千の刃濤、桃花染の皇姫「柿紅葉(因果の相殺律編)」の感想・レビュー

人間の歴史は光明神と暗黒神の闘争の歴史とかいう善悪二元論的な展開。ゾロアスター教
天照大御神の力で国家統一した皇家にとり憑いたのは、人間のダークサイドを刺激する暗黒神 →「因果の相殺律」
以来、皇族が続く限り、姿かたちを変えて暗黒神は災厄をもたらし、禍魄と呼ばれるようになる。
呪装兵器である主人公くんは永遠の命の中で、禍魄と戦い続けてきたというわけさ。
禍魄は討伐される度に、如何にして壮大華麗に皇族を苦しめるのかの工夫を凝らすようになった。
物語の時間軸で米帝に皇国を侵略させたのも、米帝の国家成立の時から禍魄の策略の一環だった!と伏線が回収される。

人間の歴史は光明神と暗黒神の闘争の歴史とかいう展開


  • 国家政体論のはなしが宗教的ファンタジーSF展開にシフトチェンジ
    • 前世編において呪装兵器であったことが判明した主人公くん。能力を取り戻させるため防衛拠点で覚醒待ちタイムが始まります。そこで主人公くんは自分が巫女たちの命を犠牲としながら皇国を維持し、暗黒神;禍魄と戦い続けてきたことを思い出していきます。禍魄は始祖;緋彌乃命に執着し、彼女が転生を果たすまで、皇族の血筋に災いをもたらし続けるのです。主人公くんは終わりのない泥沼に引きずり込まれ、禍魄との無限なる戦いに身を投じていきます。しかし禍魄を討伐するごとに、もたらされる災厄の規模は大きく苛酷になっていくのでした。そして米帝の侵略さえ、禍魄によるものであったとネタばらしがなされます。そもそも米帝は国家そのものが、皇国を潰すためを禍魄によって建設されたものであったことが明かされます。つまり米帝の歴史(新大陸への植民→英国からの独立→西漸運動の展開→南北戦争帝国主義的膨張→覇権国家化→グローバル資本主義超大国)は全て禍魄が操作してきたものだった!!というわけなんですとさー。



  • 侵略の二重構造
    • 柿紅葉編は巫女;古杜音編でもあります。ここでテーマとなるのは侵略の二重構造です。物語の前半では皇国が米帝に侵略を受けたことが強調されています。しかし皇国もまたかつては国家統合の際に、敵対勢力を侵略していたのだという背景が取り上げられます。日本史でいうところのヤマト政権が勢力を拡大する際に、イズモ政権やケヌ政権を従属化に組み込んでいったとかいうアレ。自らが信仰していた土着の神を否定され、政権側の神への崇拝を強制されるという屈辱。そして物語における呪術の設定として、「呪術を使用して因果をねじまげ奇跡を起こした際の歪み」は、「服属させた土着の神へと押し付ける」という構造を持つことが紹介されます。つまりは米帝の侵略により搾取される皇国という一方的な被害者として描かれるのではなく、かつて自分たちが同じことをしていたのだと婉曲的に揶揄しているのです。琉球アイヌをはじめ熊襲蝦夷などだってヤマトに支配させられたんだぜ的な。近年では戊辰戦争での怨恨を会津若松市が忘れておらず萩市との友好都市提携を拒否したエピソード(1986年)とかが思い起こされますね。


  • 緋彌乃命の転生体となることを拒否する朱璃
    • ラスボスである禍魄は皇国に対する芸術的な厄災を求めています。そのため主人公くんたちは一挙に殺されず掌の上でもてあそばれることになるのです。禍魄が求めているのは緋彌乃命と呪装兵器の完全復活。しかし朱璃も主人公くんもそれを拒否していたのです。朱璃は主人公くんへの愛情が深すぎたため皇国よりも自己を優先させてしまっていました。緋彌乃命の自我が覚醒して朱璃自身の自我が消えたらどうしようとか、主人公くんが惚れているのは朱璃ではなく緋彌乃命ではないかとか、自分(朱璃)は緋彌乃命の代償に過ぎないのではないかと煩悶するわけですね。まぁ『ユースティア』の主題が「主体的な意思決定」でしたから、おそらく朱璃も緋彌乃命を受け入れたうえで自我を示す展開になるのではないかと現時点では思っております。どうなるかなー?