雑録

宇宙よりも遠い場所(全13話)の感想・レビュー

コンテンツツーリズム論演習の勉強の為に視聴(アニメ聖地88(2019).pdf)。
(NYタイムズのThe Best TV Shows of 2018における海外番組部門10作品選出)
人間関係に傷ついたJK達が南極渡航を経てトラウマを乗り越える話。
負の感情が凄まじく、他者を見返す為の手段としての「南極」渡航である。
それ故、南極に着いた瞬間に叫んだ最初の言葉が「ざまぁみろ!」なのだ。
従来から言われている通り、主題として「南極」である必然性は無い。
だがそれぞれが南極に意義を見出し再来を誓う所に南極の意味があるのだ。

題材は「南極チャレンジ」だが、主題は「負のエネルギーの蓄積と解放」

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  • 人間関係における少女たちのトラウマ
    • 本作の登場人物たちは、人間関係に多かれ少なかれトラウマを抱えています。序盤は主体的意志に欠け流されるままに生きている玉木マリ(※あだ名:キマリ)を中心に、熱烈な意志で半ば意固地になって南極を目指す小淵沢報瀬の姿が描かれていきます。報瀬は観測隊の一員であった母親が南極で死んだことから、南極に行くことを公言しているのですが、学校では周囲から蔑視されています。その報瀬が南極に行くために貯めていた資金100万円をキマリが拾ったことから物語が動き出すのです。報瀬の情熱に触発されたキマリは、主体性の無い自分を変えられる契機であるとして共に南極を目指すようになり、この二人に部活問題で高校を中退した三宅日向と芸能人であることを理由に友達がいないと嘆く白石結月が加わります。本作は南極への渡航の過程や南極での調査の様子が詳述され表現やシナリオに厚みが出されていますが、メインテーマはトラウマからの解放となっているのです。(※勿論、南極リポートだけでも十分見ごたえのある内容となっています。)

 

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  • 小淵沢報瀬と敵愾心「ざまぁみろ!」
    • 報瀬は周囲を何でも敵にしてしまうタイプであり、その敵愾心により行動していきます。そのため平穏な時には割とポンコツになる側面も見せます。報瀬の根底にあるのは、母親の死を受容すること。南極に行ったまま姿を消した母親を知るためにその足跡を辿ろうとするのです。学校では「南極」というあだ名をつけられており、周囲からは蔑視の支線を向けられ嘲笑の対象となっています。それ故、負の感情の蓄積は留まることを知らず、とうとう南極に着いた瞬間には「ざまぁみろ」と叫ぶのでした。自分を馬鹿にしていた他人を見返したいという歪んだ拗らせエネルギーが爆発した瞬間だったとも言えます。それ故、報瀬は南極到着後には揺らぐ場面を多く見せます。それをかつて母親の同僚であった観測隊のメンバーや、JKメンバーたちが陰に日向に支援していくところが一種の見どころとなっています。また人間関係のトラウマを経験していることから、中退者の日向の異変には敏感に気づくところがあり、南極成功にかこつけて日向にすり寄ってこようとする日向の元・部活メートたちに啖呵を切ったりもします。

 

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  • 玉木マリと「何かを為さなければならない」という焦燥感
    • 前半パートにおける物語の進行役です。「何かをなさなければ」という焦燥感にかられながらも、何かをすることなど出来ず、諾々と毎日を過ごしており、そのことにフラストレーションを感じています。行動を起こそうとしても意志が砕けやすく、結局は焦れるだけという結果になっていました。しかし、その事に意味がないかと言われれば、実はそうではなく、来る日の解放のためのエネルギーを貯めていたのです。本作では、キマリが「淀んだ水」という表現を使うのですが、それは登場人物たちの負のエネルギーの比喩となっているのです。キマリ編では親友のめぐっちゃんが自分の優越感のためにキマリを利用していたことを自白し、落とし前をつける為に「絶交」を申し出るのですが、キマリは絶交無効とめぐっちゃんを許して南極に旅立って行くのでした。こうしたキマリの他者に対する善性が、残りのメンバーにとっていかに救いとなったかは推して知るべしです。

 

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  • 三宅日向と部活問題における人間の裏切りと高校中退
    • 館林市(グンマー帝国)と利根川挟んで向こう側の羽生市(彩の国)の高校に通っていたが部活問題で中退し、地元でコンビニバイトに励む中卒フリーター。高認取得済みであり、志望校も既にA判定。レベルの高い大学に入ることで自己の能力を示し、中卒フリーターという現状を跳ね返そうとしています。他の高校生が成し得ないであろう経験を積むことも、他者を見返そうとする意趣返しの一つであり、南極チャレンジに加わります。
    • 日向の部活問題については以下の通り。陸上競技部における出場選手選考において、先輩を立てようとした日向に対し同級生の部活メイトたちは実力主義を唱えて全力で挑むことを応援。見事選手に選ばれた日向でしたが、先輩に焼きを入れられると同級生たちは掌返しを行い、全て日向が悪かったことにされたのです。これにより退部に追い込まれた日向でしたが、退部しても悪い噂を流され学校に居づらくなり退学してしまったのでした。このトラウマを抱えた日向は自分が負け犬であると卑下することで精神崩壊しないよう自己防衛しているというわけです。この日向のトラウマを解消するのが、同族意識のある報瀬なのです。パスポートを無くしたことでフライトの遅延が危惧された際に、周囲に迷惑が関わることを極端に恐れる日向が自分にかまわず先に行けと主張するのに対し、報瀬は4人で行くのだと気風の良さを示すのでした。また、南極渡航に成功し、日向が有名になると、これにかこつけて旧部活メイトたちは謝罪を行い罪悪感から逃れようとしてきます。このことを知った報瀬は、これまた日向の代わりに啖呵を切るのでした。「ざけんなよ!」

 

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  • 白石結月と友達幻想
    • 芸能人の仕事があるため碌々学校に通えず、それ故友達がいないと嘆く少女。トモダチにとてつもないコダワリがあり、キマリたちは白石結月の南極チャレンジに同行するというカタチで南極行きの切符を手にします。4人の中ではトラウマは比較的軽く、当初は紙面に証明書を書かせてトモダチの確証を得ようとしたりもしますが、キマリたちと友情を結ぶことで解消されていきます。南極リポートの「しゃべり」を主に担当し、題材である南極を描写する役割を持っています。

総評

  • この作品の筋書きの主軸は南極であり、①渡航実現までの地元での努力、②渡航過程、③現地でのリポートの3点から物語が構成されています。訓練や船内での日常、観測や調査などの具体的描写も詳述されていますし、南極に対する熱いパトスも感じられます。
  • しかし、たまたま舞台装置が南極だったのであって、主題である「淀んだ水が一気に流れ出す」(これまで鬱屈していた生活を強いられていた状況からのエネルギーの解放・トラウマの解消)を描きたいだけなら、アマゾンでもアフリカでも北方領土でも、ある程度達成困難な目的地への旅なら、どこでも良かった言えるでしょう。そのため、よりもい2とか3とか、舞台装置とJKが抱えるトラウマの種類を変更すれば、同工異曲の2匹目のドジョウを狙う粗製濫造された類似品をいくつも量産可能なのです。
  • そのような状況の中で、本作が多くの人々の琴線に触れることができたのは、舞台装置を丁寧に描いたことによるかと思われます。単なる装置であるため、別にその場所は(ある程度条件があえば)どこでも良いのですが、そのどこでも良い場所をどこでも良いからといって蔑ろにせず、しっかりと丁寧に描きだしたことで、トラウマ解消のカタルシスが生まれたのだと思います。
  • 南極を描きたいからとJKトラウマの解消を利用したのか、JKトラウマの解消を描くために南極を利用したのか、はたまた両者なのか。舞台装置と主題が上手くマッチすることができたからこそ、面白さが生まれたのだと考えられるのではないでしょうか。

 

参考

tatebayashi.info