前近代西アジア史【5】イスラーム世界③ 社会経済史・文化史

1.商業ネットワーク

(1)流通と経済

  • ①流通
    • 都市の繁栄 → 都市を結ぶ交通・運搬網の整備 → 流通の拡大
  • イスラームの商業ネットワークを生み出す
    • バグダード・カイロが中心。スペインから東南アジアに至る各都市を結ぶ。
  • ③経済…イスラーム法に保障された経済システム
    • 安全かつ自由な商取引。
    • 金融・信用取引 → 貨幣経済の発達、金融業者への預金、手形・小切手の使用
    • 共同出資に基づいた協業組織

(2)巡礼と学問による文化と情報のネットワーク形成

  • ①メッカ巡礼
    • メッカを中心とする巡礼路に沿って、イスラーム世界各地の人々と物資を毎年移動させる原動力
      • →世界各地の情報と物資が交換され広められる。
  • ウラマー(知識人)の移動
    • 学問を磨くため、商業網や巡礼路を利用。
    • 各地のモスクやマドラサ(学問施設)を用いて、情報と学術の交換を行う。

2.イスラーム世界ネットワーク

(1)キャラバン交易

  • ①8世紀、アジア・アフリカ・ヨーロッパにまたがる地域にイスラーム世界が確立
  • アッバース朝
    • 中央アジア西北部~北アフリカにいたる支配を安定化 →隊商(キャラバン)交易が行われ、隊商宿(キャラヴァンサライ)が整備される。
    • a.東西ルート…【ビザンツ帝国】⇔【バグダード】⇔【唐】
      • →中国とヨーロッパの交易品、最先端の技術、文化、新たな農産物の移動を促進
    • b.ロシア、スカンディナヴィア
      • → 毛皮・スラブ系奴隷
    • c.西アフリカ
      • →大量の金

(2)海洋ネットワーク

  • 天文学・地理学の発展や航海技術の進化
    • a.大洋を離れた大洋横断航海
    • b.ダウ船…三角帆を持つ木造船。陶磁器・鉱物・木材など重くかさばる品物の貿易が可能となる。
    • c.ルート 【バグダード】⇔【ペルシア湾】⇔【インド・東南アジア】⇔【中国の広州】
    • d.情報の流通 → 中国の政情がいち早くイスラーム世界に伝わる。
  • ②東アフリカのインド洋交易への組み込み
    • ペルシア湾】⇔【アフリカ大陸東岸】 
      • →インド洋を中心とするムスリム商人の海洋ネットワークが形成。

(3)商業活動の背景にあるイスラーム

  • 10世紀以降 → 紅海を通るルートが発展し、カイロがネットワークの中心となる。

(4)中国商人の海上進出

  • ①民間貿易の発展…南朝・隋の時代→インド・東南アジアの商人。唐の時代→西アジアムスリム商人。
  • ②10世紀ころから → 羅針盤・ジャンク船などの新技術を利用して南・東シナ海などに海上進出
    • ☆経済の重心移動:【黄河流域】→移動→【隋が築いた大運河の沿線】→移動→【海に近い長江流域】
    • ☆宋代以降の全国的な経済成長
  • ③宋・元の時代
    • 外国からの朝貢や商人の来航が続く →港市の繁栄

(5)辺境の貿易ブーム

(5)-1.辺境における貿易
  • ①9~10世紀頃 → 朝鮮半島や日本列島の商人たちも中国商人に混じって海上に進出
  • ②中国やインド・西アジア以外でも手工業技術が進歩 → 輸出商品の登場
    • 高麗の青磁、日本の刀剣、工芸品、ジャワの綿織物
  • ③ノルマン人(ヴァイキング)
    • ヨーロッパ北方から活躍し始める。→11世紀頃:【地中海の海上交易】⇔【海域を結ぶ陸上交易】⇔【バルト海・北海の海上交易】
(5)-2.国家形成と新しい文化
  • ②日本列島北方
    • 北海道やさらに遠方の島々・大陸と本州を結ぶネットワークが成立
    • 13~14世紀 → 北海道を中心にアイヌ文化の形成が進む。
  • ③スワヒリ文化
    • 12世紀 アフリカ東岸 → 土着のバントゥー文化+イスラーム文化→スワヒリ文化

(6)ネットワークの連鎖

(6)-1.ネットワークのつながり
  • ①幹線ルートだけでなく、周辺の海域や関連する陸地にまでネットワークが張り巡らされる。
  • ②リレー貿易 ←12~13世紀までに各海域のネットワークがゆるやかにつながる
    • イタリア商人(銀輸出・香辛料輸入)⇔エジプト商人(転売)⇔インド(綿布輸出・香辛料輸入)⇔東南アジア
  • ③10~13世紀:北半球では温暖な気候 → 主要な農業地域の生産力向上 → 貿易の拡大
(6)-2.ムスリムと他集団の共存
(6)-3.イスラーム=ネットワークの歴史的意義

3.イスラーム文化の特色

(1)イスラーム都市

  • ①宗教施設…モスク。イスラーム教の礼拝施設。
  • ②市場…スークorバザール。市場及び常設の商店街。
  • ③隊商宿…キャラバンサライ中央アジア西アジアの街道や都市に造られた。街道沿いにほぼ1日行程の間隔で建設され、人間とラクダや馬が宿泊できた。
  • ④ワクフ…イスラーム教に特徴的な財産寄進制度。収益をうむ私財の所有者がみずからの権利を放棄して、そこから生じる収益を特定目的に使用するよう指定寄進するイスラーム法上の行為。

(2)学問

  • ②外来の学問…哲学・医学・数学・天文学・地理学・光学・錬金術など
  • a.哲学・医学
    • イブン=シーナー…ラテン名アヴィケンナ。イスラーム哲学を体系化。医学者としては『医学典範』。
    • イブン=ルシュド…ラテン名アヴェロス。アリストテレス哲学の注釈書で有名。医学者としては『医学大全』。
  • b.数学…インド代数学(アラビア数字・ゼロの概念)・ギリシア幾何学
    • フワーリズミー…知恵の館(バイト=アルヒクマ)で研究し、アラビア数学を確立、代数学を発展させた。ラテン語に翻訳された『アルジャブラ』は代数学(al-gebra)の語源。
    • オマル=ハイヤーム…数学者であるが天文学者として「ジャラリー暦」の制定に参加していることや、詩人として『ルバイヤート』(『四行詩集』)を残していることが出題されやすい。
  • c.化学
    • 化学はもともと錬金術であった。練金の研究から昇華・蒸留・濾過などの方法や酸とアルカリの区別などの業績を残した。
  • d.地理学
    • ビールーニー…インド各地を旅行し『インド誌』を残す。インドの歴史・地理・哲学・風俗・習慣などが記載されており、当時のインドを知る上での貴重な文献史料を残した。
    • イブン=バットゥータ…『三大陸周遊記』(旅行記)。メッカへの巡礼の旅が30年に及ぶ大旅行となったことで有名。モロッコ生まれであり、イベリア半島西アジアだけでなくインド・東南アジア・中国にも訪れている。
    • イドリーシー…世界地図や『ルッジェーロの書』を残した。イスラーム地理学最高の業績。

(3)文学

(4)美術

  • ①モスク建築
    • ドーム…円屋根。
    • ミナレット…モスクやマドラサなどに付随する尖った塔。この塔から礼拝への呼びかけが行われる。
  • ②細密画(ミニアチュール)…精密な技法で描かれる金彩多色の写本挿絵・写本絵画。
  • アラベスクムスリムが制作した美術工芸品・建築などにみられる文様の総称。植物文様から派生して様式化され、抽象的な曲線文様となったものが代表的である。