戦間期【1】欧米諸国の情勢

1.戦間期アメリ

  • (1)パクス=アメリカーナの時代へ ←工業力と金融力にぬきんでる経済大国アメリカの出現
    • ①物資と借款を提供して債務国の地位を脱して債権国となる。
    • ②ワシントン体制、不戦条約、ドーズ案、ヤング案を提唱して国際協調に貢献。
    • ③英仏の戦債免除要請を拒否し国内市場を高関税で守る→富の集中 ※NYがロンドンと並ぶ国際金融市場化
  • (2)アメリカ的生産様式
    • ①生産技術の革新…フォードが考案のベルトコンベア。流れ作業の大量生産により画一的で安価な製品を作る。
      • →大量販売による企業利益→労働者の賃金上昇→大衆の購買力増大→販売増加
    • ②労働者にも自動車・家電製品(ラジオ・冷蔵庫・洗濯機など)が普及
    • ③大衆文化…映画・軽音楽(ジャズ)・プロスポーツ(野球)など←大量複製可能なフィルム・レコオードと大量伝達手段ラジオ
  • (3)大衆の政治参加
    • 1920:男女平等選挙権(婦人参政権の承認)  ←戦争と社会契約:戦争に犠牲を払った国民の政治参加要求
  • (4)保守化するアメリ
    • ①3代12年共和党政権【ハーディング→クーリッジ→フーヴァー】→ 孤立主義を唱え国際連盟への加盟を拒む
    • WASP(ホワイト・アングロ・サクソンプロテスタント=英系白人エリート)至上主義
      • (a)反共的風潮:サッコ・ヴァンゼッティ事件(でっちあげで無政府主義者のイタリア系移民が処刑される)
      • (b)排外主義:KKK(クー・クラックス・クラン)、移民法 (新移民制限・アジア移民全面禁止)
      • (c)禁酒法制定 →ギャングのアル=カポネが暴利をむさぼる。

2.戦間期イギリス

  • ①内政:総力戦を担った国民の政治参加にこえて選挙法改正。労働党が躍進!
    • 1918:第4回選挙法改正…ロイド=ジョージ(自由党)が21歳以上の男性と30歳以上の女性に選挙権付与
    • 1923:選挙で労働党が保守党に次ぐ第2党に躍進。
    • 1924:労働党党首マクドナルド、自由党と連立内閣を組織 → 短命に終わる(1924.1~11)
    • 1928:第5回選挙法改正…ボールドウィン(保守党)が21歳以上の男女に選挙権付与
    • 1929:労働党、第一党になる → 第二次マクドナルド政権(1929~35)
  • ②外政:イギリス帝国の再編
    • 1922:自治アイルランド自由国 成立(北部アルスター地方は本国に残留)
      • 1918年の選挙でシン=フェイン党が勝利し、翌19年に独立を宣言。21年に本国は鎮圧を諦める。
    • 1926:イギリス帝国議会イギリス連邦の性格が規定される。
      • すべての自治領を本国と対等の国家とし、本国と旧英領から独立した国家が緩やかな連合体を結成。
    • 1931:ウェストミンスター憲章
      • 26年にイギリス帝国議会が規定した本国と自治領の対等関係を成文化したもの。各自治領はイギリス連邦の一員として、王冠への忠誠のもとに本国と対等の地位を得る。
    • 1937:エール共和国独立…アイルランド独立派が王冠への忠誠宣言を廃止し独自の憲法を整備してイギリス連邦から事実上分離した。(正式脱退は1949年)

2.戦間期ドイツ

  • 1918
    • 11.ドイツ革命…キール軍港の蜂起から労働者・兵士のレーテ(評議会)が成立。皇帝ヴィルヘルム2世が亡命
    • 11.11.大戦終結…ドイツ社会民主党エーベルトを首班とする臨時政府が連合国と休戦。
    • 年末:政権を握った社会民主党が革命の急進化を恐れて旧勢力と妥協
  • 1919
    • 1.スパルタクス団のベルリン蜂起
      • 社会民主党左派のカール=リープクネヒトやローザ=ルクセンブルクが結成した急進的革命組織であるスパルタクス団が、18年末にドイツ共産党を組織して、19年に一斉蜂起。社会民主党政府と軍部により鎮圧された。
    • 2.ヴァイマル国民会議
      • エーベルトを大統領に選出。ヴァイマル憲法を制定(男女平等普通選挙権や労働者の経営参加権など社会権を保障する反面、大統領の任期は7年間でしかも非常大権を持つ。)
  • 1920
    • 2.24:ドイツ労働者党が、国家(国民)社会主義ドイツ労働者党と改称(ナチ党の成立)
    • 3.13:カップ一揆
      • 排外的国粋主義者カップを首領とし、帝政派軍人が極右的義勇軍の支持を得て、ベルリンを占領し軍事的独裁を試みた。共和国政府はベルリンから逃れるが、労組・官吏・国防軍首脳が反乱を支持しなかったので、失敗した。
  • 1921
    • 5.5:ロンドン賠償会議。独の賠償金が1320億金マルクに決定。(金マルク:1マルク=金0.358g)→ドイツ世論は反発。政府は賠償金支払い延期を求める。
  • 1922
    • 仏で対独制裁を唱えるポワンカレ内閣が成立。(同年ドイツはラパロ条約でソ連を承認)
  • 1923
    • 1.賠償不支払を理由にフランスとベルギーがルール占領(石炭を押収)→独は生産の停止(労働者ストライキ)で抵抗したため、政府はその費用を負担せざるをえず、ハイパーインフレーションで経済危機に陥る。
    • 11.8.ナチ党の指導者ヒトラーが政権獲得を企図しミュンヘン一揆を起こす
      • →1日で鎮圧。以後議会への進出を通じて政権獲得に努力する方針に転換。
    • 11.15 シュトレーゼンマンが新通貨レンテンマルクを発行してインフレを鎮静
      • →賠償義務の履行を約束し、協調外交に転換。
  • 1924
    • 8.ドーズ案が成立
      • 米国が独に投資し経済復興を援助→独が英仏に賠償金を支払う→英仏が米に戦債を支払う
  • 1925
    • 4.エーベルトの死去により大戦中の参謀総長で帝政主義的心情を持つヒンデンブルクが大統領に就任
      • →国民の中にある深い政治的亀裂の証明
    • 7.仏、ルールから撤兵(←24年のドーズ案及び対独制裁反対のエリオ左派連合政権成立の影響)
    • 12.ロカルノ条約 ※ドイツ外相シュトレーゼマンとフランス外相ブリアンの協調外交
  • 1928
    • 8.パリ不戦条約. ※米国国務長官ケロッグと仏外相ブリアンの提唱(ケロッグ=ブリアン協定)
      • 各国が国際紛争解決手段として戦争に訴えない事(=戦争放棄 )が誓われた。
      • ※違反行為への罰則規定がなく、自衛のための戦争は認められ実効性に欠ける。
  • 1929
    • 8.ヤング案…ドイツの賠償総額が削減され、支払期限も延長される。
    • 10.24.NY株式市場で株価大暴落。世界恐慌始まる。
      • →ドイツでは米国資本が引き上げられ、経済は破滅的状況となり国民生活や議会政治が混乱。

3.戦間期フランス

  • ドイツの強国化を怖れ、賠償支払いを厳しく要求。
  • 1922~24:ポワンカレ右派内閣…ドイツの賠償支払い不履行を理由にベルギーを誘ってルール占領。
  • 1924:エリオ左派連合政権…ポワンカレの対ドイツ強硬外交が国際的批判をあびて失敗後、成立
  • 1925:ブリアン外相の国際協調路線 → ロカルノ条約、パリ不戦条約

4.戦間期イタリア

  • (1)左右両勢力による動揺
    • ①右傾化と不満の高まり
      • 戦勝国にも関わらず領土要求が満たされず、国民の間でナショナリズムに起因する強い不満。←フィウメ市とダルマティア地方。
    • ②戦後のインフレで国民生活が破壊され、政府不信が強まる。
    • ③左派の動き
      • 1920年 社会党左派(のちのイタリア共産党)の指導で、北部では労働者が工場選挙運動を頻発させ、南部では地主制に苦しむ貧農小作が農地占拠を行い、社会主義勢力が支持を拡大!← 市民層および地主・資本家・軍部などの社会的保守派層は左派に対して反感。
  • (4)大衆政策
    • 余暇組織(ドーポ=ラボーロ)
      • 「労働の後」「仕事を終えた後」を意味
      • 全国余暇事業団のもとに、観劇などの娯楽、スポーツ活動や週末の小旅行などのレクリエーションを提供して、余暇の組織化を図り、ファシズム体制への国民の統合を推し進めようとした。
  • (5)ファシズムとは何か?
    • ファシズム…大衆動員を積極的に利用し、社会事業や国内開発も推進するが、市民的自由や人権を無視する国家主義をかかげ反対派を弾圧する新しい政治体制や思想。
    • ※参考『詳説世界史研究』(2008、471頁)
      • ファシズムは国民を一元的に国家のもとに統合し、国民生活を統制することにより、国家の危機を克服することを唱える(全体主義)。
      • 議会主義や共産主義を国内の対立や分裂を促す原因と決めつけ、反対や異論を唱えるものを暴力的に抑圧する。
      • 国民を絶えず政治的に動員するものの、国民生活や労働者の期待にも一定の配慮を示す点で、権威主義や保守的独裁体制と異なる。