雑録

猫撫ディストーションExodus 各個別シナリオの感想・レビュー

本編で作り上げた「永遠」を求めた可能性世界から脱出するはなし。
結衣姉さんと式子母さんは出エジプト編と同じく丁寧に作られている。
ギズモ√は出エジプト編で正史?となるので猫は人間になれないエンド。
柚はもともと現世編なのであっさりであり、琴子編はキャラゲーである。

ギズモシナリオ(メイド in world)

Exodusの「出エジプト編」ではギズモエンドとなるが、本編含めてExodusのギズモ編でも「猫は人間になれないんだ」エンドになる。Exodusのギズモシナリオもやはり本編と同じようなノリで、「人間となった猫に言語や社会常識を教えることを通して、人間が言語や社会を作り上げた仕組みを描き出す」はなしとなっている。ギズモの知識・技能獲得に充実感を覚える主人公くんが、それは琴子への代償行為にすぎないと自覚する場面はけっこうグッとくる。順調に社会性を獲得していくギズモだが、結局は猫は猫であるため人間の常識とすれ違う場面が多々生じ、主人公くんは苦悩することになる。結局、猫は人間になることはできず、主人公くんはどのような未来にするか可能性の観測に迫られるのだ。主人公くんが望む世界・ギズモが望む世界ではギズモの代償として新たな妹「コトハ」が産まれ、主人公くんは妹に生きる意味を見出す。一方で主人公くんとギズモ両者が望む世界を選ぶと、なんと主人公くんが猫となり、ギズモと猫としての生を生きる事になる。どちらを選んでも猫は人間になれない。

結衣姉さんシナリオ(Time is Money)

実存主義ハイデッガーを元ネタにしたシナリオ。本編の結衣姉さんシナリオでは、永遠を求めるために「変わらない世界」を観測し、全てのものを固形化させてエンドを迎えました。Exodusではその世界をどのように脱出するのでしょうか?結衣姉さんと主人公くんは琴子が死ぬまでたいそう仲が良かったのですが、琴子の死に直面した際に「生まれ変わり」を求めて子作りをしたところ、近親相姦を両親に否定されてしまったのです。以来結衣姉さんは家族を拒絶し、今時JKと化して遊び歩くようになってしまったのです。これはハイデッガーで言うところの「存在忘却」にあたるでしょう。人間が死への存在であることを意識しないために日常の中に埋没させてしまうのです。結衣姉さんは自ら「ダス=マン」となったのでした。そんな結衣姉さんと死生観について語り合うところがExodusの面白いところ。まず最初に宗教は人間が創出したものであることを指摘しながら、宗教は人間が必ず死ぬことを納得させるためのシステムであると唱えます。そのようななかで結衣姉さんは死なないことが永遠であると主張するのです。そんな結衣姉さんと共に「人間は死への存在である」ことを受け入れましょう。死の可能性を自覚することによって、誰とも交代できない、一回限りの、全体的な自己の存在に目覚めることができるのです。こうして本編の固形化エンドから脱出し、現実世界において、これからの時間を積み重ねて行こうとするエンドを迎えるのでした。

式子母さん√ (Role playing Organism)

周囲の社会から家族として認識されるはなし。ファンディスクにおいて結婚式を挙げるはなしはそう珍しくはありません。しかしながら結婚式の「社会的承認」機能を分析しながら、本編を踏まえた上でハッピーエンドにつなげるという手法が、この作品の見どころとなっております。本編の式子さん√では永遠を求める手段とし七枷家を植物化し、そして思念体へと昇華させることで宇宙の終わりまで家族を広げていきました。それをシナリオの中では「七枷家だけが膨張して、なし崩し的に周りを取り込むような暴力的な家族」、つまりは「グレイ・グー」として表現しています。しかしながらファンディスクにおいてはセカイ系に走るのではなく、社会的な承認を得るのです。「周りの社会も家族の一員として認めていく調和する家族」、つまりは「ハルモニア」であるとしています。社会生活があるでピタゴラスイッチであると揶揄する主人公くんが、社会生活をすることで家族を構成するようになるという展開も結構ステキ。

ただ兄さんの元々の願いは、家族――母さんと幸せに暮らすことだったはずです……食事の用意をして洗濯をして掃除をして買い物をして。そんな生活の中で『家族』を分けて家事をする。家事が家族を作る。

柚√(Awareness Human)

他のシナリオでは一般常識・現実の象徴として襲いかかってくる役割を担う柚ですが、自分のシナリオになると殆ど活躍できない。そんなキャラもいるよね!ということで、柚√は本当にアッサリと終わります。本編においても主人公くんが可能性世界を観測するのではなく、現実に戻って社会復帰することになるのですが・・・。ファンディスクにおいては、本編では語られなかった、主人公くんの家族達と柚の和解が描かれます。人間の「らしさ」をテーマにしており、「らしさ」を形作る社会形成についてアプローチしながら、家族の人となりについて知っていくという手法です。だが如何せんシナリオは短く、生き急いでいた柚が主人公くんたちの家族との触れあいで良い感じに緩くなりましたとさという展開になる。最後は可能性世界の主人公くん家族が、柚と現実を生きる事を選んだ主人公くんたちを観測してエンドとなる。短い。

琴子√(『琴子色』)

琴子が健康で死ななかった可能性世界。ギズモが人間ではなく猫である可能性世界。シナリオの中身はほとんどないキャラゲーといってもよかろう。25年前の1985年、主人公の父親は可能性世界を観ており、それを手記に書き留めていた。琴子が死ななかった世界では、人間にならなかった猫のままのギズモが幸福を呼び込み世界の滅亡の回避に挑戦する。と、いっても大晦日から正月にかけて実家を離れるだけのことだが。式子さんは夫に会いにシベリアへ、結衣姉さんは遺跡調査に四国に出かける。主人公くんと琴子だけは家に残ることになるが、ここで主人公くんは可能性世界の自分たちとリンクする。この世界には数多の並行世界があり、数多の自分が存在するが、それらの自分と同期するのである。今までの可能性世界を垣間見た主人公くんはギズモの応援もあり、琴子を抱く決意をするのであった。琴子もまた可能性世界を垣間見ており、主人公くんと結ばれる。こうしてギズモが人間として世界を観測しなかった世界では琴子が死なず日常が進んでいきハッピーエンドとなる。