双子座のパラドクスの感想・レビュー

双子座のパラドクスは厨二系学園異能バトルミステリーホラーSF。
途中まではアクション活劇に主眼がおかれていますが、1940年代編からぐっと面白みがまします。
視点をザッピングしながら物語を解き明かし、最後は大団円と結びつきます。
序盤〜中盤は、何の変哲もない異能バトルとホラーが中心の娯楽的読み物ですが・・・
終盤ではSFが絡まり「兄弟愛」をテーマとして、作品を描ききっていると思います。

概要

過去編

物語の舞台は1940年代のアメリカ。エドとアルという二人の兄弟とテスラという炉利少女の三角関係が物語の原動力となります。第二次世界大戦中、原爆を開発していた「マンハッタン計画」がありましたが、その他にも数多の軍事開発実験が行われていたという設定です。その中の一つに電磁波による飛行機のステルス化計画があったのですが、それが「超能力開発」に転用されることになります。実験の途中、アルは「時空転移」の能力を、エドは「タイム風呂敷」の能力を身につけていきます。ですが、アルは「時空転移」の能力に翻弄されて時空を渡り歩くことになってしまうのです。アルは愛する妻テスラに合うために藻掻き苦しみますが、同時にエドもテスラを寝取りたくなってしまったのです。エドには二つの束縛がありました。一つ目は、エド自身の肉体でテスラを犯そうとすると、兄弟であるアルの影がちらつき性行為に及べ無いというものでした。二つ目はエドの特殊能力「タイム風呂敷」は脳に実行すると、巻き戻した分だけの記憶が消去されるので、人格が維持できないというものでした。そのためエドは肉体を若返らせながらも、脳は若返らせることはできず、好きな女とセクロスもできないという状況だったのです。そのためエドは「他の肉体に魂を転移させ、炉利少女テスラと結ばれる」ことを目的として70年間を生きてきたのです。


一方エドは、時空転移の能力により3度転生します。1度目は自分の息子に、2度目は本作の主人公となる総一にです。当初はテスラに固執するアルでしたが、2度目の転生の時に悟りを開き、総一の人格を破壊しないように肉体の共有をするのでした。こうしてアルは総一の肉体の中から、困った時には手を貸し温かく見守る父親のような役割になるのです。しかしながら、とある事件に巻き込まれてしまいます。それは総一が台風の時に幼なじみの少女を見殺しにしてしまうというものでした。苦悩する総一に対し、アルはもう一度、「時空転移」の能力を使うことを決意します。「時空転移」を実行すると、魂と肉体が乖離してしまうのですが、3度目の転生の時には総一の肉体からアルの魂が分離することで、肉体の乖離は防がれるという設定になりました。こうして、もとの世界から肉体ごとタイムリープしてきた総一Aと跳躍先の世界の総一Bが存在する、パラレルワールドの世界βが誕生してしまったのです。このパラレル世界βが本作の時間軸の主観世界として描かれていきます。そして、β世界線では、幼なじみの少女を救うことに成功するのですが、総一Aは記憶喪失になってしまいます。総一Aと総一Bが二人いるとタイムパラドクスが起こるので、総一Aが記憶喪失になったことをいいことに、双子ということにして戸籍を書き換えました。こうして、パラレル世界βでは、総一Bがリアル総一に、総一Aが双子の弟総二になったのでした。

現代編

現代編の主観世界はパラレル世界βであり、黒幕は「エド」です。ちなみにリアル世界αの方ではエドは改心し、平和な時間が過ごされています。主観世界βのエドは「魂の転生」を行いテスラと結ばれるために、大規模な超能力開発実験を行います。これにより総二たちは学園ごと時空の狭間に閉じ込められ「漂流教室」状態に陥り、総一たちは世界線βで「エド」からの襲撃を受けることになります。この「漂流教室」の文章の大半は学園異能バトルであり、つまらなくはないんだけれども、ありがちでちょっとだれます。我慢してください。時空の無限ループでカニバリズムの所はちょっと面白かったですが。・・・で、結局のところ、総二は漂流教室を生き抜いた後に、世界線αに辿り着きます。ここの世界線αではテスラが死亡しているため、αのエドは過去を後悔して善人になっており、総二に協力を惜しみません。曰く、総二が犠牲になることで、漂流教室はもとのパラレル世界βに戻ることができると教えてくれます。時空の狭間で総二に攻略されたヒロイン達は泣く泣くお別れを告げ、αの世界に総二を残してパラレル世界βに戻っていくのでした。


そして、最終的にはパラレル世界βのエドの野望を打ち砕くことが必要になります。ここでは総一の活躍がメインとなります。βのエドの目的は魂の転移ですが、転移先には総一の身体を選び、魂の上書きを行おうとします。魂の上書きが成されてしまえば、総一の人格は消滅するので、死んだも同然。大ピンチな総一にアルの手助けが入ります。パラレル世界βにとんだ総一A(総二)は、時間跳躍の際にアルの魂を消費していましたが、跳躍先の総一B(総一)にはアルの魂が残っていたわけですね。そんなわけでアルの魂が発動し、エドの記憶の上書きを防いでくれました。こうして、アルとエドは仲良く魂を消滅させていきます。ついにパラレル世界βでもエドの野望は阻止され平和が訪れました。とってつけたかのように総二も世界線αから世界線βに時空転移することに成功し大団円です(ご都合主義的な所もありますが、未来から自分たちが助けに来るという展開は『のび太の大魔境』を彷彿とさせます)。「アル」と「エド」、「総一」と「総二」の登場人物を中心にして「兄弟愛」を訴えかけてきます。兄弟仲がいい人は羨ましいわー。