倫理 西洋思想【1】現代の特質と倫理的課題(近代社会・合理主義・進歩主義)

0.高校倫理でなぜ西洋思想を学ぶのか!?

  • 日本人の価値観
    • 近代以降に転換 西洋近代思想の摂取とそれに対する対決
  • 西洋近代思想を学ぶ理由
    • 西洋の近代にはじまり、現代へと至る思想をてがかりに、現代に生きる「人間とは何か」を考える

1.近代とは何か

(1)西洋近代とは何か? 現代の社会や生活は「近代化」(modernization)と切り離せない

  • cf.時代区分論
    • ルネサンス時代に古代・中世・近代で分類。後に初期近代を近世と呼ぶことも。
    • 歴史学者が区分したものなので、同じ年代でも国や地域により区分が異なることもある。

(2)西洋近代の具体例

  • 「合理化」という歴史的な動向の所産(by マックス=ウェーバー)
    • 経済 →資本主義的な自由経済
    • 政治 →議会制民主主義       
    • 学問 →自然科学          
    • 絵画 →遠近法                         
    • 音楽 →和声法
  • なぜ「西洋以外の地では、科学も技術も国家も経済も、総じて西洋の特色をなしている合理化の軌道にそって発展することがなかったのか」

2.合理化と近代科学

  • ☆合理化=「脱呪術化」(by M.ウェーバー) 
    • 脱呪術化以前…自然の脅威に対抗するために、神や精霊に祈る
    • 脱呪術化以後…予測可能。現象を予測し、説明して、コントロールすることこそが問題に。
    • 脱呪術化を担ったもの…自然科学の発達と、技術的手段の発展
  • 「科学革命」…近代科学の成立という17世紀における歴史的な事件そのものを指して、イギリスの歴史家バターフィールドがよんだもの。

3.合理的な考え方と社会の進歩

☆自然科学の発展→社会の捉え方にも大きな影響

(1)コントの実証主義 「予見するために見る」

  • 実証主義…すべての知識の対象を観察できる経験的な事実に限り、経験的事実の背後になんらかの超経験的な実在をも認めない考え方。
    • 社会についても検証可能な経験的事実にもとづく法則がある→その法則により社会を進歩させることが社会科学
    • 人間の知識の進歩…神学的段階、形而上学的段階(形あるものをこえたものについて思索する学問)、実証主義的段階の三段階をたどって進歩する

(2)ダーウィンの進化論

  • a.ダーウィン以前のキリスト教的考え方…神による天地創造。生物の種は不変。
  • b.進化論…生物はすべて共通の祖先から枝分かれして、現在の状態へと進化。より環境に適応した種が自然淘汰(自然選択)によって生き残ってきた。

(3)スペンサーの社会進化論

  • ダーウィンの進化論を人間の社会に適用
  • 社会は適者生存のメカニズムと自由競争の原理によって、社会的な分業を達成し、社会進化を促進する。
    • ⇒資本主義の原則とも一致(資本主義の原則は分業と協業)

4.近代社会がもたらしたもの

  • 科学と技術→分業の進展、個々の職業にかんする専門化。
  • 官僚制(ビューロクラシー)の発達
    • 個人の力量 < 組織の規律・画一的な基準(マニュアル化)・階層的な秩序(ヒエラルキー)
    • 官僚制の弊害…個人の無力感。巨大化した社会の中で孤独と不安にかられ大衆化。マス‐メディアの報道に踊らされる
  • リースマンは『孤独な群衆』で「他人指向型」の人間類型と呼ぶ。
  • cf.リースマンの人間類型
    • 他人指向型…他人に同調して生きる現代人に支配的な性格類型。
    • 人間の社会的性格は伝統指向型・内部指向型・他人指向型の3つに分けられる。
      • 中世以前は社会の慣習を尊重する伝統指向型
      • 資本主義初期から十九世紀までの近代社会では自己の内面的な価値や目標を指向する内部指向型
      • 現代社会では他人の行為や願望を感じ取ってそれに従い他人の評価を基準にする他人指向型が支配的。
    • ☆現代人は大衆社会にうもれて孤立し、孤独と不安から他者による承認を強く求め、他人の評価を基準にして生きる他人指向型が多い

5.現代の倫理的課題

  • ポスト‐モダン(脱近代)…近代社会の諸問題がはっきりあらわれ、その限界が問題となってきている社会
  • 近代思想を生み出した近代社会そのものが、逆に個人の無力感と不安を生み出す
  • 自然支配とコントロールを主張する近代科学が環境問題・生命操作を引き起こす
  • 現代の倫理的課題は西洋近代思想の継承による問題解決の探究