歴史

いかにして摩周湖・屈斜路湖は阿寒湖と共に国立公園になりしか

2024年、国立公園指定90周年を迎える阿寒国立公園。当初は阿寒湖だけが国立公園に目されていたが、屈斜路湖・摩周湖も同時に阿寒国立公園に内包されることとなった。日本における国立公園の歴史は、大正9年(1920)に田村剛が内務省衛生局の嘱託となり、翌年か…

文学者の自伝的小説から歴史を描き出すことは可能か

今回の授業では、札幌農学校で学んだ農業理念を自ら実践するべく国の農業指導者として僻地に入った人物を取り上げた。その僻地の開拓農家から出た文学者が、北海道文学館の初代理事長である。彼は晩年に自己の若き人生を自伝的小説として残しているのだが、…

【史料】『呉軍港案内』(呉郷土史研究会、1933年)に見る「軍港都市観光」による海事思想の普及

第一次世界大戦が総力戦となったことを見た日本は、帝国民を動員する必要性を感じ、総力戦体制の構築に努めた。海軍では海事思想の普及が求められることとなり、ワシントン軍縮後には海軍軍事普及委員会が設置され、ロンドン軍縮の際には海軍軍事普及部とし…

村中亮夫「地形図と空中写真からみる呉の景観変遷」(上杉和央『軍港都市研究Ⅱ』清文堂、2012年、45-79頁)

呉市の地形図・空中写真を用いて、その土地利用の年代的変遷を論じる。 第1節 呉の地理的環境 第2節 呉の景観変遷 (1)呉鎮守府設置の経緯と設置前の景観 (2)呉鎮守府開庁後 (3)呉鎮守府拡大期 (4)第二次世界大戦終結前後 (5)高度経済成長期 (6)20世紀末~21…

加藤政洋「軍港都市の遊興空間」(上杉和央編『軍港都市研究Ⅱ』、清文堂、2012年、281-320頁)

軍港都市には遊興空間が存在し、そこは消費の局面では空間的に分化しており、海軍の社会性が刻み込まれていた。 はじめに 第1節 軍港都市の遊郭 (1)『全国遊郭案内』における軍港都市 (2)遊郭の立地と景観 (3)私娼街の問題 第2節 軍港都市の花街 (1)遊郭との…

橋本倫史『ドライブイン探訪』(筑摩書房、2019年)

ドライブインの実地調査・聞き取りインタビューを通して戦後史を描くルポルタージュ。 単にドライブインを紹介するだけではなく日本の道路交通史を知ることができ面白い。 日本におけるインフラ整備や高度経済成長期からバブル経済期までの実像を体感できる…

上杉和央「連続と断絶の都市像-もう一つの「平和」都市・呉」(『複数の「ヒロシマ」 記憶の戦後史とメディアの力学』、青弓社、2012年、103-138頁)

本論の趣旨 呉市は、海軍が培った技術を用いるという連続性と軍・軍需目的とは異なるという断絶性の両面性を保有している。この矛盾を解消させる手段が平和産業港湾都市であり、戦前との連続性・断絶性どちらを主張する時にも使用できる便利な概念であった。…

林美和「呉市における戦後復興と旧軍港都市転換法」(河西英通編『軍港都市研究Ⅲ 呉編』、清文堂出版、2014年、309-332頁)

本稿の趣旨 敗戦後の呉市は海軍依存からの転換を目指し企業誘致と産業育成に努め成功したが、冷戦により再軍備への忌避感が無くなると軍港都市のプライドを取り戻した。しかしそれは再び海軍に依存していく契機となり、失われた30年により製造業が衰退すると…

河西英通「「国防と産業大博覧会」の頃」(河西英通編『軍港都市研究Ⅲ 呉編』、清文堂出版、2014年、272-277頁)

本稿の趣旨 『呉市主催国防と産業大博覧会誌』を中心に「国防と産業大博覧会」の概略と特徴を述べる。 以下、本文内容まとめ 「国防と産業大博覧会」は戦前呉の一大ページェント 1935年3月27日から5月10まで二河公園と川原石海軍埋立地を会場に開催された 45…

齋藤義朗「軍港呉と進水式-昭和前期の臨時イベント-」(河西英通編『軍港都市研究Ⅲ 呉編』、清文堂出版、2014年、233-238頁)

本稿の趣旨 呉海軍工廠において進水式は呉市全体を挙げた一大ビッグイベントであったが、情勢緊迫化で進水式の公開は秘匿化された。 内容まとめ 進水式のイベント化 「式場内では、記念絵葉書販売や臨時郵便局での記念スタンプ押印なども行われたが、式典は…

半藤一利『日本のいちばん長い日<決定版>』(文芸春秋、1995年)

内容は主に2つで①ポツダム宣言受諾から玉音放送録音までの鈴木内閣における攻防と②8月15日払暁に発生した近衛師団による宮城占拠クーデターが描かれる。ポツダム宣言受諾編はいつまでも閣議不一致で結論が出ないまま膠着状態に陥ったところで聖断を仰ぐ展開…

【文献サーベイ】史学雑誌「回顧と展望」(2018-2020)における海事・海軍・軍港都市に関する文献のまとめ

文献サーベイ。回顧と展望に掲載された海事関連論文のまとめ。 「2020年の歴史学会-回顧と展望-」『史学雑誌』130編第5号(2021.5) 「2019年の歴史学会-回顧と展望-」『史学雑誌』129編第5号(2020.5) 浅井隆宏「ロンドン海軍軍縮条約における補助艦保有比…

【作業中】朝日新聞における満洲国(1932〜45)の旅行・観光に関する記事(時系列順)

満洲に関する新聞記事の分析シリーズ。 『朝日新聞』の旅行・観光に関する記事は179本程あり全部読みました(※満洲以外の帝国日本の植民地が数種類混じっている)。 今は時系列順ですが、これから分類・整理します。 満洲に関するコラムや小説もチェックすると…

ルイーズ・ヤング/加藤陽子ほか訳『総動員帝国-満洲と戦時帝国主義の文化-』(岩波書店、2001年)

本書の趣旨 本書は2つのシステムの関係を分析する。一つ目のシステムが、満洲支配のシステム。それは(a)日本が満洲に作り上げた国家機構、(b)植民地経済開発についての支配機構、(c)社会的支配のメカニズム、以上三点を包含している。二つ目のシステムは、日…

博物館学(002) 大出尚子「「満洲国」国立博物館の展示における「満洲色」の創出」(『内陸アジア史研究』25、2010年、121-142頁)

「国民国家形成を歴史的に正当化する一国史創出の根拠付け」という機能・役割を、博物館の調査・発掘・展示が果たした。 はじめに 本稿について 趣旨 「満洲国」国立博物館の展示替えおよび特別展の内容とその特徴が、日本と「満洲国」をめぐる学術動向とい…

榎森進「これからのアイヌ史研究にむけて」(北海道大学アイヌ・先住民研究センター『アイヌ研究の現在と未来』北海道大学出版会、2010年、20-58頁)

アイヌ史研究に関する問題点のメモ 現在のアイヌ史研究で重要なこと(21頁) 「「アイヌ民族を取り巻く現状を正しく見据えた研究」をしていかなければならないということ」 問題意識の欠如(21頁) 「〔……〕研究者の関心のある問題をアイヌ民族を取り巻く現在の…

原敬「海内周遊記」第七報・第八報 (『原敬日記』6巻、福村出版、1967、52-73頁) まとめ

1881(明治14)年、郵便報知新聞記者であった原敬が25歳の時、東北・北海道を周遊した際に記した「海内周遊記」。そのうち、北海道に関する記述である第七報(7/16〜8/1)・八報(8/1〜8/14)のまとめ。 ※正確なものではないが、原敬が通ったルートはだいたいこん…

伊藤之雄『原敬』(講談社選書メチエ、2014年) 「原敬を考える意味−はじめに」および「第一部」(17-122頁)

原敬を考える意味−はじめに (17-28頁) 本書の趣旨「原の第一次大戦後の新状況への対応」(18-19頁) 「本書では、原の生涯をたどりながら、彼が第一次世界大戦後の新状況にどのように対応していったのかを見てみたい。そのことで、理想を持ちつつ現実的に対応…

『日本交通公社七〇年史』(日本交通公社、1982年)

明治45年3月に設立されたジャパン・ツーリスト・ビューローは、当初は、欧米人観光客を日本に誘致し、日本の文明度の高さを海外に知らしめると共に外貨獲得を目的としていた。だがしかし、旅行ブームの進展とともに邦人客への代売も担うようになっていった。…

【研究指導】日本における満洲イメージの創出・支配の正当化の装置としての観光

研究論文の要旨を図解フローチャートでプレゼンした際に指摘されたことのメモ。 要旨を言葉でまとめると以下の通り 【1】問題意識と問題設定 テーマと具体的な題材 問題意識の根底にあるのは「ヒトの移動」つまり「なぜヒトは移動するのか」。この問題意識の…

バラク・クシュナー/井形彬訳『思想戦 大日本帝国のプロパガンダ』(明石書店、2016)

この本の趣旨(31-32頁) 「戦時下日本のプロパガンダのより詳細な分析が重要である理由として、以下の二点が挙げられる。第一に、戦時下日本の目的追求を下支えした当時の社会心理を浮かび上がらせること。第二に、日本の一般大衆は戦争の積極的な参加者であ…

貴志俊彦『満洲国のビジュアル・メディア』(吉川弘文館、2010年)

本書の趣旨(3頁) 「満洲国はみずからの存在を、どのようなものとして国の内外に認知させようとしたのか。本書は、その企画と弘報政策に深くかかわった日本人が描いた/描こうとした満洲あるいは満洲国イメージから、このことを検証するものである。」 雑感 1…

ケネス・ルオフ/木村剛久訳『紀元二千六百年 消費と観光のナショナリズム』(朝日新聞出版、2010年) 第6章・結び・解説(原武史)(231〜303頁)

この本の趣旨 (戦争末期を除き)戦時中が日本にとって暗い谷間でだったという見方をくつがえすこと。 まとめ http://d.hatena.ne.jp/mmm000mmm/20180914/p1 http://d.hatena.ne.jp/mmm000mmm/20180917/p1 http://d.hatena.ne.jp/mmm000mmm/20180918/p1 http:/…

ケネス・ルオフ/木村剛久訳『紀元二千六百年 消費と観光のナショナリズム』(朝日新聞出版、2010年) 第4章・5章(171-229頁)

この本の趣旨 (戦争末期を除き)戦時中が日本にとって暗い谷間でだったという見方をくつがえすこと。 まとめ http://d.hatena.ne.jp/mmm000mmm/20180914/p1 http://d.hatena.ne.jp/mmm000mmm/20180917/p1 http://d.hatena.ne.jp/mmm000mmm/20180918/p1 http:/…

ケネス・ルオフ/木村剛久訳『紀元二千六百年 消費と観光のナショナリズム』(朝日新聞出版、2010年) 第1章〜3章(55-169頁)

この本の趣旨 (戦争末期を除き)戦時中が日本にとって暗い谷間でだったという見方をくつがえすこと。 まとめ http://d.hatena.ne.jp/mmm000mmm/20180914/p1 http://d.hatena.ne.jp/mmm000mmm/20180917/p1 http://d.hatena.ne.jp/mmm000mmm/20180918/p1 http:/…

ケネス・ルオフ/木村剛久訳『紀元二千六百年 消費と観光のナショナリズム』(朝日新聞出版、2010年)、「序章」(〜54頁)

この本の趣旨 (戦争末期を除き)戦時中が日本にとって暗い谷間でだったという見方をくつがえすこと。 まとめ http://d.hatena.ne.jp/mmm000mmm/20180914/p1 http://d.hatena.ne.jp/mmm000mmm/20180917/p1 http://d.hatena.ne.jp/mmm000mmm/20180918/p1 http:/…

遠山茂樹『明治維新』(2018年、岩波文庫) 雑考

戦後歴史学・階級闘争史観・明治維新は単なる封建勢力内の権力移動という論調の明治維新。 この1冊だけ講読するのではなく、近年の新書などではどのように明治維新が描かれているかとかの対比をすればよかったかもしれない。 大衆向け新書⇒講談社現代新書(板…

【進捗状況】「なぜ帝国臣民は植民地へと移動したのか?」

【大テーマ】帝国と植民地間の人の移動について調べている。 RQ 「なぜ帝国臣民は植民地へと移動したのか?」→「帝国−植民地間の移動という欲望を喚起させる装置」 これまで 帝国と植民地間のツーリズムや観光についての先行研究などの調査を行った。 http:/…

戦前の旅券(パスポート)制度の歴史

帝国と植民地間の人の移動について研究している。移民・出稼ぎ・商用・旅行・観光など、何故人は移動するのか。その原因には、プッシュ要因・プル要因という違いはあれど、人に移動したい/する必要がある/させたいという欲望を喚起させる装置が存在したは…

遠山茂樹『明治維新』(岩波文庫、2018年) 第五章「明治維新の終幕」(313-334頁)

明治維新を、天保12(1841)年の幕政改革から明治10(1877)年の西南の役の期間における、絶対主義形成過程と捉える歴史叙述。 概要 倒幕派の背景には尊攘思想があったので、明治新政府は対外膨張を孕んでいた。征韓論は、対外膨張VS国内統治の対立ではなく、権…