備忘録的な講義メモ。美術系博物館/美術館における掛け軸絵画に関するはなし。
1.はじめに
- 目的
- 装潢(そうこう)文化財に分類される美術工芸品の修理に関する基礎知識の獲得、修理の最前線が抱える課題を検討する
- 達成目標
- 最終的に学芸員が自力で修理設計書の読解、もしくは立案が出来るようになる契機となること
- コレクションを管理保存するのは学芸員の大きな責任
- 「装潢」というのは
- 潢(こう):紙を黄色で染めるころ。 紙を染めて様相を整える。 写経用に黄色く染めて巻物に整える。「そうこうしゅ」「そうこうし」という。
- 森鴎外の小説にも掛け軸に関する描写で出てくる。
- 潢(こう):紙を黄色で染めるころ。 紙を染めて様相を整える。 写経用に黄色く染めて巻物に整える。「そうこうしゅ」「そうこうし」という。
- 選定保存技術とは?
- 国宝 鳥獣人物戯画(甲乙丙丁)の修理 4年間かけて修理
- まいたりひらいたりするから痛むんや 西洋では額縁に入れろというがこれには反対
- 巻くということは、光と空気を遮断する 保存のための技術
- 巻いたり開いたりを繰り返すとよこじわがでてくる
- でんぷんのりで補強してある裏打ちの紙
- 劣化していく 絵の部分は変えられないから裏からやる
- 最近注目されること
- 修理 経費 経済効果はあるのか? カネを回収できるのか。
- 美術工芸品はなかなかそうもいかないが 鳥獣人物戯画は展覧会で紹介され大きな経済効果
2.掛け軸の構造と材料
- 掛け軸のはなし
- モノをなおす 構造 構成体を知らねばならない
- 掛け軸を基本的に理解する必要がある。
- 絵画は三次元として捉えろ
- 正面からは二次元だが、損傷は三次元で発生する 構造を理解するとある程度は推察できる
- 掛け軸の構造
- 書画の素地は紙と絹
- 掛け軸に仕立てる雨に、素地の裏に和紙で補強
- 掛け軸の機能と構造
- 真っ直ぐに掛る
- しなやかに巻ける
- 本紙と呼ばれる書画の裏面に4枚の和紙がでんぷん糊で接着されている積層構造
- 掛け軸の構造略図
- 本紙
- 肌裏紙 美濃紙
- 増裏紙 美栖紙
- 中裏紙 美栖紙
- 総裏紙 宇陀紙
- ※ペーパーではなくレイヤーのこと
- 巻いた時のしなやかさが違う こわさ アール 連結していく
- 裏打ちによる掛け軸の積層構造
- 書画の裏面に新糊を塗布した美濃紙が接着される
- 古糊を塗布したみすがみがせっちゃくされる
- 本紙を支える裏打紙
- みのがみ:薄くて丈夫 コウゾ
- みすがみ:薄くて柔軟 コウゾ+胡粉
- うだがみ:厚くて丈夫 コウゾ+白土
- 層
- 第1層のうらうちがみはうすみのがみ 薄くて丈夫
- 第2層アンコの部分 しなやかさが欲しい 厚みを稼ぎながら柔軟性
- 第3層 学芸員の手に触れる部分
- 美濃と宇陀は強制的に脱水するが 美栖は脱水しない
- 美栖は乾燥まで時間がかかる 構造 水素結合がゆるやかになる
- 水素結合をはやくするかゆっくりにするか
- 美栖は乾燥まで時間がかかる 構造 水素結合がゆるやかになる
- 胡粉 白土 カルシウム なんで入っているか?
- 紙を白くしたい 繊維繊維の間を埋め 密度を上げる
- カルシウムが入っている アルカリ性 弱アルカリ 日本の紙は中性 つまり裏から接着していくことで酸化を抑制している
- ウダ・ミスは本来、裏打ち用の紙ではない お薬のため 抗酸化効果がある これを祖先は選んで裏打ち紙した
- 宇陀紙はゆするようなことはしない
- ゆすることを最小限とすることで厚くする 激しくゆすらず
- 裏打紙を接着する新糊と古糊
- 新糊は小麦粉を水に溶いて加熱して作る
- 古糊は新糊を発酵させて作る
- 古糊は乾燥後に硬化せず柔軟性を維持する
- 古糊は新糊よりも接着力が低い
- 裏打ち紙の取り替えは50〜100年に1回を目処とする
- 美濃紙の接着は新糊
- 第二層以降は古糊
- 120年経って現在起こっていること。
- 初代岩太郎が作った初心の状態のものが表具に張りがなくなって来た。孫から連絡が来る
- 実態として文化財クラスになると昭和一桁時代のものが再修理 悪いものだと幕末のものが多い
- 研究して欲しいこと 文化・文政期の修理が多い 一部の歴史の先生:紙を量産する技術が生み出される 裏打ちし放題!となった説!?
3.掛け軸に発生する損傷と修理材料
- 掛け軸の劣化(損傷)の原因
- 劣化とは?
- 柔軟性が失われる 出来上がった時はしなやかだったが パきパきに折れる
- 折れ傷
- 亀裂
- 本紙欠失
- これがあるので掛け軸を額に入れろと欧米は言う
- 明治の初めにパネルにいれていたが・・・
- 額に貼ることは常にテンションがかかっている 普通でかけてあったよりもひどい劣化が起こっている
- まいたりひらいたりしているほうが最終的にもののもちがよい。
- 折れが一つ出たら要注意!
- 柔軟性がないので次の折れが現れるので経過観察が必要
- 掛け軸に発生する損傷
- 彩色層の剥離・剥落
- 彩色層の粉状化 → 乱反射して色が鮮やかに見える 白いごふんがきれいにみえる 懐中電灯を斜めに当ててみる ニカワが枯れている
- トイシ ケンゾウ先生
- 古美術品材料の科学
- 顔料 球体ではない 基本的にはギザギザ 石垣の様にしきつめている
- 掛け軸に発生する損傷
- 修理材料
- 裏打紙
- 澱粉糊
- 膠(剥落止め)
- 布海苔(造粘財、応急的接着剤)
- 化学糊や合成樹脂は使わないのか? → 基本的に使わない 化学糊
- 強度はなくても再修理ができるほうがよい
- どのような材料でも、原料や生産者、生産方法が追跡できるものをつかうことが望ましい
- 選定保存について
- 代替品はないんですか?という質問
- 代替品だと百年後は保証できない 今残っているものをどう残すか。
- 膠 タンパク質 接着剤
- 我が国では鹿・牛、ロシアではチョウザメ、フランスでは豚、各地域の動物の皮、
- 最先端では黒毛和牛から作る。
- 仕様書について
- 修理に適した材料の条件
- (1)可逆性(リバーシビリティ):再修理が可能であるということ/必要に応じて本紙に適度な負荷をかける事なく除去できなければならない
- (2)追跡可能性(トレーサビリティ):原材料、生産者、製造工程が明らかであること
- (3)安定供給性:常に均一な品質を保ったものが安定して生産されていること
- コウゾはどこの農業組合かを知れ?
- 木材パルプ入っていても和紙 強い酸が残留しているのに売っている どこ産か必ず聞く。 酸製紙を裏打ちで使ってしまう
4.掛軸修理における重要な修理工程
- 掛け軸の解体
- 掛け軸は和紙で裏打ちされた積層構造
- 本紙を支持することができなくなった裏打ちの和紙を全て取り除くことが修理のキモ
- 健全な肌裏紙に取り替える 絹に描かれた絵は彩色は裏からする 絹の裏側
- 「危険だからやっていけない」という業者に対して
- 他の人は出来るんですか? ここを残すのは何故か 議論
- 乾式肌上げ法
- 絵画や本紙を傷めないように慎重にゆっくりと裏打ち紙を除去する作業「乾式肌上げ法」が1980年代に考案された
- 裏打ちの除去
- 7時間で15センチ お金と時間はかかる 次の100年
- 白い顔料で
- 水で濡らしてぴゅーっとめくる方法は基本的にはしんどい
- 在外日本美術の修復 中央公論社 1995年
- 白い絵の具が鼠色いなってしまっている 裏打ち紙を一気に剥がす
- クリーニングはどうするの? 裏打ち紙の除去はどうするの?
- どうしてチェックしなかったんだ 壊してしまった 遠いというのを理由にお任せだった
- 修理した人の技術が足りなかったんだけど 監督不行き届き
- 肌裏紙
- 乾式肌上げ法と湿式肌上げ法の相違点
- 乾式
- 画面に付海苔でレーヨン紙の裏打ちを施し、乾燥後に小面積ごとに少量の水で除去する。
- 肌上げ時の水分量が非常に少ない
- 画面表示が固定されている
- 肌裏紙の繊維を介して除去できる
- 小面積を谷に肌上げが行える
- 湿式
- 画面に養生紙を水で張り付けて置き、全体を水で湿らせることにより肌裏紙の糊を締め除去する。
- 画面が固定されていない
- 作業時間の制約がある
- 乾燥状態での裏面の調査ができない
- 常に修理品が水を含んだ状態にある。
- そもそも表打ちとは
- 布海苔 画材・建築材料 海藻をとってきて乾燥させて使う
- 布海苔と数層のレーヨン紙で本紙の表面を安定化させる
- 細かいことをやってくれます?と聞く
- 裏打紙の除去
- 他工程との関連
- 肌裏紙除去前
- 本紙表面の汚れの除去
- 絵具の剥落止め
- 肌裏除去後
- 表打ち除去
- 布海苔除去
- 布海苔・澱粉糊・膠 高い技術力が必要
- 接着に用いる素材が水に溶解する時間差を利用した技術
5 修理の原則
- 目視による丁寧な調査が大前提ですが、安全な修理のためには新たな検査方法を導入して、修理の精度を上げます。
- 損傷図面の作成 調査をして記録をする 問診
- 判断が難しいと思われる場合はやってもらう。
- 補彩の原則
- 失われた画像などを修理において付加しない地色補彩が文化財修理の原則
- 補彩とオーバーペイントを混同している例が多い
- 補彩は欠損部に埋める作業
- 日本に於ける絵画書跡修理の原則
- 現状維持
- 保存性の向上
- 記録の保存
- 真正性
- オーセンティシティ(authenticity)
- 途中で価値が乗っていく
- 地色補彩
- 加色や補筆をおこなわない 地色補彩の向こう側
- オリジナルの最大公約数ともいうべき
- 修理に100点はない
- 地色補彩の発生
- 復元的彩色 → その人の絵になってしまう
- 吉備大臣入唐絵巻
- ぼかし補彩の例
- ぼかし補彩はしないほうがいい
- 紆余曲折を経て地色補彩となった
- 地色補彩が永遠に続くわけでもない
- 地色補彩に限界がきている。