果つることなき未来ヨリ「第二章」の感想・レビュー

平和主義を標榜する民族を描くことで戦うことの意味を表現しようとするはなし。
第一章は結構テーマ性が深かったが第二章は平和主義とは何かについて全然掘り下げられない。
まぁームズカシー扱いだからなぁ、平和主義・・・。ナントカ法案とか積極的ナンチャラ主義とか。偏っちゃうだろうし。
戦闘場面もあっさりとしており、メインはイカ退治するだけ。
異世界創生神話も「わたつみ信仰」がさらっと説明される程度。
全体として第二章はあっさりとした感じだったという印象が強いです。

第二章概要


  • 海運の確保
    • 陸路のインフラが破壊されたことにより補給が滞るようになったレジスタンス軍。このままではジリ貧で干上がってしまうため海運を確保したいところ。しかし海運を握る人魚族は平和主義を掲げ鎖国体制を敷いていた。そんな人魚族に協力を要請すべくイチローたち一行は交渉しに行く。目的は単純明快で、人魚族が繁殖を行う聖域が侵略国に制圧されてしまったので解放して欲しいとのこと。サクサクと行動するイチローたちだがあまりにも事が上手く運びすぎてきな臭く感じる。その予感はあたり、人魚族たちはイチローたちを侵略国に売る代わりに聖域を返して貰おうとしていたのだ。イチローたちはまんまと騙されるわけだが、その熱い思いと行動は人魚族を感化し、味方に引き込むことに成功する。聖域の開放と海運の確保ということだけはぶれない指針。と、いうことで聖域を取り戻すためにイカ退治を行うという流れ。一章のような大規模戦闘は展開されず、結構簡単に終わった。特に何かを挙げるとするならば、平和主義を掲げて事なかれ主義に陥っていた人魚族たちが自らの意思でイチローたちに協力するようになったことカナー。ただ棒立ちで突っ立ってるだけが平和主義じゃないよというはなし。それでも平和主義とは何かを深く掘り下げようとすると現在取り扱うのが難しいナントカ法案とか積極的ナンチャラ主義とかに触れなければならないので当たり障りのないような感じに仕上がっている。いやライターさんが自分の考えを真摯に取り上げ思想性大爆発させてればそれはそれで評価されたと思うが商業的に成り立たなかったのかも知れない。



  • 平和主義と戦う事の意味
    • 武器を持つ兵士は戦争の理由を知らない。戦争の理由というものはいつの時代も後付けで正当化されるもの。アメリカ独立戦争の時も、レキシントン=コンコードの戦いの後、トマス=ペインの『コモン=センス』やジェファソンらによる独立宣言で戦争が正当化された。また日中戦争の時も、戦争開始後に近衛声明によって戦争目的が示された。実際に戦場にいる兵士たちは目の前の戦いを戦わなければならず、総力戦のために銃後を動員するための御題目など気にしては居られないのである。そんな中、今まで無目的に戦ってきたイチローが人魚族との交流の中で、戦う意味を見出していくところは結構好き。イチローが人魚族ヒロイン枠のメルとサンドイッチを食いながら戦後復興の話をし、「聖域を取り戻したことで海域の封鎖が解け、船を使っての貿易が再開される。それが新たな仕事を生みやりとりされる貨幣は人々にパンや毛布を行き渡らせる」とか言い出すイベントは個人的にオススメの場面。



  • わたつみ信仰
    • 異世界におけるイチローの目的の一つに各民族の創生神話を集めて自分の世界に帰るヒントにすることが挙げられる。人魚族の創生神話は「わたつみ信仰」。高校倫理における古代日本人の宗教観のところでもお馴染み。「わた=海」、「つ=の」、「み=神」。つまりは「海の神」の信仰・原始的なアニミズム。古代日本人は自然現象や巨石・巨木・海・太陽など恐れ敬う感情を抱くものを神とした、というやつ。人魚族は全ての生命は海から生じ、先の大戦は海への信仰を蔑ろにしたために発生した大海嘯であり、死んだものは全て海に帰るという創生神話を持っているとのこと。第一章の創生神話がイデオロギー操作であるというなかなかパンチの効いた展開だっただけに、人魚族の神話が以後、どのように物語に関わってくるかが注目される。