広義のテーマによる構成として叙述されているので、それらのいくつかを、そのまま主題として取り出すことができる。
      • 〓:その時代の性格・構造を象徴するものである
      • 〓:ある程度の予備知識をすでに生徒がもっており、なんらかの歴史的判断も可能で、興味関心を高めることができる。
      • 〓:特に、各分野からの総合的学習に適したもの。
類型を越える共通する選定基準
  • 1.各分野からの総合的学習が可能である
  • 2.地域・文化圏相互に関連した学習が可能
  • 3.時代・地域ごとのまとまりがある
  • 4.設定の目標が明確に定められている
  • 5.生徒の関心や能力に適合したもの
  • 6.豊かな学習のために資料にめぐまれたもの
  • 7.教材的価値や学問駅評価が安定したもの
  • 8.特定の時代・地域・領域に偏しないもの
  • 9.あまりに学問的・専門的にすぎないもの
  • 10.通史学習との適正な均衡にあるもの
  • 11.現代の世界を客観的かつ公正に把握できるもの