【ネタだし】コンテンツツーリズムとヘリテージツーリズムの重層性

  • 趣旨
    • 「コンテンツツーリズム目的で訪れる旅行者に対し、如何にして地域そのものに興味を持って頂くか」
  • Key words
    • 観光 文化遺産 日本史 歴史教育 小学校3年・4年社会科 景観 地域の魅力 価値創造 

1.問題の所在

  • コンテンツの賞味期限と一過性のブーム
    • コンテンツツーリズムの問題点は「一過性のブーム」であり、いわゆるコンテンツの「賞味期限」が切れると人々の興味関心の対象外となってしまう。コンテンツ産業の中でも特にアニメ作品の賞味期限は短い。まる子やサザエさんドラえもんポケモンなどの「ご長寿アニメ」を除き、通常のアニメ作品は1クール11話~13話の放送であり、1年で3か月ごとに作品が入れ替わる。アニメ作品は放送期間中の前後には注目が集まるが、その関心度は永続的なものではなく、次のクールにはまた新しい作品が始まる為、徐々に興味の対象が移り変わっていく。それ故、「聖地巡礼」や「舞台訪問」目当てでやってきた人々を、いかにリピーターに変え、地域の魅力と結びつけていくかが重要となってくる。コンテンツツーリストの方々は作品が好きだから、たまたま舞台となった地域にやってきただけであり、その地域自体には関心はないのだ。だからこそ、コンテンツツーリズムをきっかけとして、地域そのものを好きになってもらう必要がある。では、どうすればコンテンツの魅力を地域の魅力へと転化できるのだろうか。

2.コンテンツとヘリテージの重層性

  • コンテンツをきっかけにヘリテージを知ってもらい地域の魅力に転化する
    • ここで注目したいのが、コンテンツ作品で題材となったモチーフの価値付けである。コンテンツツーリストはアニメや漫画やゲームや映画で登場したという「価値」に基づいて訪問対象とする。その訪問地が現実においてどのような文脈で価値があるのかは知らないことの方が多い。そのため、現地サイドではその作品で出て来た景観やモチーフや場所がどのような文化的価値を持つかを、作品とリンクして提示する必要がある。そうすれば、なぜ作品にその題材が扱われたのかを知ることができ、作品の解釈そのものも深くなっていく。こうしてコンテンツツーリズムをフックとして、地域の魅力を知ってもらうきっかけが生まれるのである。

3.『あの花』コンテンツとヘリテージ

3-1.作品中において重要なモチーフとなる文化遺産

  • 『あの花』にはどんなヘリテージが出てくるか?
    • 埼玉県秩父市を舞台としたアニメーション作品『あの日見た花の名を僕達はまだ知らない。』は、メディアミックス展開を遂げ、ノベル、コミック、ゲーム、映画、実写ドラマ、パチスロなど一大コンテンツを形成している。『あの花』が聖地巡礼ビジネスで成功したことは、多くの事例研究で紹介されており有名である(大谷他2018など)。また地理教育の試みの一環として、作品内に登場した景観やスポット、文化施設が作品内においてどのような効果をもたらしたかを考察する研究もある(秋本2016)。
    • 本作に登場するコンテンツとしての遺産が、ヘリテージとしての遺産としても重層性を持つは、①定林寺と②秩父吉田の龍勢の2つである(秩父神社も文化資源として価値があるのだが、作品内で神社前しかでてこないのである)。
    • まず①の定林寺についてだが、この場所は作品内において主人公たちの溜まり場として何度も出てくる重要な寺院である。この寺院は文化遺産・観光資源としても重要な位置にあり、秩父にある34箇所の観音霊場を巡礼する「札所めぐり」の17札所として参拝者を集めている。
    • また②の秩父吉田の龍勢は、バラバラになっていた幼馴染たちが再集結するための装置としての機能を持ち、お互いが自分の腹に抱えた思惑と打算を告白して本当の意味での和解に成功する重要なイベントとなっている。この秩父吉田の龍勢のリアルイベントに『あの花』のファンは積極的に働きかけ「あの花ロケット」を飛ばすようにまでなっている。こうして秩父吉田の龍勢は、コンテンツの資源として全国レベルで価値付けされるようになり、さらに2018年には国の重要無形民俗文化財となりヘリテージとしての価値も高まっていったのである。

3-2.『あの花』と観光資源のコラボ

  • 『あの花』に直接出てきてはいないが、コラボしているヘリテージ
    • 続いて作品と関係が無いものの秩父の重要な観光資源として後に作品とコラボした事例を取り上げる。札所巡礼、芝桜、秩父夜祭の三つである。『あの花』の作品世界においては定林寺が溜まり場となっているものの、直接札所巡礼しているわけではない。しかし、その後のコラボとして『あの花』をきっかけに秩父の魅力を知ってもらおうとする動きがあり、札所巡礼とのコラボに繋がった。芝桜や秩父夜祭ともコラボしており、作品を生み出した秩父の世界をより深く知ってもらおうとの取り組みがなされている。作品をきっかけに秩父にやってきたコンテンツツーリストに地域の魅力を伝えるために工夫を凝らしている。

4.教育/学習と価値創造

  • 『あの花』を題材にした社会科教育
    • コンテンツツーリズムはあくまでも「きっかけ」、「フック」であり、それを通して地域と結びつけることが重要である。だが、その当該地域がどのような地域なのかが分からなければ、折角の魅力を伝えることは出来ない。秩父の観光資源として、札所巡礼、芝桜、秩父夜祭が有名なことは分かれども、それが一体どのような価値があるのかを理解している人々は少ないのではなかろうか。地域資源を価値化するためには、その歴史を見直し後世へ伝えていく必要がある。つまり学校教育ないし社会教育において、地域の歴史を扱っていくことが重要だ。『あの花』を題材にした地理教育はもうすでに二宮書店の高校地理Aの教科書でGISを学習する際の教材となっており、大学での実践事例が紹介されている。地域の歴史は、小学校3年生・4年生の社会科だけではなく、中学校社会科歴史的分野や高校日本史でも扱うことが出来る。地域の資源を価値創造するためにも、『あの花』を題材にした地域史の授業などを行ってもよいのではなかろうか。