「2020年の歴史学会-回顧と展望-」『史学雑誌』第130編第5号(2021.5)における海事関係の先行研究まとめ

文献サーベイ海事に関する研究のまとめ。著者順。

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「2020年の歴史学会-回顧と展望-」『史学雑誌』第130編第5号(2021.5)

  • 飯島直樹「「協同一致」の論理にみる陸海軍関係」(『史学雑誌』129-8)
    • 「対米7割などで揉めたロンドン軍縮を扱う。海軍単独での軍事参議開催が検討された結果、議長も務める東郷元帥の影響力が強くなり否決の可能性も危惧された。一方で陸軍参謀本部側では陸海軍の「協同一致」を主張し、海軍を拘束するために元帥の活用が提起された。軍長老への着眼は良いが陸海軍大臣の影響力が低下し、中堅層の活動が活発化する状況で、更に創出される長老がどう機能するのか。全体像が問われる。」
    • 「ロンドン軍縮を機に陸海軍の協同歩調に亀裂が生じたと指摘」

  • 市川周佑「太平洋戦争末期の陸海軍統合問題と海軍」(『日本歴史』868)
    • 「海軍による終戦工作を、当時議論されていた陸海軍統合構想に対し、自らの存在意義を主張する意味をもったものとする。」

  • 上田修『生産職場の戦後史』(御茶の水書房)
    • 「労働研究に管理の問題を取り入れる必要を説き、造船業・鉄鋼業で取り組まれた生産職場における管理体制の歴史を追究した大著。」

  • 大澤由悠「対南洋方策研究委員会と日本海軍の南進論」(『中央史学』43)
    • 「海軍の政策構想を内在的に捉える必要性を唱えた」

  • 小倉徳彦「日露戦後の海軍将校による著作活動」(『日本史研究』696)
    • 「海軍現役将校として評論活動も行った小栗孝三郎を紹介している。ただ活動紹介だけではダイナミクスを欠く。社会を巻き込んだ軍拡軍縮の熱気を扱うという次回作に期待する。」

  • 賀申杰「日清戦争以前の外国船修理問題」(『東京大学日本史学研究室紀要』24)
    • 「船渠不足の下で外国船舶の修理需要に果たした横須賀造船所(海軍)・石川島造船所(民間)の役割を論じたもの。」

  • 木村聡連合艦隊の政治運動」(『日本歴史』868)
    • 「海軍艦隊派の中心人物で弁舌爽やかな末次信正の存在から連合艦隊司令長官への国民の興味関心が高まったとする。ただその分析には口下手で発進力の弱い司令長官の事例を合わせて扱う必要がある。」

  • 木村美幸「軍縮条約失効後における海軍の地方拠点形成」(『日本歴史』868)
    • 「志願兵徴募と広報宣伝のため全国に地方海軍人事部が設置されたとする。」

  • 木村美幸「アジア・太平洋戦争期における海洋道場の建設」(『西尾市史研究』六)
    • 海洋少年団の短期の体験学習について紹介している。海軍志願兵の前段階として国民学校児童や中等学校生徒が対象で、女子の参加もあった。」
    • 「身体への着目は宣伝と教育を考える際にも有益」であり、本論文は「短期間ながら身体を動かして体験した動作の型が、参加者に映画や講演会以上の刻印を残したことを示唆する。」

  • 章霖 「大正期における海軍の艦隊行動と地域社会」(『史学雑誌』129-9)
    • 「海軍平時の艦隊行動における政治的要素に着目した優れた論文である。海軍は日本近海各地を巡航し、租借地である関東州の旅順大連への巡航もあった。軍艦50隻1万人での訪問に街は大歓迎でお祭り騒ぎとなった。それは一方で反日的な中国人の政治活動への牽制となり、現地の多くの中国人児童が艦隊見学に招待された。他方では艦隊寄航は日本人居留民の心細さを解消する効果もあった。一度の巡航について多方面から政治的反響を描写した論文であり知的刺激に富む。」

  • 宮杉浩泰「情報活動と日本外交」(『東京大学日本史学研究室紀要』24)
    • 「インテリジェンス研究の観点から1938年初頭~秋の外交過程を検討し、海軍が日本外務省・イギリスの電報を傍受・活用していたことを明らかにした。」

  • 山縣大樹『帝国陸海軍の戦後史』(九大出版会)
    • 「戦後の旧軍人」について「復員・恩給・再軍備政策を分析し、これらの領域で旧軍エリートが影響力を確保したとする。」