木畑洋一『二〇世紀の歴史』(岩波新書 2014年) 雑感レジュメメモ

  • この本の趣旨
    • 19世紀後半から20世紀終わりまでを「長い20世紀」と設定し「帝国の成立と解体」という視点で叙述する。

以下個人的メモ

  • 短い20世紀
    • ホブズボームの主張。20世紀を社会主義の成立と崩壊により捉える視点。1917年のロシア革命に始まり冷戦を経てソ連崩壊で終わったとする。
  • 19世紀後半のアフリカ情勢について
    • 植民地支配を受けることになったアフリカは「暗黒大陸」ではなかった。
    • アフリカ人歴史家ボアヘンの指摘→「経済面で、太平洋、地中海、インド洋へとそれぞれつながる三つの交易システムが発展を遂げていた」「政治面で、中央集権的な政治体の形成が進むとともに、各地で近代化への動きが見られ立憲制への試みが進展していた」「社会面でも教区の広がりに示されるようにダイナミックな動きが見られた」
  • 国民国家と近代グローバリゼーション
    • 国民国家とは何か → 国境線に区切られた一定の領域から成り、主権を備えた国家であって、そのなかに住む人々が国民的一体性の意識(ナショナル・アイデンティティ)をもっている(もとうとしている)国家
    • 帝国世界形成と国民国家
      • 国民国家体制は帝国世界の下で広がり始め、「長い20世紀」が進行する過程で世界を覆っていった。
      • 帝国世界の形成過程では、各帝国の中心となった国の帝国主義としての活動が、国民国家としての凝集性を高めていくという機能を持った。
      • 山室信一による「国民帝国」の概念 → 主権国家体系の下で国民国家の形態を採る本国と異民族・遠隔地支配地域から成る複数の政治空間を統合していく統治形態。
    • 人為的境界線
      • 帝国主義列強が植民地分割の過程で地球上の様々な地域に境界線を引くことにより、明確な国境線で区切られた国家の枠組みが、被支配地域に押しつけられる 
      • 独立した後、人為的境界線を国境としつつ、国民国家としての発展を目指すことになる。
    • グローバリゼーションは帝国世界の下で大きく進展
      • ヒト → 16世紀以降奴隷貿易によりアフリカ人が移動していたが、19世紀中葉以降の人口移動はそれ以前の規模を遥に上回る。
      • モノ → 蒸気船・鉄道網
      • カネ → ホブソン・レーニンの指摘;帝国主義列強による資本輸出の活発化
      • 情報 → 海洋ケーブルによる電信網
  • 第一次世界大戦
    • 帝国世界周縁の戦争から中心の戦争へ
      • 日露戦争は世界史的に見れば、ヨーロッパにおける第一次世界大戦の構図を作る意味を持った。
      • 帝国世界の周縁で繰り広げられていた競合と対立が、帝国世界の中心での戦争につながっていったという大きな歴史的構図
    • 植民地獲得戦争 → 結局のところ第一次世界大戦は、帝国主義の時代における植民地獲得競争の延長線上に位置づけられる戦争としての性格が強かった。
    • 日本軍による捕虜処遇
      • 収容者が丁寧に扱われ、盛んな文化活動 → 帝国世界のなかで、日本が支配する側の一員「文明国」の一つとして国際的な認知を得るためには、ヨーロッパ列強によって作られた国際法を遵守する姿勢を示す必要があり、捕虜処遇はその良い例となった。
    • 総力戦
      • 総力戦とは → 軍事力のみならず、国の経済力、技術力などすべての力が戦争遂行のためにあまねく動員され、そのような動員を可能にするような国内の政治的結集、国内の政治的教導が実施されていく戦争
      • 帝国の総力戦 → 主要な交戦国はそれぞれの帝国領域の拡大をこの戦争によって行うことを目指したが、そうした戦争を遂行するためには、既存の帝国内の人的・物的資源をできる限り動員していくことが必要となる。帝国世界の下での支配−被支配構造の広がりの帰結として、この大戦では帝国の総力戦が大規模に展開した。
      • 戦争と社会契約 → 帝国の総力戦のなかでの宗主国のための戦闘で大きな犠牲を払うことによって、宗主国からの自立意識、国としての独立意識が一段と深化した。
  • 戦間期
    • 委任統治領 → 支配の程度によってA式〜C式の3つに分ける
      • 「英自治領の旧ドイツ領植民地併合要求とウィルソン的理想主義にリップサービスを払う必要性との間を架橋する巧みな案」(マーク・マゾーワ)
      • とはいえ第一次世界大戦の戦後処理にあたって、植民地がそれまでのように植民地として列強の間で再分割されるのでなく、国際連盟が介在する国際的統治という建前をとらざるをえなかったことの歴史的意味は、過小評価すべきでない。
      • 「最早公然と自国の利益の為に領土を併合することは公言できなくなり、表面丈けでも土民の安寧幸福を目的に統治をしなければならなくなった」(国際連盟委任統治委員会委員民 俗学者 柳田国男
  • 第二次世界大戦
    • 独ソ不可侵条約(1929.8.23) → ドイツに対抗するためにイギリスやフランスと協力関係を構築することを望みながら、英仏の冷淡な姿勢の前でそれに奏功しなかったソ連が逆にドイツと結び、世界を唖然とさせた。
    • 第二次大戦の始まり(1929.9.1) → ドイツ軍がポーランドに侵攻し、英仏が対独宣戦布告を行う。
    • 第二次体制の本質
      • 結局のところ、ファシズム陣営と反ファシズム陣営の対立は、帝国世界の修正のやり方をめぐる対立であり、その根本的変革をめぐる対立ではなかった。
    • 大東亜共栄圏の実態
      • 「南方占領地行政実施要領」 → 「現住土民に対しては皇軍に対する信倚の観念を助長せしむる如く指導し其の独立運動は過早に誘発せしむることを避くるものとす」
      • 日本はアジアのために戦ったわけではない。南方占領の目的が重要国防資源の急速な獲得と作戦軍の自活確保にある。
    • 帝国の総力戦の大規模化と弛緩
      • 第二次大戦では第一次大戦よりも総力戦が大規模化したが、その分乱れた。帝国内部において総力戦に反抗の姿勢を示すばかりでなく、敵側への積極的協力姿勢を示す民族運動家も公然とあらわれた。また各国が占領した地域における抵抗運動が戦争体制を揺さぶった。
  • 戦後 
    • 植民地の独立と帝国の解体
      • 脱植民地化によって登場した国家については、それまで奪われてきた主権を、限界はあるにせよ、まがりなりにも獲得した点を何よりも重視すべき。
      • 新たに独立した国々は、国連への加盟をを認められることによって主権国家としての位置を確保していったが、そのような加盟国の増大は植民地独立を推進する国連の姿勢の強化につながっていった。
    • パレスチナ問題
      • 1947年、イギリスはパレスチナ問題の解決を国連に委ねることに決めた → 「責任放棄の行動であって、帝国史上先例のないもの」(ジョン・ダーウィン)
    • 独立後の旧被支配地域
      • 政治的独立が真の自立と繁栄につながることを夢見ていたが、実際には多くの地域でその夢が破れる
      • 国家の枠組みがアフリカ分割の過程において、多様な民族集団を無理矢理まとめあげる形で人為的に引いた国境線によるもの。「国民国家」を創り上げていくための国民的一体性を涵養する条件が乏しい。
      • 権威主義的な政治体制と腐敗……民族運動の組織的惰性(=民主的討議はしばしば運動の効率的遂行の障碍物として見なされた)  →民主的手続きをバイパスして権威主義的な手法に訴えていく。
      • 経済発展に必要な経済戦略とそれぞ実現していくに足る優れたリーダーシップの欠如 → 民族解放運動の強力な指導者が独立後の有能なリーダーになるとは限らなかった。
      • 脱植民地化によって主権を獲得しながらそれを有効に行使し得なかった新国家の指導者たちの責任回避
    • 冷戦と帝国性
    • アメリカに有利な国際システムの構築
      • 戦後世界で経済的優位に立ち、自国の経済力に有利な環境を作り出す。国際通貨基金世界銀行、GATTなど第二次大戦末期から直後にかけて作られた国際経済組織や枠組みは、アメリカ資本主義の利害を反映したもの。
    • 社会主義
      • 冷戦の終結で評価が完全に地に堕ちてしまった感のある社会主義 → 脱植民地化の最高潮期には、多くの人々にとって光を放つ考えであった。
      • 支配され収奪されるそれまでの状況を脱した後、平等で豊かな社会を実現する理念として、社会主義はきわめて強い吸引力を示した
    • 植民地近代化論の欺瞞
      • NIESなどの発展は、旧植民地諸国の政治的独立後の国際環境と、そのなかでの経済戦略・開発戦略の問題。
  • 帝国世界が終わった後の世界
    • グローバリゼーションは国民国家の衰退や消滅を決して意味しない
      • 現在の世界の姿 → 帝国世界が変容、解体した後、国民国家によって世界が覆われる状況の下でグローバリゼーションが進んでいる……帝国世界が胚胎していたこの世界の構造が、帝国世界の解体によって前面に押し出されてきたということができる。
    • 新たな格差
      • 途上国の経済成長により先進国との格差は縮まってきている。一方で、先進国内部では生活格差が拡大している。2013年秋、日本において所得格差を示すジニ係数が過去最大となったことが発表される。
    • 暴力
      • 内戦や地域紛争は冷戦下で大国の思惑の下に抑え込まれていた民族的矛盾や宗教対立が、冷戦の終焉によって解き放たれたことによって起こったが、帝国世界にその源をもつことが多い。
      • 「分割統治」の歴史や、帝国世界の下で人為的に引かれた国境線による国家領域の下での独立が生み出した軋轢が、資源をめぐる競合や外部からの干渉とも絡みながら、内戦につながっていった。
      • 世界に残存する暴力 →「テロリズム」とそれに対する「反テロリズム戦争」が生み出している負のスパイラル。