水葬銀貨のイストリア「BAD END」の感想・レビュー

生き足掻く主人公くんが、全ての生存理由を打ち砕かれて、自殺するはなし。
不器用にしか生きられず、それでも何とか生きようとする主人公くんが、最後に絶望します。
すごく面白く、思わず熱中して読み込んでしまいました。味があっていいね。報われない思いが最高です。
自分が救おうとした小夜さんに糾弾されながら誇りを失っていくシーンはみどころです。
最後に無様に飼い主に縋る描写は心揺さぶられるものがあり、麻薬を飲んで海に飛び込むのでした。

このグランドルートからのバッドエンドこそが味わい深い


  • 「善良な意志にもかかわらず万事失敗に終わった人、ここに眠る」
    • ヒロイン全員を攻略するとグランドルートに入れます。正直、ヒロイン攻略なんてオマケみたいものです。このバッドエンドこそが本作品の一番の魅力ではないでしょうか?各個別√は必ずヒロインの犠牲に成り立つものでした。玖々里を犠牲にすると夕莉・ゆるぎ√に入り、夕桜を犠牲にすると小夜・玖々里√に入ります。しかしついに主人公くんは誰も犠牲にしないために立ち上がるのです。ここでイベントとして扱われるのが、主人公くんと夕桜のポーカー対決。夕桜は自分を犠牲にすれば主人公くんが救われると思い込んでおり、自分が勝ったら諦めろと訴えるのです。そしてディーラーには小夜さんが召喚されて兄妹バトルとなります。本来なら主人公くんが負けるわけなどないのですが、なぜか夕桜に勝ち切ることができません。まぁディーラーの小夜さんがカード分配の時にイカサマして夕桜が有利になるようにしているのですがね。ここでプレイヤーが小夜さんのイカサマを見抜ければグランド√グランドエンドになるのですが、主人公くんにあくまでも自分を信じて戦わせるとグランド√バッドエンドに入れます。
    • 敗北した主人公くんに突き刺さるのは無慈悲な小夜さんからの断罪。主人公くんはこれまで「自分が得意な」ポーカーで勝利を重ねてきました。そのポーカーは主人公くんが心から尊敬する師匠である小夜父に教わったプライド、心の拠り所とも言うべきものでした。しかし小夜さんは言うのです。これまでお前が勝利できたのはお前が強いからでもなんでもなく、お前の飼い主である紅葉さんが勝たせるようにとディーラーである私にイカサマをさせていたからなんだと。これにより主人公くんは本当に自分が道化師であることに気づいてしまったのですね。自分は独りよがりになってただ空回りしていただけなんだと。
    • そしてラストは飼い主にみっともなく縋るエンド。これがまた味わいがあってステキ。主人公くんがこれまで飼われてきたのは、主人公くんこそが「人魚になれる存在」ではないかと期待されていたからでした。不幸のどん底にある主人公くんを苛め抜くことで涙を流すのではないかと思われていたのです。しかしそんなことはなく主人公くんは最後まで泣くことができませんでした。そんな主人公くんはプライドも存在理由も何もかも無くして、最後に飼い主に縋るのです。飼い主の紅葉が最後に与えたのは麻薬でした。主人公くんはそれを飲み、海に向かって飛び降り自殺。その際、紅葉に自己の存在を植え付けるため、わざと紅葉が押し出すように仕向けて海の藻屑と散るのでした。
    • 最後に自殺で終わらせる紙芝居ゲームとしては、『すば日々』『天いな』『ナルキ』などがあります。『すば日々』は「終の空」編で覚醒剤集団狂気飛び降り自殺エンド、『天いな』は無理心中、『ナルキ』はホスピスが主体的な意志決定をして自己の存在理由を証明するために自殺というものでしたね。人間の挫折や懊悩は心に響くものがありました。