近世ヨーロッパ史【5】イギリスの覇権掌握

  • 概要
    • 名誉革命による英蘭同君連合の形成の結果、植民地獲得をめぐって英仏対立が激化し第二次百年戦争が行われたが、最終的にイギリスが勝利し国際市場の覇権を握った。

1.第二次英仏百年戦争

(1)名誉革命後の国際関係

  • ☆英蘭対立から英仏対立へ
    • 名誉革命で英蘭は事実上の同君連合となり関係が良好化。英仏はより厳しく対立する。
      • →英仏両国は植民地と世界商業の支配権をめぐって1世紀以上に及ぶ断続的な戦争状態へ。

(2)英仏の植民地政策

  • ①英
  • ②仏
    • 奴隷貿易:ハイチなどのカリブ海植民地、カナダのケベック、ミシシッピ川流域のルイジアナ植民地
    • 地中海貿易:オスマン帝国と同盟。

(3)戦争の経過

ファルツ継承戦争×ウィリアム王戦争 → ライスワイク条約
スペイン継承戦争×アン女王戦争 → ユトレヒト条約
オーストリア継承戦争×ジョージ王戦争×第一次カーナティック戦争 → アーヘン和約
七年戦争×フレンチ=インディアン戦争×第三次カーナティック戦争 → パリ条約(1763)
  • a.七年戦争(1756~63)
    • シュレジエン奪回を目指すマリア=テレジアが三枚のペチコート同盟を展開すると普のフリードリヒ2世から開戦
  • b.フレンチ=インディアン戦争(1754~63)
    • 英が仏・インディアン連合軍を破る→英が北米における支配権を確立
  • c.プラッシーの戦い(1757)
    • 英東インド会社軍が仏・ベンガル太守連合軍を撃破→ベンガル地方太守を傀儡化しインド支配の第一歩
  • d.第三次カーナティック戦争(1758~63)
    • 英東インド会社軍が現地勢力を巻き込み仏を撃破→イギリスが南インドの覇権を確立
  • e.パリ条約(1763)
    • 七年戦争におけるイギリスと仏・西の講和条約
    • 北米に関する内容
    • インドに関する内容
      • 仏がインドにおける英の優越を承認(→仏はインドシナ方面へ)
  • f.フベルトゥスブルク条約(1763)

(4)第一次イギリス帝国の形成

  • ①英の覇権…18~19世紀にかけ、イギリスが世界各地に植民地や支配権を得て、国際貿易の覇権を握る。
  • ②国際戦争の勝利者…17世紀後半、英蘭戦争を通じてオランダの商業覇権に打撃を与え、第二次英仏百年戦争でも勝利。
  • ③世界市場の獲得…カナダ・北米・西インド諸島・インドなどで植民地を獲得、世界商業の主導権を握り、他のヨーロッパ諸国を圧倒した。

2.イギリス重商主義帝国の成立

2-1.イギリスの財政制度の整備

(1)財政革命
  • イングランド銀行の設立と国債制度の確立によるイギリスの金融・財政構造上の変化のこと。
  • 名誉革命後、1694年に創設されたイングランド銀行は政府の国債を引き受け政府の財政基盤を強化した。
    • Cf.サウスシー=バブル
      • ラテンアメリカとの貿易を行うはずの南海会社株を中心に、株のブームが過熱したが、株価が1720年に突然下落し、バブルは崩壊した。
(2)イギリス国債
  • ①イギリス国債は信用が高い! ← 【理由】議会政治が確立し、徴税の権利を持つ議会が元利を保証していたため。
  • ②オランダからの資金流入…オランダ(17世紀覇権国家)で豊かな資金を持っていた人々がイギリス国債を買い、資金が流れる。
(3)第二次英仏百年戦争の経済的な勝利要因
  • ①財政革命による戦費収集能力の向上のため
  • ②重税でも国民の不満が爆発しない理由
    • 大量の国債を発行したイギリス政府は国民に重税を課した。だが第二次英仏百年戦争に勝利し植民地が拡大していったので、議会が承認した税に対しては国民の不満は爆発せず。

2-2.覇権争いの各国への影響

2-3.大西洋奴隷貿易の展開

(1)アシエント
  • アシエントはスペイン領ラテンアメリカに対する奴隷供給権。
    • スペインは奴隷供給地のアフリカ西海岸に拠点がなかったので奴隷購入のため、外国商人に奴隷供給の特権を認めた。→利益が大きかったので、18世紀の諸戦争の一因となる。
(2)アフリカ社会への打撃
  • 奴隷貿易積極的参加国…ポルトガル・イギリス・フランス。
  • ②交易品
  • ③奴隷狩り
    • アフリカ西海岸には、ヨーロッパ人から手に入れた武器を用いて、奥地で奴隷狩りを行い、ヨーロッパ人に売り渡すことで発展するダホメー王国やベニン王国などが出現!
  • ④アフリカはなぜ低開発なのか?
    • 奴隷貿易で連行されたアフリカ人奴隷は数千万人にのぼり、働き盛りの労働力を奪われたアフリカ社会に深刻な打撃を与える。
(3)大西洋三角貿易の特徴
  • ①「中間航路」
    • a.アフリカからカリブ海アメリカ大陸へ向かう航海のこと。
    • b.無理に奴隷を詰め込んだり水不足や伝染病が生じたりしたため死亡率が高い。
  • 産業革命の準備 ←産業革命の発生条件は世界市場・資本蓄積・労働力創出。
    • a.資本蓄積 → カリブ海北アメリカ大陸を核とする広大な世界帝国を形成し膨大な貿易の利益
    • b.世界市場 → 北米植民地はイギリス製品の市場かつ綿花などの原料供給地
      • 1713 ユトレヒト条約…ニューファンドランド・アカディア・ハドソン湾沿岸及びアシエント獲得。
      • 1763 パリ条約…フロリダ・カナダ・ミシシッピ以東のルイジアナ・セネガル・ドミニカ獲得。
    • c.労働力創出 → イギリスでは農業革命により第二次囲い込みが展開され、土地を失った農民が都市に流入して労働力となった。

3.17~18世紀における近代世界システムの変動

(1)「17世紀の危機」とオランダの覇権

  • ①「17世紀の危機」…世界の多くの地域で経済不振・人口増加の停止・物価の下落が生じる。
  • ②オランダの覇権…すぐれた造船技術を利用してバルト海貿易を支配したオランダが工業・農業・漁業・商業・金融において他国を圧倒し、繁栄を極める。

(2)ヨーロッパの覇権争いと大西洋三角貿易

  • ①オランダの衰退…賃金と生活水準の向上による製造業の競争力低下・香辛料のブームが去る。
  • ②第二次英仏百年戦争…オランダの覇権の衰退により英仏が覇権国家の地位をかけて争う。
  • ③大西洋三角貿易による「周辺」地域への影響
  • 七年戦争の影響 →環大西洋革命

(3)近代世界システムの拡大-周辺となった地域の変化

  • ①インド…綿織物輸出国から綿花の原料供給地に転落。ムガル帝国が弱体化しイギリス東インド会社が支配。
  • オスマン帝国…製造業が衰退し、西欧に綿花などの原料を供給するモノカルチャー経済化。
  • ③ロシア…農奴制を利用した鉄や穀物などの輸出品生産に集中する。

(4)東アジア・東南アジア大陸部の17~18世紀

  • ①社会の安定
    • 国際関係統制策…「鎖国」のような貿易・出入国の統制、通貨管理などの政策が強化
    • 都市の商業・工業による雇用の増加
    • 農業技術の発達・新大陸産の作物の導入
  • ②社会の変動に対応する基盤
    • 日本の村と家・中国の一族による相互扶助・中国における大規模な移民
  • ③18世紀の東アジアの再評価
    • 高度な農業・手工業、華僑ネットワーク、日本の市場経済などの独自の発展