倫理 青年期の思想【1】青年期の意義と自己形成

1.人間性の特質

1-1.人間とは何か。理性的な存在

(1)倫理を学ぶ目的
  • 倫理とは何を学ぶ科目か?
    • 「私」とは何か。なぜ生きるのか。そもそも人間とは何か→自己の存在理由を見出す!
(2)人間とは何か?
  • 人間と他の動物は何が違うのか? →火、言葉、道具、文化、etc… →人間には理性がある!
    • ホモ-サピエンス](知性人)…byリンネ。秀でた知性をもつ動物
    • ホモ-ファーベル(工作人)…byベルクソン。物質的・精神的創造と工作を本質とする
    • アニマルシンボリクム(象徴的動物)…byカッシーラー。事実だけでなく象徴で世界を捉えられる
    • ホモ-ルーデンス(遊戯人)…byホイジンガ。理性は「遊び」を通して発達

1-2.複雑で多面的な人間存在

(1)理性と本能
  • 人間は理性を持っているが・・・動物としての側面ももっている。
(2)パスカル『パンセ』
  • 中間者…人間は偉大さと悲惨さ、無限と虚無の二面性を持ち、その中間を揺れ動く存在であること。
  • 気晴らし…死・孤独・無知等の悲惨さから目を背け、遊びや娯楽に熱中して気を紛らわせようとする
  • 「人間は考える葦である」…大きな宇宙の中で孤独で無力な人間が、宇宙における自分の悲惨な存在について考えるところに偉大さを持つ。
(3)ドストエフスキー罪と罰』、『カラマーゾフの兄弟』など
  • 自己の内面の矛盾を見つめる近代的な人間の苦悩を描く
  • 理性だけでは図ることのできない人間存在の複雑さ
    • →「計算通りにすべてが動くのだったら自分の意志などないではないか」(『地下室の手記』より)

2.人生における青年期

2-1.新たなる誕生

(1)青年期…14、15歳から24、25歳ごろまでの時期
  • アリエス:フランスの歴史学者
    • 「子ども期の誕生…ヨーロッパ中世には「子ども」の存在はなく、労働力を供給する「小さな大人」として扱われた。中世末期~17世紀末ごろにかけて「大人」と区別される「子ども期」が誕生した。
  • ルソー:フランスの啓蒙思想家。社会契約論でも登場。
    • 「第二の誕生」:一度目は生物的な誕生をし、二度目は精神的な誕生をすることのたとえ。
      • 「われわれはいわば二度生まれる。一度は生存するため、二度目は生きるために。一度は人類の一員として、二度目は性をもった人間として」
(2)第二次性徴
  • ①12~13歳頃から思春期に入ると、性ホルモンの働きが活発になり、男性または女性らしい身体の特徴があらわれること。生まれつきみられるのが第一次性徴。
  • ②他者の視線を意識・自分の性格や容姿について他者からの評価を気にする・自分の将来に不安
  • ③既成の価値観に反発することでしか、自分自身を証明することができない!
    • 自分の意見を強硬に言い張る、大人に反抗、自分の内に閉じこもる、社会規範に反する服装・頭髪・行動
    • ピーターパン・シンドローム…「大人へ成長することを拒む男性」。年齢的には大人でも、人間的・精神的に未成熟な男性を指す。ナルシズム・他者依存・社会的無責任・既成の価値観への反抗が特徴。
    • シンデレラ・コンプレックス…自立できない女性が、シンデレラのように、理想の男性が現れて幸福にしてくれるのを待つ心理。
(3)親からの自立
  • 心理的離乳…青年期に親の保護や監督から離れて、一人一人の人間として精神的に自立すること。
  • 第二反抗期…思春期におこる反抗。自我のめざめとともに自己主張や自分を認めて欲しいという欲求が高まるので、周りの大人との考え方のズレを感じ、大人の無理解や抑圧的な態度への違和感やいらだちが反抗的な態度となる。
(4)大人と子どもの境界
  • マージナル-マン…複数の社会集団や文化の周辺や境界線上に位置し、そのいずれにも属さない人々のこと。レヴィンは青年期が児童期と成人期の間に挟まった時期であり、どちらにも属さない中間の存在であることから青年を境界人と呼んだ。

2-2.自己を見つめる

  • ①自我の目覚め…他者とは異なる唯一の「私」として自己の存在や人生の意味を考え始めること。
  • ②人間の自我とG.H.ミードの役割取得
    • 人間の自我は他者とのコミュニケーションを通じて形成される
    • 他者との関係では、自分が他者から期待されている行動を取ることが求められる
    • 自分の行動を他者の期待に沿って調整できれば、他者との円滑な相互作用が可能になる
    • 「一般化された他者」からの自分に対する期待(役割)をも内面化していく
    • 社会のなかで生きていくことが可能になる

3.適応と個性の形成

3-1.適応と防衛機制

(1)欲求
  • ①欲求とは何か
    • 動因…必要なものが得られない欠乏状態から脱却しようとする
    • 誘因…欲求を満たすことができそうな目標があらわれると行動を起こす
  • ②欲求の種類
    • 一次的欲求(生理的欲求)…生命維持の為に身体的・生理的に欠かせない欲求。例は性欲・食欲・睡眠欲など。
    • 二次的欲求(社会的欲求)…自己の個性の実現をはかることや他者に認められることを願う社会的欲求。例は他者需要願望、自己承認欲求など。
  • ③マスローの欲求階層説…人間の欲求を分類し、低次から高次の順に5つの階層を提示した。
    • a.成長欲求
      • ⅰ.生き甲斐・生存理由の肯定…自己実現の欲求
    • b.欠乏欲求
      • ⅱ.自尊の欲求…自尊心・他者からの尊敬
      • ⅲ.愛情と所属の欲求…所属する集団や家族での位置付け
      • ⅳ.安全の欲求…不安・恐怖からの自由を求める
      • ⅴ.生理的欲求…生命維持。性欲・食欲・睡眠欲
  • ④葛藤(コンフリクト)…二つ以上の相反する欲求が衝突して選択が困難になること。
    • a.接近-接近型…接近したいプラスの欲求が2つ以上対立しているケース
      • 大学で社会科学系を専攻したい(+)が、人文科学系も専攻したい(+)。
    • b.回避-回避型…回避したいマイナスの欲求が2つ以上迫ってくるケース
      • 勉強はしたくない(-)が、大学受験にも落ちたくない(-)。
    • c.接近-回避型…プラスとマイナスの両面を併せ持つケース
      • 間食をしたい(+)が、太りたくない(-)。
(2)欲求不満と適応
  • 欲求不満な状態にどう適応するか?
    • 合理的解決…理性によって現実的に考える
    • 近道反応…欲求不満を衝動的に取り除こうとする。
    • 防衛機制…無意識のうちに不安をやわらげ、自己の精神を防衛する
  • 防衛機制の種類
    • 抑圧…不快な記憶は忘れようとする。
    • 合理化…すっぱいぶどうの論理。理屈によって自分を正当化する。
    • 同一視
      • 同一化 (投入)…自分よりも優れたものと自分を重ね合わせて満足する。
      • 投射…自分が相手を憎んでいるのに相手が自分を憎んでいると思う。自分の弱みや欠点を相手に転嫁する。
    • 反動形成…反対の行動を誇張することによって、好ましくない欲求や感情を抑えること。憎む相手に親切にし、敵意や攻撃性を抑える等。
    • 逃避…問題を解決することを避け、他のところに逃げ込むこと。
    • 退行…発達の前の段階に戻って、低次元の欲求で満足すること
    • 置き換え
      • 代償…満たされない欲求を別の対象に移して満たそうとすること
      • 昇華…リビドーを社会的価値のあるものに置き換えること。
  • Cf.アードラーは劣等感を克服しようとする意識のはたらきを補償と呼んだ。

3-2.パーソナリティの形成

  • パーソナリティ…人間の様々な行動や思考形態の総体。行動の統一性に見られる「その人らしさ」。能力(知能・技能)、気質(感情的側面)、性格(行動的側面)からなる。
  • cf.マーガレッド=ミード…南太平洋の島々でパーソナリティの形成には「文化」が影響すると説く。
(1)ユングの性格類型
  • 内向性…関心が自己の内面に集中する。様々なことを自己との関わりでとらえる。自己アピール。
  • 外向性…外部の客観的なものに関心が傾く。自分の行動を判断する基準が自分の外。適応性、協調性。
(2)クレッチュマーの体格による3類型
  • 肥満型…循環気質、社交的、融通がきく、物事にこだわらない
  • 細長型(やせ型)…分裂気質、非社交的、無口、敏感と鈍感の二面性
  • 闘志型(筋骨型)…粘着気質、几帳面、きれい好き、義理堅い
(3)シュプランガーの価値追求の6類型
  • 理論型…物事を客観的に扱う。同情心が無く、個人主義的。実際生活が下手。
  • 経済型…金や財産に最大の関心を示す。利己主義者。
  • 審美型…敏感で繊細な感情を持つ。美を求めて生きる。
  • 宗教型…完全に満足できるような最高の価値を求める。
  • 権力型…つねに他人を支配し、命令しようとする。
  • 社会型…仲間を愛し、他人とともに生きようとする。愛を最高のものとする。