倫理 西洋思想【11】個人と社会のかかわり③他者の尊重(アーレント、ハーバーマス、ロールズ)

社会における自己と他者の関係をとらえ、そこで自己の実現と他者の尊重を両立させるためにはどうすればよいか。
実存主義以降の思想を参考にする。

【目次】

1.アーレントと公共性の問題

(1)全体主義の起源 ※全体主義=個人よりも全体を優先する政治思想。

・個人が階級や社会集団に属している時は、その集団を代表する「政党」を通じて公共的な政治に参加する

・資本主義の発展により階級の不明確化、地域共同体の崩壊、帰属集団の解体が起こる

帰属意識を失ってアトム化。いかなる帰属集団にも属さない「大衆」となり、孤立して無力感に陥る

・所属感を与えてくれる空想的な人道主義にひかれ、ファシズムイデオロギーの虚構にたやすく吸収される

全体主義!!(※所属感を持たないアトム化された大衆が全体主義の発生の条件)

(2)公共性

  • アーレントによる人間の活動の三区分
    • a.労働…生命を維持するために食料を得る。人間と事物のあいだの関係。
    • b.仕事…自然を加工して使用のための物を作り、文化的世界を構成する。
    • c.活動…私的利害の束縛から解放されて、政治の「公的な空間」(=公共性の領域)で自由に話し合い、言葉で相手を動かして、共同体を形成する。

  • 労働の領域
    • 近代以降では、この「活動」の特殊性が見失われ、「労働」の領域が「公共性」を占領してしまう

  • 政治の再興
    • 全体主義の起源は「アトム化された大衆」にあるので、公的な問題を、公的に話し合う空間で、論じ合うという営み(つまりは政治)を再興する必要がある!!
      • (※古代ギリシアのポリスでは人々は個人的な利害を棚上げして公的問題について討論していた。)

2.ハーバーマスとコミュニケーション

(1)対話的理性

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  • ☆2つの近代的理性
    • 道具的理性…孤立した自我の単なる道具
    • 対話的理性…対等な立場で自由に話し合いながら、共通理解のもとで合意を作り出す理性的な能力。
      • 社会を統合する力は、外部の支配力ではなく、社会の成員の話し合いによって形成された自発的な合意に基づく(理想的なコミュニケーションの状況)。対話的理性による対話がもたらした結論に合意することで、多元社会における社会規範の正当性が生まれる(コミュニケーション的合理性)。

(2)システム合理性

・政治経済の根底には、市民の対話によるコミュニケーション合理性があるべきだが・・・

・現代は、公共社会が【システム合理性】の領域に侵食されている。

・※システム合理性とは?
  →権力や貨幣などの制御メディアが、人間の行為を自動に調整し、社会システムを統合する合理性のこと。
  →政治的支配や経済成長を目的とする社会では、権力や経済的な交換価値(貨幣)が、人間の行為を自動的に調整する媒体(制御メディア)となる。

・【生活世界の植民地化】が起こる!!

3.ロールズの正義論

(1)無知のヴェール

・現実の個人は、生まれる前から差別や格差が固定化されている。
 (※身体的な能力、生まれ持った才能、前の世代から受け継いだ資産など)

・出来るだけ平等な社会を作り出すためにはどうすればいいのかな?

・社会が形成される以前の「原初状態」を想定し、自分がどのような地位を持つことになるか知らされない「無知のヴェール」状態であっても、「誰もが納得できる正義の基準」=「公正としての正義」を見出そう!!

(2)正義の二原理

  • ❶平等な自由の原理:基本的権利は平等に分配すべき
    • 功利主義批判…社会全体の幸福の名の下に個人を犠牲にするわけにはいかない
  • ❷不平等を容認する原理:以下のケースでは不平等でもやむなし
    • A【公正な機会均等原理】
      • 機会を均等にした上での公正な競争の結果として生じる不平等でなければならない
    • B【格差原理】
      • 社会で最も不遇な者の境遇を改善するための不平等は是認できる。

(3)ロールズ正義論への批判

  • a.アマーティア=センの潜在能力
    • ロールズ正義論はモノ(基本財)の再配分に偏重しているとして、潜在能力(ケイパビリティ)の開発という視点が重要だと主張。潜在能力とは「よりよい生を営むために必要な機能」のことで、識字能力や教育など。
  • b.ノージックリバタリアニズム
  • c.サンデルのコミュタリアニズム
    • 普遍的な正義など存在しないと主張。人々が生きる共同体と絡めて論じるべきだと説く。