サクラノ詩【体験版】の感想・レビュー

筆を折った美術系天才少年が美術部員たちに感化されもう一度芸術に向き合うはなし。
挫折系主人公くんの苦悩や煩悶の様子を描き出すのは大好物です。
迷ったり悩んだり苦しんだりする姿は色々と考えさせれる。
体験版では主に学園編が主軸となり夏目家にはあまり触れられません。
また里奈ルートでは超展開☆歴史系ファンタジー「千年桜伝承編」に突入します。
最初体験版のファイルが壊れていて立ち絵が表示されずそのままプレイ。
もう1回ダウンロードしてやり直しました。

本編について

  • 息子というものは男親と比較されることを嫌うものです
    • いつの時代においても息子というものにとって男親との関係は乗り越えるべき一種の壁です。故に息子は父親と比較されることを極端に嫌うものなのです。父親が偉大であればあるほどそのコンプレックスは計り知れないものかと思われます。特に父親が死んでしまった後では、どうあがいても関係を清算できません。物語の冒頭は偉大なる芸術家を亡くした葬儀から始まります。父親に芸術を仕込まれ2世として周囲から期待されていたにも関わらず筆を折ってしまった主人公くんの胸中は如何なるものなのでしょうか?本文中では主人公くんは父親としての存在は否定しているものの芸術家としては大いに認めている模様なのですが・・・。主人公くんが父親の作品をトレースできることや、作品を作ることの意味について叫んでいることが伏線となりそうな気配ですね。主人公くんがどのようにして父親を乗り越えていくかを楽しみに待っていましょう。父親が死亡しているため安易な和解展開にならないでしょうから期待が持てます。
    • また筆を折っていた主人公くんが贋作を作って大金を得て、夏目家の家屋敷の相続に使ったような様子が文脈から読み取ることができます。


  • 教会壁画について
    • 夏休みに突入すると元・美術部部長の明石編が始まります。合宿に行こうという流れになるのですが、元部長;明石(兄)は何やら陰で画策している模様。普段は破天荒な元部長なのですが、いつもとは様子が異なるようです。これに気づいたのは現部長の鳥谷さんで、彼女の示唆により主人公くんは真相に近づいていくことになるのです。明石(兄)の狙いは学園における教会壁画を完成させることにありました。この教会及びその神父さんは明石(兄)・妹A・妹Bにとって大切なものだったからです。明石妹Aは幼少期に千年桜を見たことがありました。しかし妹Aは嘘つき呼ばわりされてしまうのです。大いに傷ついていた妹Aを救ったのが神父さんであり聖書を引用しながら信じることの尊さを語ったのでした。これにより妹Aの精神状態は大いに救済され、妹Aを溺愛している妹Bも安心します。
    • この神父さんは現在は癌に毒され闘病中であり手術を控えていました。そんな神父さんに見せるため、明石(兄)は未完成であった教会壁画を完成させたかったのです。この壁画には主人公くんの父も一枚噛んでおりました。故に、このことを口実にして、全てを1人で行おうとする明石(兄)に対し、主人公くんは強引に力を貸していきます。2人は必死で努力するのですが、到底間に合うものではなく、あわや器物破損の罪で捕まりそうになってしまいます。そこへ駆けつけたのが美術部一同であり、力を合わせて壁画を完成させます。そうです、この壁画はみんなでワイワイやりながら楽しんで完成させるものだったのです。主人公くんの父親は神父さんが信徒の子どもたちと楽しんで壁画を作れるように仕組んでいたのでした。「みんなで楽しんで作品を作る」というコンセプトは大いに成功し、美術部一同は夏の想い出を刻むのです。
    • 教会壁画事件ではその後始末もまた問題になります。美術部一同の行為は犯罪そのものであり、どのようにして解決されるかが焦点となります。これについては世界的に有名な主人公くんの父親が設計した壁画を、その息子である主人公くんが完成させた(美術部員と共に)という設定で落とし前をつけることになります。そのことで大人サイドは教会壁画の話題性と注目度を高めようとしたのですね。これには主人公くんが大反発。作品を作るって意味分かってるのかよ!と声を荒げるのでした。ここから主人公くんが過去に何か作品に対する想い入れに対して問題があったかのような雰囲気が窺われるのですね。忸怩たる思いをする主人公くんに明石(兄)は、神父さんと妹たちに分かってさえもらえればそれで良いと主張します。「作品が何のために生まれたのか、何のために作られたのか、我々が何のために作品を作るのか、それさえ見失わなければ問題無い、そこに刻まれる名が自分の名ではないとしてもだ…」という場面は思わずグッとくる展開です。

各ヒロイン個別√について

  • 鳥谷さんについて
    • 現美術部部長。主人公くんが愛好している日常陶器の製作者。喫茶店のオーナーの代わりに店を切り盛りする代償として二階に下宿させてもらっています。鳥谷さんは当初、陶器の製作者であることを隠していたのですが、割とすぐに主人公くんバレします。また陶器だけでなくお菓子作りなどの才にも溢れており、落雁などの砂糖菓子を振る舞うシーンはステキ。鳥をモチーフにした落雁宮沢賢治を暗唱しだす場面はグッとくること請け合い。また教会壁画事件における主人公くんと校長の攻防の過程において、鳥谷さんが校長の娘であることが判明。親子仲は折り合いが悪く現在別居中とのことですが、その過去も気になるところです。体験版の最終場面において鳥谷さんは受験の前哨戦となる展覧会(ムーア公募展)で本気で賞を獲得することを狙っていることが明かされます。これが鳥谷さんルートのテーマとなりそうです。


  • 稟について
    • 文中の端々で稟=死霊説が唱えられています(ミスリードかもしれませんが→追記;本編では稟の母親が死霊となって幼女状態で登場。稟自身は死霊ではない)。稟は主人公くんに惚れていた幼馴染みで疎遠になっていましたが、舞い戻ってきます。戻る決意をした理由として祖母のすすめを挙げるのですが、その際過去を清算することが述べられており、未練を果たして成仏することを指していると邪推してしまうのは私だけではないはず。稟が提案する合宿先が『向日葵の教会と長い夏休み』の舞台であり、稟とキャラデザが割と似ている詠ルートで「死霊と猫又」がテーマになっていることも伏線となっていそうですし。そして稟と夏目雫の関係も見逃せません。主人公くんと稟及び雫は3人で幼馴染みのようなのですが、その事実を封印しておかねばならない事情がありそうな様子が醸し出されています。具体的には、稟と雫が初対面という設定で接していることがあります。なぜ稟と雫は幼馴染みとして振る舞わないのか、そしてその背景にある夏目家の問題とは何か!?が気になるところ。あと余談ですが稟の趣味の一つとして地形図の読図が紹介され古地図を眺めるというエピソードが語られ大興奮。いやー地形図比較は面白いですよねー。用地の変遷とか道路計画と河川の付け替えの判読とか。活断層などを研究している地形屋でお馴染みのKUMAKUMAには地図を読む面白さを教えて頂きましたが元気かしらん?

  • 里奈について
    • 超展開☆歴史系ファンタジーが始まるよ(ホントウ)。里奈の前世は宗教的な家系の託宣の巫女。ある時を境にして里奈は前世の過去を夢に見るようになっていきます。さらに里奈の前世の巫女の名前を御神体として祀っている神社も登場。ここで稟死亡説を強化させるエピソード「千年桜伝承」が挿入されます。「人の強い想いと共鳴して花を咲かせる」「人の強い想いを喰って花を咲かせる」「叶わなかった過去の誰かの想いを、現代に形にするために、花を咲かせる」「奇跡なんてもんは呪いと変わらない。呪いと奇跡は似ている。見え方が違うだけだ」などなど。そして巫女の悲劇としてお約束の「人身御供」展開もお忘れ無く。干ばつの際に儀式を放り出し駆け下ちした巫女は呪い殺されて生け贄となり雨を降らせるという流れ。里奈の前世の巫女と主人公くんの前世の若殿が転生して現在の時間軸という感じになるのでしょうか?また回文「なかきよ」の登場には『マリみて』を思い出した人も少なくないはず?(流石にオッサンすぎるか?)。

 

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