枯野瑛『終末なにしてますか?もう一度だけ、会えますか?♯03』(KADOKAWA、2016)の感想・レビュー

大義の為に世界を滅ぼそうとした主人公くんが単なるエゴでしかないことに気づく話。
そして自分のためでなく愛する女のために世界を滅ぼそうとするのであった。
一方で主人公くんが愛する女は、自分を救ってくれようとする主人公くんを止めようと決意する。
そして前世ヒロイン(使い潰されるだけの人生を否定する女)が現われ主人公くんに同調するのであった。

使い潰されるだけの人生に意味を見出すことができるか

  • 大義のために死ぬというエゴ
    • 主人公くんの義兄は、平和ボケした大衆たちに軍事力の必要性を説くため、意図的に脅威をもたらした結果、制御できずに暴発させてしまいます。それにより主人公くんの故郷および家族は滅亡し、義兄はスケープゴートにされ処刑されてしまうのでした。以来、主人公くんは義兄を理解しない世界があるならそんな世界は滅びてしまえと、世界転覆を目指したのです。こうして主人公くんは義兄という「大義」を掲げたのですが、03巻ではそれが単なるエゴにしかすぎないことが指摘されます。家族も親友も亡くしてしまった世界に残された主人公くんは、ドラマチックな自殺のために、義兄を口実にしているに過ぎなかったのです。
    • しかし主人公くんには義兄のため・エゴのため以外に、もう一つ世界を滅ぼす目的ができていました。それが、少女たちに自己犠牲を前提とした特攻玉砕を行うことを強いる世界を転覆することだったのです。主人公くんはティアットたちと接していく中で、その思いを抱き、また深く確信していきます。自分のエゴのために義兄の死や大義を利用していた主人公くんが愛する女のために世界を滅ぼそうとする思想に転向する瞬間でした。
  • 兵器としての利用価値に過ぎないとしてもその生命の意義を示したい
    • 03巻ではティアットが特攻玉砕を決めたがる事情がもう少し詳しく紹介されます。前作の終局部分でも扱われた出来事だったのですが、死霊兵器の有用性が問われるようになっていたということです。もともと死霊兵器は浮遊し拡散する魔獣に対抗するための措置として生み出された存在でした。そのため、その魔獣が討伐されてしまえば、別にいなくてもいいじゃんとなるわけですよ。そうすると死霊たちは兵器になるための調整が受けられずそのまま泡沫として消えていくだけになります。現に、物語の時間軸では調整が止められておりティアットたちの後輩たちは兵器にすらなれないという状態が続いていました。ティアットは自分がメガンテして別の魔獣にも死霊兵器が有用であることを示すため、後輩たちが調整を受けられるようになることを目指していたのです。兵器すらなれず何にもなれないまま消えていくよりもせめて死霊兵器となって生きた証を残せた方がいいと考えるわけですね。
  • 兵器としてしか価値がないなんてそんな世界滅びればいいのに
    • 03巻では死霊兵器としての在り方を問う前世ヒロインが登場します。軍によって都合よく使い潰されることに対し、それでも存在意義を示すため従い続けようとするナサニアと、単なる兵器として成り下がるのなら存在する前に消えた方が良いというエルバの二人です。02巻でラキシュは意識不明となるのですが、03巻で前世での記憶と混濁し、このエルバの記憶と融合するのでした。ここでエルバの思想と主人公くんの思想が同調するという展開です。生命としての基本的人権の配慮もなされず一方的に搾取されるだけの人生なんてまっぴらごめんだぜ!こうして主人公くん&ラキシュエルバVSティアットという主義主張の対立構造が提示されたのでした。