はじめに
一 ―新自由主義的構造改革の現在
1 選別的市場原理主義
- 新自由主義に関する最も簡にして要を得た把握の一つ
- 強調されるべきこと
- 新自由主義=市場原理主義では必ずしもなく、グローバリゼーションの進展の中で各国民国家は企業の国際競争力を回復、維持、強化するために介入・干渉をも厭わない
- 新自由主義とは、より正確には選別的・差別的市場原理主義を本質的要素とする
- 特定の分野・領域では競争導入・競争促進を強調しながら、別の分野・領域ではこれを拒絶し、企業集中を促進し、国家介入・干渉を行ってきた
- 具体例:2001年以降の日本の社会経済政策=戦略的分野や独占・寡占的大企業をも市場原理に全面的に委ねてきたわけではない
- 文字通りの市場原理主義ならば、淘汰されるべき企業に国家が手を差し伸べたり、産業再生やグローバル競争を理由にフェイリングカンパニーの企業結合を促進させたりはせず、市場に1、2社しか存在せず新規参入もない場合には、国家は企業分割を命じてでも競争が働くようにするのが理論的帰結
2 安倍政権以降の政策原理
- 新自由主義の主導者の変化
- 構造改革の推進力の変化
- 政府の経済諮問会議:小泉純一郎首相&竹中平蔵経済財政政策担当大臣→竹中氏が退いた後は衰退
- 総合規制改革会議(2001年4月〜2004年3月)
- 規制改革・民間開放推進会議(2004年4月〜2007年1月)
- 規制改革会議(2007年1月〜)
- 構造改革の推進力の変化
- 安部首相と新保守主義(新保守主義は、新自由主義の矛盾を抑え込むことでこれを補完する役割を果たす)
- 問題提起「新自由主義はもはや終焉を向かえつつあるか」→NO.
- 選別的・差別的市場原理主義と企業の国際力強化の政策に対する対抗理論
- 平等や友愛(互酬)を原理とし、その仕組みや過程を根本的に改めた政府による規制と再分配のシステムに向けて真の変革は必要だという立場からの対抗理論
二 ―対抗理論:総論
1 「改革」手続きの変革
- 諸会議の構成員
- 諸会議の構成員の多くを経済界出身者が占める
- 規制改革という極めて重要な社会経済政策を経済界の強い影響下において決定している→社会経済や財政のあり方に改革が必要だとしても、そのような必要性がこのような決定手続きを正当化しえない
- 目的実現の手段は多様であって、これに関する国民的意見集約の手続(国民の権利や財産に影響する重要政策の決定手続)に第一の問題がある
- 諸会議の構成員の多くを経済界出身者が占める
2 「改革」の実体的変革
- 日本の構造改革の有力な理論的源流の一つはアメリカの新自由主義的経済学、法学理論にある
- 特徴?:全面的商品化(universal commodification)
- 売り手と買い手が合意する限り、あらゆるモノを商品として売買してよいとする傾向であり、政府によって給付されてきた社会的サービスを民間営利企業が商品として供給するように「改革」することを含む
- ?に対する対抗理論:市場の外延をどのように限定できるか
- 売り手と買い手が合意する限り、あらゆるモノを商品として売買してよいとする傾向であり、政府によって給付されてきた社会的サービスを民間営利企業が商品として供給するように「改革」することを含む
- 特徴?:功利主義的最大化原理
- 市場の構成員全体の利益(効用であれ余剰であれ)の総和が増大するか否かをある制度や行為の評価基準とするものであり、しばしば自由競争が社会全体の富・厚生(welfare)を最大化させると結論づける考え方
- ?に対する対抗理論:市場内部のさまざまな権利・利益を定性的に把握し、これに基本的な優先順位を設定し、立法府、行政府、裁判所は、原則としてこれを確保するよう行為しなければならないとする(市場の内包の権理論的構造化)
- 市場の構成員全体の利益(効用であれ余剰であれ)の総和が増大するか否かをある制度や行為の評価基準とするものであり、しばしば自由競争が社会全体の富・厚生(welfare)を最大化させると結論づける考え方
- 市場内部の権利・権益の優先順位;国は市場参加主体、取引対象たる財、市場の過程、市場の帰結に関して、この辞書的順序において保障を確保しなければならない
三 ―対抗理論:各論
- 本稿で取り上げる検討
- 国家による各種の財産、財産権、営業の自由のの規制のより具体的な考察の一例である市場規制ないし独占禁止規制
- 取り上げる理由
1 「市場」「市場経済」に関する議論の錯綜
- 「市場」概念
- 「市場」概念はさまざまな論者によって多様な意味で用いられている
- どのような理論的視角からアプローチしようと各論者の自由であるが、いかなる意味で「市場」や「市場経済」概念を用いているのかを明確にすることが重要
3 現代における独占禁止法規制のあり方
- 問題提起:一方では予定調和をもたらすとされる市場原理=「見えざる手」(市場の自動調節作用)に過剰に依拠するのではなく、他方では独禁法の執行停止を求めるかのような議論を避けるためには、どのような道があるのか
- 競争促進原理
- 競争の保護
- 当初、自由な競争を求めたのは小規模事業者(small businessmen)であり、カルテル・トラスト・コンビネーションを取引、すなわち競争を制限するものとして、これを禁止して競争を保護しようとした
- 故・本間重紀氏の言説
結びにかえて―国家と市場と社会
- 「背景となる制度」や「社会」
- 国家(制度)が市場の弊害の波及を防止する措置