松沼美穂「戦争終結とフランス再統一を見据えて」『帝国とプロパガンダ』山川出版社 2007年

ヴィシー政権とそれに代わるドゴール首班の臨時政府が共にプロパガンダ政策として植民地を重視しており、フランス再生の基盤たる帝国、偉大で忠実な帝国と一体性であるゆえに偉大なフランスという命題を掲げていた、としてそれぞれの意図について書かれている。


ヴィシー政権下の帝国プロパガンダの目的
  • ヴィシー政権成立期
    • ヴィシー政権のもとに国論を結集すべく反対派に勝る正統性を証明すること
  • 1943年、連合軍フランス植民地征服以後
    • 自政権の命運を越えて戦争終結の過程で国民統合と帝国支配を維持する
    • 戦後に帝国を維持するという目標=国民間の深刻な対立を克服し仏をひとつにまとめる → 帝国プロパガンダ国民意識を結集する使命を負う
      • 宗主国国民国家統合と帝国の保有との相互補完的な関係が国民統合と帝国支配権との二重の危機の中で明確に意識
    • 精神的紐帯の強調
      • 統治権を失った時点で、異国趣味として開発事業に比べて軽視されることの多かった文化が精神的紐帯として高く評価される
ドゴール首班の臨時政府の帝国プロパガンダ
  • アフリカとの紐帯は、戦争中にアフリカにあったドゴール政権=フランスの一部分であることを意味
  • 帝国との歴史的結合は政体の変動の影響を受けないフランスの価値、帝国との紐帯がフランスの統治権力としての正当性を担保する
    • ヴィシー政権からそれを追放して成立した臨時政府にかけて続けられた
  • 戦争と祖国解放に海外の領土が果たした役割を国民に理解させ、そのことによってフランス人と海外領土に絆を強化する
    • 論点1:ドゴールの約束された勝利へ向かう栄光の戦歴を一連の過程として描く
      • ドゴールがロンドンから「フランスは背後に広大な帝国を有している」と帝国での抗戦継続を呼びかけて以来、彼の率いる自由フランスが帝国で現地住民の参加を得てしだいに拡大し、ついにフランスを解放し、ラインそしてドナウ河畔に達する
    • 論点2:蘇るフランス帝国との新たな関係、その未来像
      • 戦争中に底時からを発揮した「帝国の魂」は、これからは現地文化の尊重と教育や医療の整備、そして科学的調査研究に基づく経済開発を基盤として、多様性を内包した結合というべき「フランス連合」を築く
「もし帝国がなければ、フランスは解放された国にすぎないが、帝国のおかげで戦勝国なのだ」(モネルヴィル)
  • 植民地の継続を国際社会に認めさせる
  • 戦後のフランスが連合軍によって解放された弱小国として扱われる恐怖は極めて現実的
    • 1940年の無残な敗走、仏領植民地における連合軍の作戦行動から自由フランスが排除、連合国首脳会談からも排除
  • ⇒帝国に依拠してきたことではじめてヴィシーの正統政府に対する「反逆者」として名指しされる立場から「抵抗者」としての勢力拡大を経て真の「フランス」と成り得た
  • ⇒不屈のドゴールのもとに勇んで馳せ参じた帝国という神話の構築によって、帝国を維持することを目指す。