果つることなき未来ヨリ「第一章」の感想・レビュー

異世界転生モノ。ゼロ戦特攻パイロットがホロコーストを行う侵略国に対してレジスタンスすることが大きな目的。
死生観を扱っており人間が生きる事の意味を様々な立場(種族・民族・宗教・理想)等から描き出す。
第1章は犬族と猫族の抗争を舞台に、集団として生きるか個人として生きるかの相剋が示されていく。
主人公イチローを犬族側に立たせることで「群れとして生きる」種族の価値観を提示する。
だがその「群れとして生きる」種族の価値観が創造されたイデオロギー操作だった!というところは面白い!!
ぶっちゃけ犬族ヒロインが同じ問いにグチグチと悩み続け同じやりとりを数回繰り返すので結構読むのシンドイ。
塔の攻防戦後、ハッピーエンドにするのではなく卓袱台返しで指導者殺害展開にしてようやく葛藤を解消する。

第一章概要


  • 犬族と猫族の攻防を通して集団としての生か個人としての生かを描く
    • 主人公のイチローレジスタンスの下士官となり民族浄化を行う侵略国に対抗していくことになる。その手段は抵抗勢力をまとめ上げること。こうして犬族のキャラバンに派遣され、協力を得るために、そこでの問題解決に協力することになる。犬族は群れ社会で生活しており「指導者様」を抱いて統率された秩序を維持していた。しかしこの群れ社会を気に入らないのが個人の好奇心を重要視する猫族であった。この犬族と猫族の相剋は極めて個人的な理由から種族の命運を賭けた戦争へと発展していく。犬族が構成するキャラバンは社会的弱者を吸収しながら移動する大きなものであったが、当初は「指導者」を中心とする大きくないグループであった。そこで犬族ヒロイン枠のアイラは奴隷として売られそうになっていた猫族のキュリオを救済する。奴隷として扱われ自己の尊厳を持たないキュリオを育てるうちにアイラには家族への愛情が芽生えていく。キュリオはアイラの献身もあって徐々にアイデンティティを確立していくが、これが悲劇に繋がっていくのだ。アイラたち犬族とキュリオの猫族の間には死生観に関する価値観の相違があった。犬族は群れ社会を尊び個人の生命よりも群れのために生きる事や一族の誇りを示すことに生き甲斐を感じる。しかしながら猫族は個人としての生に価値観を見出すのである。猫族のキュリオは本を読み知識をつけることによって、犬族の価値観と対立するようになる。そして最終的にアイラと共にキュリオに愛を注いで育てていたジジイの命を踏み台にしてしまうのだ。これがどうしても許せないアイラと、群れに縛られるアイラ哀れむキュリオ。こうして二人の対立が種族を巻き込み戦火は拡大していく。



  • 群れとして生きる事が種族の生存理由なのにそれはイデオロギー操作の茶番だったというはなし
    • イチローの最終的な目標は昭和20年の日本に帰ることであり、そのためには異世界各種族の伝承を集める必要がある。猫族=侵略国の連合軍を撃破したイチローは犬族の「指導者」から創生神話にまつわる伝承を語られる。その告白により、犬族が尊いと考える「群れの集団として生きる事を自己の生存理由とする価値観」は、「指導者」によって作られたイデオロギー操作の産物だったことが判明する(ここらへんは結構面白い)。「指導者」は600年前に世界の始まりから存在する概念的存在と同化した。「指導者」は単なる物乞いの少女に過ぎなかったのだが、その力を駆使して奴隷種族として虐げられてきた犬族の解放を実行する。犬族は神から世界を観てくるように派遣された種族だとの神話を創りだしたのだ。これにより隷属民として小さなコミュニティに始終していた犬族たちは世界各地に散らばっていき、その武勲を知らしめるようになったのだとか。また種族解放だけに留まらず、「指導者」が号令をかければ各地の犬族を動員でき、一大勢力を形成することも可能になっていた。だが「指導者」は民族を欺き続けてきたことを悔いており、猫族との戦いが終わったこともあり、犬族たちの前で秘密を晒そうと決意していた。はーい、ここで卓袱台返しタイムだよ〜!!なんと猫族のキュリオは死んでおらず「指導者」を暗殺してその力を吸収!そして今まで集団としての生に囚われキュリオの裏切りに縛られていたアイラちんがようやく解放されるお時間がやって参りました。キュリオは「指導者」から吸い取った力を御しきれず瀕死状態であり、アイラに食われることを望んだ。アイラはかつての友であり家族であったキュリオを食うことで、今までの苦悩にケリをつけることになる。生きる事に対する価値観は多様であるとアイラが理解した瞬間であった。つまりはキュリオは民族が尊ぶ価値観が創造上の産物に過ぎないことを知っており、それからの解放をアイラに促していたのだ。最終的に犬族のキャラバンの残党はレジスタンスに組み込まれることになり第一章は終結する。



  • 犬族と猫族の価値観の違いまとめ
    • 犬族
      • 「命の価値は人によって違う。しかし、群れはまた別の仕組みで動いている。群れて生きていくしかなかった者達は、当然群れのために生き、死ぬことも厭わないようになるのは当然だ。それを幸か不幸か口にするのは、人でなしのやることだ」
    • 猫族
      • 「人生に意味なんてない。生きていくことが人生に意味を与えるんだよ。人生の価値はね。正しくあるかどうかじゃない。自分の人生に自分で価値を与えられるかどうかなの」