雑録

倫理 西洋思想【2】人間の尊厳(ルネサンス・宗教改革・モラリスト)

0.人間の尊厳

  • 真の意味での自己の尊厳とは何か。
    • 人間の尊厳が軽視されると起こる問題点
    • 人種・民族差別、他者の人格・生命の軽視
    • 人間の尊厳が過度に強調されると起こる問題点
      • 人間中心主義…自然を単なる操作対象となる
      • 自己中心主義…他者への配慮を欠く

1.自己肯定の精神

1-1.ルネサンスヒューマニズム

(1)ルネサンス(文芸復興)…本来は「再生」を意味する。
  • ギリシア・ローマの古典文化の復興を目指した改革運動。
  • 人間性の肯定。自己の生き方や求めるべき価値を、みずからの理性や感情によって決める。
  • 古代ギリシア・ローマの学問芸術を再生させることによって、中世の神中心の文化から個人を解放し、個人としての人間の自覚に基づく、豊かな人間性に満ちた人間中心主義の文化を生み出した」
(2)ヒューマニズム…直訳すると人文主義
(3)ルネサンス期における具体的な人物たちの活躍
  • ダンテ『神曲
    • 少女ベアトリーチェに生涯にわたる精神的な恋を抱き、それを宗教的に高めて『新生』や『神曲』を描いた。永遠の少女への愛が人間の魂を浄化し高める。『神曲』では皇帝や教皇を批判し当時のイタリアの腐敗を描いた。また天国への導き手としてベアトリーチェを登場させることで、信仰や正義や善を通して人間の魂を浄化する救済の道を説く。
  • ペトラルカ『カンツォニエーレ』
    • 永遠の恋人ラウラへの愛を、言葉の持つ美しい音楽的な響きを生かした流麗な格調で歌い、近代的な恋愛感情を新鮮に表現した。
  • ボッカッチョ(ボッカチオ)『デカメロン
    • デカメロンとは「十日」のこと。ペストの流行を逃れてフィレンツェ郊外の別荘にこもった10人の若い男女が毎日1つのテーマで10日間するという筋立て。肉欲の解放などルネサンス精神に溢れている。
  • レオナルド=ダ=ヴィンチ

1-2.新しい人間観[ピコ]

  • ピコ=デラ=ミランドラ『人間の尊厳について』
    • 人間が自由意思によって自分の進むべき道を選択し、自分自身を形成する⇒「人間の尊厳」の根拠!!
    • 自由意思…あらゆる外的要因の影響を受けずに、自由に自己の意思決定ができること。ルネサンス期には、中世の宗教的束縛から解放され、自由意思によって何事でも成し遂げ、自己を高めて完成させる万能人が理想とされる。ピコ=デラ=ミランドラは自由意思によって自己の形成者となれるとして、自由意志を肯定した。
  • cf.マキャベリ君主論』 ※よくホッブズと間違うので注意。
    • イタリアの統一国家を目指し、独裁君主が権力を獲得し、維持する方策を論じる。政治を、利己的な欲求を持つ人間の相互の間に人為的な秩序を作る営みであるとみなす。キツネとライオンの比喩は有名で、キツネのずる賢さとライオンの威圧的な力は必要であると説く。このような人を欺く権謀術数を「マキャベリズム」という。

2.宗教観の転換

2-1.真の信仰へ [ルター]

(1)腐敗した教会と聖職者への批判
  • a.教会の腐敗…聖職売買、聖職者の妻帯。免罪符(贖宥状:買えば罪が許されるとする符)の乱売。
  • b.真の信仰とは何か?信仰に生きる人間の在り方、生き方の模索
  • c.ルネサンスヒューマニズムの影響→清貧の実践と聖書研究。信仰を個人の内面からとらえようとする。
    • 例)エラスムス『痴愚神礼賛』:聖書や文芸の研究に従事し、当時の王侯貴族や司祭を熱烈に批判。
  • d.ルター登場。宗教観の転換を推進する。
(2)ルターの宗教改革
  • a.教会批判から始まる宗教改革
    • 聖書と信仰を中心とするキリスト教の根本精神に立ち返る
    • 1517年「95か条の論題」を公表。贖宥状を乱発する教会と教皇を批判。破門されるが宗教改革
  • b.ルターの主要思想・業績
    • 信仰義認論…罪からの救いは教会の説く善行にあるではなく、神への信仰のみであるという考え方。
    • 聖書中心主義…信仰の拠り所は教会にあるのではなく、聖書のみにあるという考え方。
    • 万人司祭主義…信仰を持ち聖書を拠り所とすると神と直接対話ができ、信仰者は全て司祭となるという考え方。
    • 職業召命観…職業を神によって召された使命として考える思想。ルターは職業に神の召命としての意義を与えた。カルヴァンは世俗的職業は神の栄光を実現するために人間が奉仕する場であるとして、より積極的に意義づけた。
    • 聖書のドイツ語訳…聖書の一部特権階層の独占を解放。教会や司祭によって救済にあずかるという中世的な宗教観を覆す。

2-2.内面からの信仰[カルヴァン]

(1)予定説
  • ①罪からの救済は、教会でも個人の信仰でもない。救済はすべて、神の意志によって定められているのであり、ある者には永遠の生命が、ある者には永遠の滅亡が予定されている。
  • ②では人はこの世においてどう生きれば良いのか?
  • ③勤勉に働くことが人間の救い
(2)カルヴィニズム
  • 信者は神の予定のもとで自分が選ばれていることの確証を得るために禁欲的に職業に励み、自己を神の意志を実現する道具として自覚する。そのため、労働によって得た富は正統であり、神聖なものとなる。金銭蓄財の肯定。
(3)M.ウェーバープロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神
  • 予定説のもとで人々が救いの証を得るために、神の栄光をあらわす世俗的な職業に励み、禁欲的な生活を送って利潤を蓄積したことが、資本の形成につながり、近代資本主義の精神を生む要因になったと分析。

2-【補】反宗教改革

3「人間の偉大と限界」

3-1.モラリストの想い

  • 「人間とは何か」「人間としての尊厳の根拠はどこにあるのか」
    • 16世紀~17世紀におけるモラリストの活躍
      • モラリスト…人間と社会について観察し、その真の在り方を探究した思想家。

3-2.私は何を知るか[モンテーニュ]『エセー』

  • ユグノー戦争の勃発
    • 何がこのような悲惨な事態を生み出すのか?→答え「人間とは何か」「自己とはなにか」という問いかけが欠如しているため。(これにより不遜さ、精神敵対だ、独断や偏見、不寛容が生じる)
  • 人間として望まれることは何か?⇒「自己自身に謙虚になり、さまざまな人間の生き方や考え方を学ぶこと」
    • ※「ク・セ・ジュ?」(私は何を知るか)
      • モンテーニュ懐疑主義をあらわす言葉。不完全な人間の理性によっては普遍の真理を認識することはできない。「人間はつねに真理の探究中であるから断定を差し控えるべきだ」という意味。理性の傲慢をいましめ、つねに疑い、より深い真理探究へと人間の精神を導く。

3-3.考える葦[パスカ]『パンセ』

(1)考える葦
  • 「人間は自然のうちでもっとも弱い一茎の葦にすぎない。しかしそれは考える葦である」
    • →人間は自然のなかで最も弱い存在である。しかし、考えるということ、自分の悲惨さを知っていることに人間の偉大さがある。
  • パスカルが求めた「考える」という行為に必要なもの
    • 幾何学的精神…科学的・合理的に思考する
    • 繊細の精神…愛を原動力として現象の背後にある真理を直感する
(2)中間者
  • パスカルが考える人間の存在。人間を偉大さと悲惨さという矛盾する二面性を持つ存在であるとする。この矛盾する二重性はキリスト教によって説明されて救われる。
    • →「自分の悲惨を知らずに神を知ることは高慢を生み出す。神を知らずに悲惨を知ることは絶望を生み出す。イエス=キリストを知ることはその中間をとらせる」(『パンセ』)
(3)「気晴らし」
  • 人間は死、孤独、無知など自己の飛散さから目をそむけ、遊びや娯楽や戦争などに熱中して気持ちを紛らわせようとする。しかし、自己から目をそむけて気晴らしに逃避してもやがては倦怠にとらわれて絶望うや悲哀に落ち込む。
  • 「気晴らし」をするのではなく、キリスト教を信じ神の愛によってみじめさをみつめる
    • 存在の根源的不安定さを直視
    • 神の愛を信じることに人間本来の在り方。