2021年発売のノベルゲームまとめ

ノベルゲーの1年間の振り返りをし、業界がどのような傾向にあるのかを分析していきたいと思います。2021年の主要タイトルの体験版感想はコチラにまとめてありますが、この中から実際に製品版をやったものを取扱います。世間で名作とされているものをスルーしてしまっていたり、一般的には高評価でも個人的に面白さを感じることができなった作品もあったりしますので、ご注意ください。

まず業界全体の所感を記した上で、各作品の振り返りとまとめをしていきます。

2021年業界全体の所感

  • ウマ娘が持つ従来のノベルゲー要素の発展的継承
    • 2021年の印象としては「ウマ娘」が強かった感があります。はい、そこのあなた「ウマ娘」はノベルゲーじゃないとツッコミましたね。しかしこの作品、ゲームの部分を差し引いてもシナリオがそれなりによくできているのです。さらにウマ娘のシナリオは従来のノベルゲーの構造や表現技法、キャラクター造形やフラグ形成過程を多分に取り入れており、今までの作品がミームとなって継承されている様子がうかがえます。「現実」での悲喜劇が「物語」を持ち、それを「背景」としたキャラが「ノベルゲーの文法」によく落とし込まれています。文脈的には艦これやFGOなどの擬人化モノと同じですが、艦これが持てなかったシナリオをウマ娘は持ち、FGOが型月厨に特化しピーキー化していったのに比すると、歴史的意義がよく分かるのではないかと思います。ノベルゲー自身がかつて持ちえた重厚な泣きゲーや鬱ゲー要素は、現在ほぼ皆無となりましたが、こういったところに継承されているかと思うと時代の流れを感じさせます。キャラクター表現もダイワスカーレットを筆頭に90年代泣きゲーに流行った奇抜な属性を2020年代に違和感なく表現していますし。
    • タブレットスマホの発展により従来のノベルゲーのプレイヤー層はソシャゲに移行し、描かれるイラストもソシャゲのキャラが多くなりました。それらの絵師の方々が2021年は一気にウマ娘に流れたような感じ。従来は艦これ・プリコネ・FGO・ブルアカ・アイマス(ミリ・デレ・シャニ)などのイラストを散見していましたが、今年はウマ娘一色だったと言っても過言ではない気がします。

  • 3Dモデリング・Live2Dとの戦い
    • 2020年代初頭の現在、3Dモデリングが躍動感を与え、Live2Dがヌルヌルと動いてるなか、単なる「立ち絵」と「1枚絵」で構成される「紙芝居」的なキャラゲーは厳しい戦いを強いられることは避けられないでしょう。逆にシナリオで戦った方が良さそう。ウマ娘FGOなどの擬人化ソシャゲ群は過去に存在していた人物の「物語」を下地にしているからこそウケていますが、逆にそこから大きく逸脱することは出来ず制限があるわけです。その点ノベルゲーは表現の幅が大きいように思うのですが、近年の作品を読んでいると、かつて流行った作風を混ぜ合わせて再構成した作品が多いように感じます(特に2020年が顕著だった)。絵を動かしたり、有名声優を起用したりすると開発費がもの凄いことになりそうなので、ヴィジュアルノベル特化型の作品が出て来てもいいんじゃないかなーと思っています。

ガラス姫と鏡の従者 (戯画) (2021-01-29)

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新年早々戯画マイン。戯画の作品などやるまいと思っていたのですがライター籐太先生は結構良い作品を書くので購入しました(個人的に好きな作品は『どしくろ』)。体験版はそれなりに読むことができ、上流階級のロイヤル・ノーブルな方々とそれに仕える従者の主従関係を中心に、王族としての責任と個人としての自由の相克がテーマとされ結構面白かったのですが……。メインヒロインであるベルナデッドルートでは宮廷生活での権謀術数、社会体制の変革、現代社会における君主制の役割が結構上手くまとめられていたのですが……その他のルートがベル√に比してなんとおざなりであったことか。ベル√で力を使い果たしてしまったのかもしれません。特にベル√で丁寧に描いた異母姉妹間でのすれ違い問題を、別のルート(織姫√)ではその攻略ヒロインが介入してすごくアッサリと解決してしまったのが何とも痛い。これは織姫√が残念なことになっただけでなくベル√そのものを蔑ろにするものであり、作品全体の価値を落とすことになってしまいました。その他、双子の入れ替わりや突発時代劇となったり、何とかベル√以外のシナリオを書こうとしたんだなとライターの苦渋の様子がうかがい知れる作品でした。籐太先生には単独で1作品作るのはキツイのか……

 

冥契のルペルカリア (ウグイスカグラ) (2021-02-26)

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体験版がクライマックス!我らが鬱ゲーライタールクル先生の新作であり、演劇への情熱的な狂気をテーマにした重厚作品です。少なくとも体験版までは。かつて天才子役と持て囃された主人公が、演劇に興味を持つ友人の付き添いで劇団に参加。周囲の人間が持つコダワリや演技の表現力などが多分に叙述されていくだけでなく、主人公が実は一発屋で天才でも何でもない凡人であったことや、それ故に妹に対して激しい葛藤を募らせていたことなど、人間が持つ負の感情がとてもよく描かれています。どうせならこのまま演劇モノで貫き通してくれれば良かったのに、シナリオは明後日の方向へぶっ飛んでいきます。簡単に言えばリトバスの思念体世界。物語で描かれていたのは、劇場が火事となり、その場に居合わせた人々の想いが創り出した幻の世界だったというオチ。で、夢世界で強さを得た主人公たちは火事の現場でも動くことができ、生き残ることができたという展開になります。ルクル先生の作品は主人公が結構歪んでいたり、兄妹関係が愛憎で絡み合っていたり、ヒロイン達が拗らせていたりすることが魅力的なので、安易に思念体世界オチになってしまったことには賛否がありそう。

 

源平繚乱絵巻 -GIKEI- (インレ) (2021-03-26)

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忠臣蔵新撰組に続いて今度は源平合戦。前2本に比べると、よりトンデモ歴史モノになっています。ループを繰り返して世界線を書き換えるノリは忠臣蔵と同じなのですが、1周目終了後は藤原氏滅亡編に始終することになります。義経を主人公とした源平合戦で見せ場となるのはやはり勝ってる時(壇ノ浦の戦いまで)なので、平清盛ほとんど出てこないし、史実をなぞっているだけというツッコミがあるにしても、そこまでは面白く読めます。しかし藤原氏滅亡編は義経死亡が確定しているので、何をどうあがいても歴史の流れは止められず。史実の知識を生かして改変を試みるという転生モノでの魅力がいともたやすく蔑ろにされるのでフラストレーションが溜まりがち。最終的にはマイナーキャラの陰謀に帰結していくので、歴史モノの魅力も失われがち。やはり頼朝がラスボスでなかったのが痛いかもしれない。転生&歴史をウリにしているインレですが、その二つをセルフ破壊した感があるな。いっそのこと、平氏生存ルートを目指すとかあっても良かったんじゃない。

 

我が姫君に栄冠を (みなとそふと) (2021-03-26)

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なろう系異世界ファンタジー異能バトル。真ヒロインは女性陣ではなくミンジャラ。もはやミンジャラゲーと言っても過言ではない。世界観の設定はオーソドックスで帝国・連邦・魔界で三国志してるセカイが舞台。山奥の村で修行に励んだ主人公は封印されし傲慢不遜な神ミンジャラを連れて世界を巡る旅に出ます。周回ごとに帝国・連邦・魔界に属し、世界設定の謎を回収していくという展開。そのため各国家情勢の諸事情や世界の危機を救うことがテーマとなり、大量の登場人物が出てくる大河ドラマになるので、攻略ヒロインの存在は完全に陰に潜んでしまいます。世界の陰謀も黒幕の超個人的事情が引き起こしたものなので、テーマ的に深みも無い。魅力となるのは、主人公が諸問題を解決しながら出世していく活躍譚であり、その過程におけるミンジャラとの友情。もうミンジャラに愛着が湧いて仕方がない。そういった点でミンジャラゲーでした。後他に挙げるとするならば妹のエビの存在でしょうか。つよきすで言うところのカニ的な存在。山奥の村から主人公と共に世界を巡る旅に同行するのですが、その天真爛漫な明るい性格は旅を彩る存在となり、ミンジャラと共に思い入れのあるキャラになること必定です。

 

9-nine- 新章(ぱれっと) (2021-04-23)

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ぱれっと商法ここに極まれり。本作は新章として、これまで分割商法を展開して来た9-nine-シリーズを統合する作品として期待されて登場しました。しかし新章とは言い難く、投げっぱなしにされていた都√をサクッと解決した後、各ヒロインのエピローグがちょろっと挿入されて終わりを迎えます。プレイヤーが求めていたものは、並行世界の観測者であるソフィーとの情交だったにも拘らず、それらは満たされませんでした。新章というサブタイトルは語弊があるし、詐欺まがいのように感じられてしまうかもしれません。これまで分割商法された個別√を全部購入していたので、毒を食らわば皿までの気分で新章買いましたけど、これでカネを取るのかぱれっと商法。9-nine-だけで5年間凌いだのだから、次はちゃんとした作品を出して欲しいです。味をしめたメーカーが同じような商法を繰り返すかもしれませんが。せめてサブタイトルを新章ではなくエピローグにして欲しかったものです。

 

海と雪のシアンブルー (CUBE) (2021-04-30)

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キャラゲー。推薦合格した主人公がこれまで軽視していた学校生活に報いるために卒アル委員をする話です。母親の再婚により義妹ができたのですが、主人公はもう既に上京することが決まっているため表面的な関係で終わらせようとしたところ、いい子ちゃん面していた自分の本性を見抜かれて、自己の浅はかさを知るという展開がいい味出しています。閉鎖的な田舎の寂れた冬景色が鬱屈さの表象となっており、独自の雰囲気的な良さがあります。攻略ヒロインも鬱屈と葛藤を内面に有しており、周囲を見下していた元孤高ぼっち・不登校・偽善・再婚問題・世襲系教員の苦悩とよりどりみどり。しかしシナリオは前述の通りキャラゲーであり、基本的には性善説のご都合主義的に問題が解決していきます。せめて「菜畑いなば」シナリオだけはちゃんと親からの自立を描いて欲しかったものよ。設定自体はいなばはとても良いのですよ?中学時代は親に勉強漬けにされており、それを正しいと思っており、勉強ができる自分を鼻にかけ周囲を見下していた痛々しい少女でした。そんないなばが鼻っ柱を叩きおられて浅はかな自分を知る過去の悔恨の告白は結構グッときます。しかし親との対立、そこからの自立は完全にスルー……。ちょっとガッカリ。また裏ヒロインとして主人公が愛憎を寄せるヒロインが用意されているのですが、結局群青ルートはありませんでした。

 

LOOPERS(Key) (2021-05-28)

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ジオハンティング×ループ×ホスピス。ループやホスピスなどの作品は腐るほどありますが、それをジオハンティングで味付けしたことに本作の独自性があります。スマホGPS機能を用いた宝探しジオハンティングが上手くシナリオに組み込まれており、ループを繰り返す中で無気力状態となってしまった仲間たちを再起させたり、現実世界で死が待っているためループ世界に留まろうとする少女を勇気づけたりします。しかしながら本作は短編であり、それでありながらキャラが多いので、内容が薄くなりがち。無気力状態解決編は興味深い題材を扱いながらも、アッサリと気力を取戻すので、これまでの無気力状態は何だったのかと。そしてどうしても最終局面は手垢に塗れた泣きゲー展開へ。ホスピスの少女が現実に帰ると死ぬのでループ世界に留まろうとするも主人公の活躍で翻意させ病気に立ち向かう勇気を得るとか既に何十回と使われたネタ。物語の面白さをキャラに依存している傾向にありますが、人生が希薄だったミアが感情を発露させていくのはお約束とはいえやはりグッとくるのでミアが好きな人はプレイしてもいいかもしれません。

 

ハッピーライヴ ショウアップ! (FAVORITE) (2021-05-28)

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大道芸に青春を賭ける群像劇。主人公がかつて一流だったものの挫折したというパターンの一種で、ヒロインたちの夢を叶える手助けをする中に自分の実存を見出していきます。しかしながら個別√のシナリオ分量に偏りが見られ、メインヒロインのピンク髪だけシナリオの量が優遇されています。けれどもピンク髪ルートの中身はウジウジしてはそこから立ち直るという展開が多くちょっと辟易。その他、アホの子、ツンデレバレリーナ、階級格差音楽家が用意されていますが、個別はアッサリしがち。ツンデレバレリーナは過程が描かれず成功した結果だけ見せられるし、音楽家は身分の高い少女に振り回される様が提示されます。共通√までは結構力を入れて書かれていたので、個別まで描き切る力がライターに無かったのかもしれません。バレエや楽器など専門性の高いものを扱う場合はライターに力量が無いと薄っぺらくなりがちですが、その懸念が正に当たってしまった作品です。

 

ハジラブ -Making*Lovers- (SMEE) (2021-06-25)

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ぶっとんだギャグゲーバカゲーがウリだったSMEEの新機軸として期待されていた作品。SMEEの作風は本家の姉妹ブランドHOOK SOFTにすっかり吸収され、HOOKのSMEE化が起こっていたので新しい方針を模索させられていたのだろうと邪推されてしまいます。作品のコンセプトとしてはフラグ生成過程だけでなくフラグ構築後の日常生活を丁寧に描くこと。しかしながら清純正統派幼馴染が正妻ポジションとして初めから用意されているので、他のルートに行く場合はフラグ圧し折りをしなければならないという苦行を迫られます。こんだけ常日頃から良くしてくれているのに切り捨てることなど誰ができようか。個人的に好きだったのは大家族の長女である炉利バブミお姉ちゃん。父親の居酒屋の手伝いをしながら家族の一員になっていくのがホッコリする。惜しむらくは義父との対決イベントが無かったこと。娘はやらんとか言ってた父親なのだから、もうちょっと主人公を認めるには何がしかイベントがあって欲しかったものよ。あと一応新機軸と言いながら従来のファンを取りこぼさないように、これぞSMEEだ!と言わんばかりのミステリアスクール先輩が起用されていますが、他のヒロインと比べると結構ピーキーすぎるかもしれない。

 

年下彼女 (あざらしそふと) (2021-06-25)

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ライター夜のひつじ先生が何故かあざらしそふとに登場。夜のひつじ先生のお家芸と言えば、人生を上手く生きられない成人男性が不幸な生い立ちを持つ少女に生存を「ゆるされる」というコンセプト。人生が充実している人は夜のひつじ先生の作品には何も魅力を感じなそう。本作の場合は主人公が教員であり表面上は上手く適応しています。親戚で教え子である攻略ヒロインに対しても理性的に対応しており、このような倫理観の高い男性を白ギャルJKが精神的に破壊していく過程が本作の魅力の一つとなっています。ゆるすという用語がわざとひらがなでかかれているところに夜のひつじ先生のコダワリが感じられます。また夜のひつじファンの界隈では「日常哲学」と言われている実存主義的思想が本作でも健在。手を変え品を変え、ハイデカーのダーザインについて説いていきます。このハイデカーの独自解釈を攻略ヒロインに付与していくスタイルは結構好きなんですが、万人受けはせず人を選びそう。

 

PARQUET(ゆずソフトSOUR) (2021-07-31)

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心はふたつ、身体はひとつ。同じ肉体に二つの人格を有する少女の話。ゆずソフトが一般向けかつ低価格帯少数ヒロインモノに舵を切ったことに歴史的意義のある作品。多重人格なのではなく、ホスピスの少女が死を嫌い、困窮に喘ぐ少女の身体に自らの人格を移植した結果というギミック。シナリオの主軸はこの二つの人格のやり取りが中心となります。この二人は昼の人格と夜の人格でそれぞれ役割分担をし、心の交流を重ねて行くのですが、ホスピス少女は自分が人格移植をした経緯を忘れており、その後ろめたさに苛まれていくというのが大きな流れです。二つの人格モノとして最後まで深掘りされれば、もしかしたら名作になったかもしれませんが、本作はご都合主義エンド。空の素体に人格を別移植し、無事にそれぞれが個人として別個体になれましたとハッピーエンドになります。

 

アサガオは夜を識らない。 (MELLOW) (2021-07-30)

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若年犯罪者の更生施設を舞台に犯罪と向き合う少女を描いた作品。攻略ヒロインは3人いるが、個別√ではなく一人ずつケアしていくという仕組み。最初は主人公の記憶が曖昧で認識疎外もかけられているため、収容所であることは徐々に明らかになっていくというギミックになっています。薬物中毒、パラノイア、タナトフィリアの3人を攻略しますが前二人は前座であり、真骨頂はタナトフィリアのメインヒロイン。自分が好きになってしまった生き物の死に惹かれるという障害を持つ少女がウサギを殺しているタイトル画面が印象的です。当然主人公とフラグ構築すれば主人公を殺そうとするのであり、主人公はその死を受け入れることになります。最愛の人を殺すことでメインヒロインは死への執着から解放されるという寸法。主人公が最後に自分を殺させることで落とし前をつけるという展開はコードギアスを筆頭に数々の作品でよく見られます。自分の大切な人に自分を殺させるというパターンに惹かれるものがある人は本作をプレイしてもいいかもしれません。

 

眠れぬ羊と孤独な狼 -A Tale of Love, and Cutthroat- 外伝 (CLOCKUP) (2021-08-27)

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歌舞伎町を舞台にしたヤクザモノの小話集。人を殺さないと安眠出来ないとかいう主人公がヤクザの下っ端として暗殺家業に身を染めつつ頽廃的に生きているハードボイルドさがウリ。本作はファンディスクということで話もコミカルであり、ヤクザたちの日常的な絡みに主眼が置かれています。デリヘル狩り、不老の肉人形、バッティングセンター対決、迷惑系ユーチューバーとおもしろエピソードが続き、最後だけちょっとシリアスに主人公の過去を回収するという展開です。主人公が大陸でヤクザの殺し屋となった際、ヤクザの養女と交流を深めるのですが、この女性が自分の運命を受け入れており他には類を見ない存在として主人公に神格化されています。その死んでしまった過去の中の女を、現在主人公が支えている女が乗り越えて行くところに第5章の魅力があるわけです。歌舞伎町ヤクザモノハードボイルドが好きな人たちにはおススメ。

 

ふゆから、くるる。 (シルキーズプラス) (2021-09-24)

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すみっこソフトから出ていたはるくる・なつくる・あきくるの四季シリーズ。ふゆくるの発売は絶望的でしたが、なぜかメーカーをシルプラに変えて発売されました。缶詰少女の時のコネか?仏教的世界観を持つ宇宙系SFセカイが四季シリーズのコンセプト。今回は火の鳥のマキムラの如く成長と幼化を繰り返す少女たちが天才となることで閉鎖された学園からの卒業を目指すという設定です。しかしそれは当然の如くブラフであり、宇宙空間において人類が生存可能な適性のある惑星を探すために射出された情報思念体であることが明らかになります。シナリオ前半の殺人事件の犯人捜しをする名探偵編は正直言って茶番であり、面白くなるのは後半から。新たな惑星を捜し宇宙空間を漂うことが、仏教の補陀落渡海に例えられており、本作品に独自のオリジナリティを与えることに成功しています。人類という種族が死の連鎖の果てに行き着く先がグッときますね。

 

アインシュタインより愛を込めて APOLLOCRISIS (GLOVETY) (2021-09-24)

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同日に発売した『ふゆくる』と類似した作風です。『ふゆくる』は情報思念体が宇宙空間を漂い適応可能な土地を探すための宇宙の旅が描かれますが、『アイ込めAC』は適応可能な惑星を見つけた情報思念体が先住民と抗争を繰り広げる作品だと言えます。『ふゆくる』が惑星を探す側なのに対して『アイ込めAC』は侵略を受ける側。同日発売かつ同じテーマで立場が逆という稀有な事例?となりました。『ふゆくる』は仏教的世界観で味付けがなされていましたが、『アイ込めAC』では人間が持つ不条理が題材とされました。高度文明を持つ侵略者が人間の精神的不安を解消させ安寧をもたらすのですが、それに対して苦悩し続けることを受け入れるからこそ人間なのだと撃退するところがクライマックスとなっています。最後はメインヒロインの設定回収を通して死後の世界の接続とか魂魄の在り方とかシャーマニズム的な話になっていきます。

 

Monkeys!¡ (HARUKAZE) (2021-10-29)

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恋愛皇帝や野良猫ハートで名を馳せたはと先生の新作。はと先生といえば、ぶっとんだギャグゲーバカゲーを、ノリと勢いで強引に展開しながら、その裏では巧妙に家族愛的泣きゲー要素を孕ませ、哲学思想ゲーとして落とし込むことに秀でたシナリオライターとして有名です。本作の場合は廃校の危機に晒された男子校を救う為、超お嬢様学校と合併すべく、女装して潜入することになります。表面だけ見れば、『マリみて』や『おとぼく』を契機としてゼロ年代半ばに流行った女装主人公モノですが、はと先生ならではの作風は健在です。複雑な家庭環境を持つヤンキーが、淑女教育を受けながら、必死に自分の居場所である男子校を守ろうとする心意気が熱い。また、生きることが希薄化していたメインヒロインの黒髪ロングが主人公を始めとする多種多様なキャラたちとの交流を通して人格的に深みを増していくところはホッコリします。小綺麗にまとまっておりかつてほどの破壊力はありませんが、その分一般受けするモノとなっています。恋愛皇帝のノリとか懐かしいね。

 

クナド国記 (Purple software) (2021-12-24)

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なろう系国家運営&異能バトル。文明崩壊後のセカイで人類が侵略者との戦いに勝利した所から物語は始まります。戦時総力戦体制が敷かれていた国家にとって、侵略者がいなくなったことは、体制転換に迫られることと同義でした。そのため文明崩壊以前の知識と、何でも言ったことが具現化する異能「言霊」を与えられた主人公が、統治者に協力しながら国家再建に尽力していくこととなります。このような設定であることに加えて、政治・経済・文化・教育・インフラなどの内政ゲーであるかのような匂いが付け加えられているので、思わずそれらに期待を寄せてしまいます。しかし、シナリオが進むにつれて内政要素は全く顧みられなくなっていきます。多くのプレイヤーが喫茶店作っただけで貨幣経済が浸透するわけねーだろと突っ込んだのではないでしょうか。本当に一体何だったんだ内政要素。じゃあ、シナリオでは何が語られたか。それは侵略者を自らの命と引き換えに倒したとかいう前任の統治者「夏姫」の人生についてでした。すなわち攻略ヒロインである「春姫」は途中で退場してしまい、「夏姫」ゲーとなるのです。じゃあ夏姫はきちんと描かれたのかい?と問われればそれもビミョーであり、侵略者が人類を襲っている理由も一応回収はされますがおざなりなものですし、夏姫の陰謀もフーンって感じでした。そして最後はみんなが救済されて強引にハッピーエンドで終わります。