見上げてごらん、夜空の星を 「日下部ころな」シナリオの感想・レビュー

無目的に人生を流されてきた少女が「夢中になってやれること」を見つけるはなし。
年下であることを理由に幼少期に主人公くんたち幼馴染みメンバーからはぶんちょされたころなの逆襲が始まる。
攻めの女であるころなが主人公くんを攻略するため幼馴染みBと対決するシーンは印象深いです。
ころなが自分の主体的な意志で天文に関心を持ち「流星電波観測」をやりたいと述べる所はグッときます。
幼馴染みズ√個別に入ると天文部が人間関係描写の装置と成り下がるのに対し、ころな√ではわりと天文します。

ころなシナリオ概要


  • なぜ日下部ころなは天ノ川沙夜を敵視しているのか
    • 日下部ころなシナリオのフラグ構築の重要なイベントとなるのが沙夜との対決と和解です。ころなは沙夜を敵視していましたが、それは何故だったのでしょうか?理由は「沙夜が主人公くんを裏切り見捨て孤独にした」ところなが思い込んでいたからでした。ころなは幼少期から自分をかまってくれる主人公くんにぞっこんであり兄のように慕っていました。しかしそんな主人公くんにふさわしいのはお姫様である沙夜だとも思っていたのです。ですが、ひかりと主人公くんが対立し、主人公くんが孤独になったのにもかかわらず、沙夜が主人公くんを支えなかったことは、ころなにとって衝撃となります。この時ころはな自分が主人公くんの力になれないもどかしさ・はがゆさを感じていただけに、主人公くんを支えることの出来た(支えるべきであった)沙夜までが主人公くんから離れて行ってしまったことが許せなかったのです。主人公くんの一番側にいながら、ひかりとの対立により傷ついた主人公くんを見捨てて、さらに孤独にした魔性の女。ころなには沙夜がそのような認識の対象となったのでした。そして「魔性の女」沙夜はころな目線では主人公くんをさらに翻弄していったように見えるのです。
    • 主人公くんと沙夜は中3の時、主人公くんの祖父が死んだことをきっかけにして復縁するのですが、これがころなにはいつのまにかに沙夜がよりを戻したかのように見えたのです。そんな沙夜は高1時の「ひかりとの再会と数ヶ月後の別離」事件において、またもや主人公くんから離れていきます。沙夜自身はひかりが戻ってくるまで抜け駆けはしたくないという心情だったのですが、ころなにはとってはひかりとの再びの別れに寂しさを感じる主人公くんをこれまた沙夜が孤独にしたように思えてならなかったのです。以上のように、ころなにとって沙夜の存在とは主人公くんを翻弄する悪魔の女だったのです。しかもこれを沙夜が無意識な天然ではなく、自覚した上で計算してやっているだけになおさら腹がたったのです。結局、ころなは沙夜と対決することを決意し、夜の橋に沙夜を呼び出して問答をします。このイベントにおいて沙夜はラブレターをみせながら、「私だって傷ついていた」のだ、事情があったのだと弁明します。ころなはこれをあっさりと信じ和解が成立!長年の対立は解消されました。
    • 一度読んだ時にミスリードしてシナリオが矛盾しているように感じてしまって恥ずかしい
      • ころなと沙夜の和解の契機となるのが「沙夜のラブレター事件」。沙夜は自分が小6の時に書いたラブレターを見せることで、ころなと和解します。しかしころな√に入るには未開封状態の沙夜のラブレターをひかりに渡すことが分岐の条件となっています。故にここで「沙夜がラブレターを手にしている」ことが矛盾のように感じられてしまったのです。ラブレターを手にしているということは、ラブレターが未開封だったということを知っているはずなわけです。そうすれば「読まれていなかっただけで自分は振られていない」と自覚することになるでしょう。この「読まれずに未開封だった」という事実が幼馴染み√では沙夜を突き動かし接吻に至らしめるわけでして、ころなと和解するためにラブレターを提示することがおかしいと感じられてしまったのです。しかし冷静になってもう一度シナリオを読み直したら矛盾でも何でもない気がしてきたという不思議。沙夜接吻イベントの発生条件が「ラブレターの差出人はひかりではなく沙夜だった!という事実を主人公くんが知ること」と考えればしっくりきます。沙夜自身が振られていないと自覚するだけでなく、主人公くんが沙夜の好意を知ったということが接吻に至らしめたのでしょう。そう考えると、ころなルートの沙夜は「ラブレターを渡して貰ったら、差出人が自分であるということすら認識してもらえなかった」という状態なのでしょうね。



  • ころな√は主人公くんがころなを攻略するのではなくころなが主人公くんを攻略する
    • 幼馴染みズ√ところな√で大きく異なるところは、ヒロイン(ころな)が積極的に主人公くんを堕としにかかるという点です。ひかりも沙夜もお互いに引け目を感じ主人公くんと好感度マックスでありながら結ばれようとはしません。そんな二人とは対照的にころなはグイグイときます。「主人公くんが一人になっちゃった時、ころなが力になれれば良かった。でもころなはなんにもできないコドモだったから……でももう、今は違うよ……ころなは逃げない、主人公くんをひとりになんかしない!!」と述べる台詞はころなの行動原理を象徴しているといえるでしょう。主人公くんは、ころなの兄から「オマエが堕とされないようにしろ」と注意されるのですが、まさにその通りになってしまうのでした。ころなは主人公くんの下へ足繁く通いながら二人三脚で高校受験を乗り切っていきます。そして偏差値の高い私立高校へ見事入学を果たし、主人公くんとも結ばれるのでした。



  • 「夢中になってやれること、見つけたいって思ってる」
    • ころな√の主題の一つに「夢中になってやれることをみつける」ことが挙げられます。ころなはこれまで流されるままに生きてきました。周囲の人間が皆、目的意識を持って生きているだけにそれがころなの懊悩となったのです。そのためころなは自分が本当に天文をしたいのかと自問自答をしていきます。そんな中ころなの意識を変えることになったのが、主人公くんとのプラネタリウムでした。主人公くんからハッブル望遠鏡で撮影した写真の本を買い与えられるのですが、その本がころなのインスピレーションを刺激します。ころなは電波望遠鏡に興味を示し、「流星電波観測」をしたいと主張するのです。こうしてころなは自分の意志で能動的に天文部に入ることになったのでした。そしてちゃんと「流星電波観測」をするのが好印象です。ひかりルートは「ネットのステマ」が、沙夜ルートは「自罰的な少女の罪の意識」がテーマであったため、個別√における天文の専門性が失速しただけに、ころな個別でわりと天文してくれたのは良かったです。目ではなく音で感じるんだ!!幼馴染みズルートが「見上げてごらん」がモチーフだったのに対し、「見上げなくても」夜空の星を見ることができるということがころなルートの独自性を出していて味わい深かったです。