雑録

誘惑なまいきロリータ(DL版)の感想・レビュー

誰からも必要とされず生きる目的の無い孤独な主人公が少女と連帯を結び再生される話。
閉塞状況の中でも、藻掻きながら生き続けなければならない人生のつらさを描いていく。
登場人物たちが社会からはじき出された事情は所与のものとして扱われ、詳述はされない。
しかし、だからこそ表現できるのが、はっきりさせないという曖昧な中での救い。
「雪では白すぎる。夜では暗すぎる。鈍色で灰色で、ひんやりとして優しい」

目的なく生きることはつらいことだ、目的のない人生はあまりにも苦しい

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  • 居場所がない人が居なくなれる場所
    • 主人公は亡き祖母の遺産を受け継ぎ元絵画教室であった家屋を手に入れます。しかしその過程で色々とあったらしいことが匂わされており、その結果バーンアウトしてしまいアパシー状態に陥ったのでした。何日も無気力で死にかけていた主人公の下に一人の少女が現れます。その少女は祖母の絵画教室に通っていたとのことで、主人公はこの少女が来たことによって社会との細い繋がりを得たのです。少女の名はかやりといい、ネグレクトされているためか家に居場所がありません。感情表現にも乏しくダウナー系なのですが、絵画に関してだけは強い執着を見せていました。こうしてかやりは絵画教室がなくなっても毎日通ってくるようになります。
    • そしてもう一人のヒロインがかやりの友達であるあゆきで、富裕階層の活発な少女です。あゆきは世界的に有名なアスリートの子どもだったのですが、才能限界を迎えて見放されており、両親はそれぞれ外国で別の選手の育成に励んでいたのでした。あゆきが受けているのは形ばかりのレッスンであり、家には家政婦のばあやが週に何日か来るだけで、これまた家に居場所が無かったのです。こうしてかやり、あゆき、主人公は居場所がないという共通点から同盟を結成し、一緒の時間を過ごすようになったのでした。
    • 本作品はWヒロインではなく、メインヒロインのかやりを主人公とあゆきが支えるという構図になっています。もう既に「終わってしまった」あゆきとは異なり、現在進行形でかやりは才能を漲らせています。主人公は倫理観とか義務とか責任とかに苛まれるのですが、ケジメをつけるためにかやりの母親と面会をすることになります。その場面は描写は詳述されず、結果だけ示されるのですが、かやりの母にとって自分の娘がどこで何をしようとも別にどうでもいいことであると分かります。こうしてかやりは親公認で主人公のところへ入り浸り、身体を重ねることとなったのです。

 
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  • 生き続けなければならないという苦しみへの救済
    • 本作品の特徴として挙げられるのが、人物の背景事情をぼかしながらもキャラの掘り下げを行っているという巧みさです。主人公がどうして正規雇用を辞めてギグワーカーとなったのかや、祖母の家を継承するために行われた親族間のおける骨肉の争いは描かれません。かやりサイドではネグレクトする母親との面会描写もカットされますし、あゆきが才能を見放されることになった経緯も述べられていません。それぞれが所与の情報として与えられているだけなのです。それでも主人公がバーンアウトしてアパシーに陥っている苦しさや、親との関係が築けないかやりの寂しさや悲しさ、明るく振る舞うあゆきが抱えている心の闇はビシバシと伝わってきます。苦しさを生み出す原因である現代社会の諸問題をテーマとするのではなく、苦しさを抱えながらも、それでも死なずに生きなければならないという現代社会の苦しみを抉り出しているのです!!
    • 本作品では「必要とされない」人物たちが傷のなめ合い的に結びつき、お互いを必要とすることで必要とされない状態を解消しようとしていきます。そんな中、3人の中で救いを与えるのが、かやりが描く絵画なのです。主人公とあゆきはそれぞれがもう既に「終わってしまった」存在です。だからこそ、絵画に真剣に取り組むかやりをフォローできるのです。かやりが成功すれば自分たちも救われることに繋がり、また成功しなくてもかやりを迎え入れることができます。最終的にかやりが生み出した絵は、主人公によって「つらくない」というタイトルが付けられます。それは、人生に目的がないことはつらいことだが、目的があらわれるまで無目的の状態で待っていても良いのだと肯定する救いでした。

雪では白すぎる。夜では暗すぎる。鈍色で灰色で、ひんやりして優しい。
煙みたいにそよいで揺れる。融け合って解けていくような差異のない世界。曖昧の森。
森も死もきっと混じり合った、存在のない、動きとゆらめきだけの世界。
居場所がない人のための居場所でない。
居場所がない人が、居なくなれる場所。居なくなって、待っていられる。
心を動かす何かが近づいて通り過ぎるのを。

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