三、俗語が文法を所有する
- 書き言葉=聖なる技術
- 母語によらない書き言葉の術は、知識と情報の階級的独占が必要なところではいつでも頑固に保持された。
- 慣れや有用性の観点からではなく、文字術の秘儀性
- 文法のイデオロギー
- 文法を生み出して国内および国外の支配地域の諸族に使わせる必要
- 国家の誕生が導いた歴史的必然
- 文法の起源は何よりも「正しいことば」を与えるための道具であったあったから、間違ったことば、すなわち非母語を話す人たちの為にある。
- 古い文法からみて破格だの誤りだのと呼んでいるものは、文法の内的進化
- 国家の文法=禁止の体系。文法は法典・規則であり可能性を塗りつぶす。
- 文法はその本姓において、こどばの外に立ってことばを支配する道具。
- ネブリーハ カスティリャ語の文法
ちょうど、ラテン語やギリシャ語が技(arte)の下に置かれているために、何百年たってもその統一を失うわないように、今もこれから先もこの言語で書かれる内容が変わらぬままに、維持されて、将来ずっと理解され続けるように、我々のこのカスティリャ語を道具(artificio)に仕立て上げること、それが大切なのだ。
- 明治以来のエリート主義的国語教育イデオロギー
- 「帝国読本」言葉の教 其一 1892(明治25)年刊
心に思へること、人より聞きたることを、その働きによりて、人に語り伝える声を、言葉といふ。
言葉に古のと、今のとあり。古のは大かた正しく、今のは訛多し。
物に書けるは、多くは古の言葉なり。凡そ御国に生まれぬる人は、古の言葉のさまも粗ち知らでは叶はぬなり。
- 古いことばは、日常生活のなかで自然に覚えるわけにはいかず、特別に学ばなければならない。
- ヘルマン=パウロ
さまざまな相並ぶ方言がまずあって、そのなかから共通語や文字語の規範があらわれた。しかし規範言語が前以て存在したという考えにとらわれている。私はこの態度の中に、文語のみが本来生存権を持ち、口語はそのくずれにすぎないと思い込んでしまう昔ながらの先入観のとらわれをみるのである。
五、母語から国家語へ
国語とは陸海軍を備えた方言である―マックス・ワインラヒ
- 日本語の場合 「国語」「国家語」
- 上田万年の国語論
- 「国語と国家と」
言語はこれを話す人民にとりては、恰も其血液が肉体上の同胞を示すが如く、精神上の同胞を示すものにて、之を日本語に例えていえば、日本語は日本人の精神的血液なりといいつべし。日本の国体はこの精神的血液にて維持せられ、此声の響く限りは、四千万の同胞は何時にても耳を傾くるなり…千島のはても、沖縄のはしも、一斉に君が八千代をことほぎ奉るなり。
六、国語愛と外来語
- 言語ごとの国家の成立という政治史
- 俗語で書かれる文学、俗語のために書かれる文法、俗語に特権を与える法律
- 国家語として維持されるかどうかは、話しての母語に対する忠誠度に懸かっている。
- 日本語のように自分の言葉をことさらに褒めるのは劣等意識とそのてこ入れ。
- 純化主義
- ある一定の言語がいあかに純粋であるかを分析的に示すにはその言語の固有性が隣接語との間に証明されなければならない
- 語彙の独自性:純化主義が大衆的な基盤をもって一つの基盤に高まるためには、どうしても外来語の排斥という形をとる。
- ドイツと純化主義
外来語の洪水が押し寄せるたびに、その精神にとってなじまぬものは、やがて再び捨て去るであろうが、新しい概念の語像は豊かにしてくれる得として手放さぬだろう。そのことにおいてドイツ語は貧しくなるはずがない。
七、純粋言語と雑種言語
- 純粋言語は虚構⇔雑種言語は寄せ集め
- 言葉は他の言語に近ければちかいほど、もうひとつの言語に近ければ近いほど、さげすまされる。
- あることばがさげすまれるのは、それより上位に立つとされる国語や標準語に依存しているので、中心や標準価値からはずされているという感覚による。
- 隣接優勢言語と近い方言的な関係の民族は、独立した固有民族であることを示すために、固有の言語として方言を仕立て上げる。(独語←ルクセンブルク語、チェコ語←スロヴァキア語、デンマーク語←ノルウェー語)
- 方言を言語とし、国家語に仕立て上げる力は、なによりも国家である。
- Abutands prache 隔絶言語
- その言語の構造によって他の言語から隔てられているもの。
- Ausbaus prache 造成言語
- 周辺言語からの距離を保つために、絶えずの差異を強調することによって造成しなければならない言語、あるいは方言。