芝村裕吏『マージナル・オペレーション』1〜5(完結)(星海社FICTIONS 2012年-2013年)

ニートミャンマーで少年兵を使役して民間軍事会社をするはなし。
作者の現地の取材に基づいてるらしく中央アジア・東南アジアの描写がとても良い。
途上国・新興国におけるスラム街の様子やストリートチルドレンを題材にしている。
希望のない子どもたちが将来を自分で切り開けるように教育を施していく。
そしてウザ可愛い?メインヒロインのジブリールと淡々とした文章が特徴。
ニートが覚醒してからはほぼ無双状態なのであっさり感はある。

  • ニートブラック企業編(1巻前半)
    • 実は一番好きなのがニート編だったりする。今の20代〜30代の離職率、非正規雇用率からすると共感できるキャラ設定。自分はニートにはならなかったけれども、掛け持ち受験産業講師で夢も希望もない生活。「食っていければそれでいい」的な感覚。この作品の主人公くんはそんな私たち失われた20年世代の絶望感を代表してくれているんだ!!ニートになった時の焦燥感、就活してもブラック企業しかなかった挫折感、奴隷のような舎畜ライフの絶望感、それでも舎畜よりもニートの方が辛いんだよ。そして会社が倒産し、契約金目当てでアメリカ軍の下請け民間軍事会社に入社する。
  • 中央アジア編(1巻後半)
    • 民間軍事会社の描写がこれまた楽しい。売春婦事情とか童貞こじらせて3次元では性行ができず、英会話レッスン。そして戦略ゲーム感覚で実力を評価される主人公くん。地図を読む大切さを教えてくれます。しかし、主人公くんが戦略ゲーム感覚で指示したオペレーションは村を一つ殲滅していた。自分が虐殺者になってしまったことを知った主人公くんは人殺しの感覚に苛まされ苦悩する。様々な葛藤をした末、ここで主人公くんは覚醒。自分がしたことを確かめるため、戦争の目的と全貌を知るために、立ち上がる。
    • 主人公くんの新たな配属先はアメリカ軍協力下の中央アジアの部族の村。ここで出会ったのが使い潰される少年兵たち。主人公くんは少年兵を指揮して大いに戦果を上げ、イヌワシと呼ばれるようになる。メインヒロインのジブリールも登場し、アメリカ軍についた少女では結婚相手も望めないので、娶ってくれと頼まれる。そして部族連合の対アメリカ軍クーデタ。部族の村には報復として押し寄せるアメリカ軍。主人公くんはアメリカ側にはつかず現地部族勢力と協力して報復軍を見事やり過ごすことに成功する。
  • 日本編(2巻)〜タイ編(3巻)
    • 日本で民間軍事会社を立ち上げようとして、宗教団体と暴力団組織の武力闘争に介入。新興宗教のカルト組織は『MOON』や『素晴らしき日々』でも描かれていますね。教祖さまの権威・権力は絶大で、信者や信者の妻や娘をとっかえひっかえ。恨みをもった信者が反旗を翻した時に、女体で壁を作って銃撃を防ぐ描写は斬新だった。で結局、日本での企業は失敗しタイへ。ここでミャンマー編の下準備となるストリートチルドレンリクルート体制が創設される伏線となる。新興国における貧富の格差と大衆の活況、スラム街の様子など、とても面白い。主人公くんに嫉妬するアメリカ軍時代の元同僚とオペレーション対決。圧勝するも子どもを一人死なせてしまいとかつエルフ耳が傷害を負う。ここで主人公くんは一人で何でもやるより軍事は子どもたちに任せ、自分は戦略・戦術面を磨こうと誓う。
  • ミャンマー編(4〜5巻)
    • ミャンマー中国人民解放軍と戦う。タイ編で途上国のストリートチルドレンが兵士として補給されるルートを構築したので、各国から子どもたちが続々と結集してくる。銃を持つ方がまだマシであるというドラッグや性的暴力の世界から抜け出すためにやってきた少年少女たち。彼らを結集して軍事訓練を施し、人民解放軍と激突。補給線の奇襲、ヘリや爆撃機との航空編、少数民族の首長・部族連合の統率などと魅力がいっぱい。本編全体を通して貫かれている軍事は政治の一つの手段という考えを武器に戦争の始まりから終わりまでをデザインしていく姿は手に汗握る。しかし、ここではもう主人公くんが無双状態なので、苦悩や葛藤も少なく勝利する。その後、中国の少数民族支配の暴発と周辺国境での小競り合いの膠着状態になるが、それが主人公くんの望んだカタチ「戦争はダラダラやるに限る」。主人公くんはミャンマー軍と現地勢力に雇用されながら、そのカネで子どもたちを教育しつつ、一人でも多くの子供が自分の可能性を育てて欲しいと支援をおこなうのであった。