裕時悠示『29とJK』(SBクリエイティブ株式会社、2016)の感想・レビュー

オッサンがJKに惚れられてフラグをへし折ってあげる所までは非常に面白いと思う。
おじさん向け90年代サブカル懐古厨的パロディテキスト満載俺TUEEE系現場主義労働社畜肯定論な作品。
作中で提示されているように評価の高い作品を分解して取り出した諸要素を用いて再構成している。
ハイスコアガールで90年代懐古が流行ったように80年代後半生まれならド・ストライクでしょう。
ゼロ年代に若者時代を過ごしたおじさん御用達のラノベとなっております。
あと耐え抜いた社畜が全面的に肯定されるマッチョリズムな作品ですので逃げた人は辛い。

雑感

  • フラグクラッシュまでは面白い
    • 本作品の魅力は相手の好意を拒絶するところにあります。そのためメインヒロインを警戒し、好意を受け入れず、フラグをへし折っていく様子はとても楽しく読めます。またメインヒロインを振る所にカタルシスがあるので、ぶっちゃけフラグクラッシュしてビターエンドで終わりでも十分作品は成り立つと思います。分量もあるしね。しかしそれでは商業作品とはならないので、主人公くんはヒロインを完全に見捨てることができず、最終的には膝を屈するのです。メインヒロインに攻略されてしまった主人公くんの図。この後、かつてラノベ作家を目指して大学生活に修行を積んだものの結局芽が出ず非正規雇用労働者として潜り込み正社員となった叩き上げの主人公くんが、同様にラノベ作家になりたいと願う女子高生に文章指南をしていく関係性になっていきます。
  • 強引デスロードはちょっとご都合主義的かもしれない
    • で、物語後半部分は日本特有のガダルカナル状態が描かれていきます。作戦司令部の方針が間違っているのに、現場の個人的な努力で何とかしろと帰結させるというあのガダルカナル状態ですよ!けど、この作品ではガダルカナル状態を作るのがちょっと強引。しかもデスロードに突入してからももっと強引。自動車保険のコールセンター業務でテレビコマーシャルを増やすから契約数を多くしろというのが主な内容。さらに危機感を煽るために、育てた新人を内部の裏切りにより他社に引き抜かれるというスパイスも加えられております。主人公くんは啖呵をきって自己のクビをかけてブラック労働に従事する。
    • メインヒロインの役割としてはラノベを仕上げて、主人公くんの情熱に火をつけるという重要な役割を占めています。
    • そしてどうしようもないフン詰まりになった状態の所に、主人公くんが禁じ手としていた「離職したものの、主人公くんを慕う有能な元非正規雇用労働者たちに助けてもらう」が発動されます。こうして大団円を迎えるのです。感動するような仕組みに成っています。社畜は報われたのだ!!と肯定されましょう。しかしながらその際、東京に出たけれども故郷に帰ってしまった同級生たちがあてこすられるし、正社員だったけど逃げた人達もあてこすられます。辛いね。