雑録

なつくもゆるるの感想・レビュー

なつくもゆるるは、終末思想を扱った未来形SFモノ。
10の72乗年後の宇宙が膨張して消滅する世界で人類を生き延びさせよ。
重力を主題とした学園異能バトル、生態系における生命が生きる意味、ループにおける思考実験。
別宇宙の未来で新生人類が生き残れるようにするため、同じ時間を繰り返せ!!
読み物として面白かった。

なつくもゆるるの概略

なつくもゆるるは当初は生物部における生態系の実験を楽しんだり、閉鎖空間でのホラーちっくなテキストにドキドキしたりする設計になっています。学園異能バトルも展開されますし、並行世界などのSFも容易されていて読んでいて飽きません。物語の「構築世界設定」を、テキストを読み進めながら謎解きしていき、ループを周回するうちに真相に迫るというのは、エロゲにおいてはお馴染みといって良い表現方法です。個別ヒロインのシナリオが物語を成り立たせるパーツとなっているわけです。この『なつくもゆるる』では、人類-ホモ・サピエンス-の終末が描かれます。ホモ・サピエンスは自分の種の保存のために、とうとう身体を捨て去ることになります。そうして意識だけの存在になるわけですが、身体を失った意識体は生存することを諦めてしまうのです。人間は身体があってこそ様々な感情が呼び起こされるのであり、意識体はただ「あるだけ」の存在に成り下がるのでした。この状態から宇宙の消滅にあたり、なんとか人類を生き延びさせるという試みが行われます。それが、ホモ・サピエンスの亜種である主人公くんたち新生人類の存在であったのです。


人類が身体を残す可能性として主人公くんたち新生人類の存在が浮かび上がりました。物語世界の冒頭では、主人公くんたちは「自殺病」患者とされており、簡単に死ぬので国が周囲から隔離しているのだとされていました。実態は重力を感知できる新生人類であり、そのプレッシャーにより周囲の人間を自殺させてしまうので、隔離されていたのでした。この新生人類は危険視され、現生人類であるホモ・サピエンスに滅ぼされてしまいます。ですので、周回ループを重ねて主人公くんを鍛え上げ、現生人類に滅ぼされないようにするのが、世界を繰り返す目的だったのです。個別ヒロインとの交流は主人公くんに様々な強さを身につけさせる手段だったのですね。こう書くとキャラを攻略するという必然性がなくなり少し萎えますが、キャラクター表現は魅力的に描かれています。こうして妹・生物部部長・生徒会長を攻略していくなかで、重力の扱い方や進化の謎、別次元での宇宙の存在や世界の終わりを主人公くんは知っていくことになるのです。

ループの果てに世界の真相を知った主人公くんは最終的に別次元の宇宙で人類の世界を再構築します。この過程で主人公くんを鍛えるために世界を繰り返させていた装置としてのヒロイン(ゴスロリ)とのやりとりが見物です。このヒロインは人類を存続させるために生み出された存在でした。つまり消滅していく宇宙において思念体となり生存することの執着を捨てたホモ・サピエンスのなれの果てに代わって、新生人類を生き延びさせようしていたのです。そのため、主人公くんが新世界を創造した後は、自分の仕事は終わったと言わんばかりに消滅しようとするのです。このとき主人公くんは、たとえ装置としての存在であるヒロインであったとしても、既に受肉し、身体を持った今では感情を持っているんだ!!という趣旨のことを言い聞かせるのです。私たちの肉体は進化の中で、生み出されてきたモノ。「初めて生まれた生物の喜びが俺たちの中に伝わり続けているんだ!」とハッピーエンドを迎えます。最後に魚の「死滅回遊」の話が挙げられ、意味のないことの繰り返しでも長期的に見れば生存戦略に叶っていると余韻を残すのでした。生物多様性と進化のはなしは面白かったなー。