サクラノ刻「Der Dichter spricht(草薙みすゞ)」シナリオの感想・レビュー

虚無の人生の中に生きる意義と意味を見出すことができるのが美術だという話。
本間心鈴は世界に属せず虚無の中にいたが、絵画により自分を見つけることが出来た。
そして主人公により世界が照らされ、それは楽しく嬉しいものだと気付くことが出来た。
心鈴は本間家において家族と問題を抱えていたが、主人公が拗れた家族を修復する。
ヒキコモリになった心鈴の兄には、持たざる者が故の純粋な欲望を見出し創作を肯定する。
また心鈴と父親の確執については、父親が娘に持つ愛情を確かめさせる。
こうして本間家・中村家・恩田家・鳥谷家・夏目家・草薙家の長き抗争は収束された。

世界に属さない虚無の中に“生きる”意義と意味を見出す

心鈴を美により救った二人の人物
  • 画家はその身体を世界に貸すことによって、世界を絵に変えるのです
    • 本間心鈴は世界に属すことが出来ず、唯々虚無の中の生きてきた名家の少女。だが彼女は二人の人物により救済される。一人目は心鈴が師匠と呼ぶ存在であり、師が絵画を描くことを教えてくれたからこそ、心鈴は迷子の世界に自分を見つけることができた。心鈴を救済した二人目が主人公であり、世界はたのしくて、うれしいものに溢れていることを心鈴に教えたのであった。こうして心鈴は主人公に惚れていき、主人公もまたその想いに応えることになる。

  • 父:本間礼次郎は歪んではいたが、娘を愛していた
    • 心鈴シナリオは、本作の背景にあったお家抗争を収束させるための機能を果たす。心鈴は中村麗華と本間礼次郎の娘であったが、家族間に複雑な問題を抱えていたのだ。父:礼次郎は冷徹で合理的であり家族を省みず、心鈴が兄;心佐夫から暴力を振るわれても関わろうともしなかった。また心佐夫が不登校のヒキコモリになってしまっても無関心であった。また麗華とは離縁し中村家へ戻してしまった。本間礼次郎は徹底したビジネスマンかのように描かれていたのである。だが礼次郎は、かつて晩年の主人公の父親と因果交流を果たし美について語り合ったことで人生観を変えていたし、その本質は不器用だから家族と上手く付き合えなかったことが判明する。心鈴は父の怖ろしい視線の中に自分を見ていただけであり、きちんと父親と向き合って、自分の意志を主張する。こうして心鈴は父親との関係性を新たにすることができた。

  • 持たない者だからこそ表現できる創作の本質
    • 本間家のもう一つの問題は兄;心佐夫について。麗華にとって権力の根源であった息子の心佐夫は、甘やかされて暴君のように育った。だがそれも小学校時代までであり、中学時代にはその反動でイジメを受け、高校には一つも受からずヒキコモリ状態になってしまった。麗華に呼び出された主人公は教師として心佐夫の心を開かせることを求められる。心佐夫シナリオで扱われるのは創作の本質について。恩田寧ルートでは絶対的な教養に基づく思想・哲学の必要性が唱えられた。だが心佐夫ルートでは、持たない者だからこそ純粋な欲望を吐き出すことが出来ることが語られる。主人公は心佐夫のヒキコモリを解決するために接触を試みるが、彼がノベルゲーと薄い本を愛し、自らもイラストと文章を書き散らすワナビであることを見抜く。心佐夫の創作は酷いものであったが、技術も構成も何もないからこそ、ありのままの自分の欲望を表現する事に成功していた。主人公は心佐夫に訴えるためSNSで彼の創作のキャラクターのファンアートを次々と投下していく。こうして心佐夫のシナリオの挿絵を描き、最終的にはゲームまで作ってしまう。過労で主人公が倒れた時、心佐夫はここまで来て梯子を外されたと勘違いし怒り狂って怒鳴り込みに来るのだが……そこには倒れるまで心佐夫の為に絵を描いた主人公が横たわっており、それを見て改心することになる。

  • 弓張学園への入学と「草薙みすゞ」誕生
    • 最後は恩田家・鳥谷家と和解する。恩田放哉は幼少期の主人公に言われた発言(教師として向いている絵という評)を根に持っており、芸術家としての道を降りた主人公を奔らせるため色々と画策していた。だが主人公が今や美術教師として人生に意義を見出している姿を何度も見せつけられることになり、怨恨が解消されていく。そして最後に主人公に対して過去に言われた台詞をそのまま返し溜飲が下がった。その後、心鈴は念願であった弓張学園に編入できたことで鳥谷家との問題が解決された象徴となった。心鈴は恩田家の長:宮崎破戒から破門されるというカタチを取り、自由の身となったが、これからは「草薙みすゞ」と名乗ると言い、ハッピーエンドを迎える。

  • 心鈴ルートの閨房描写
    • ちなみにこの心鈴はすかぢ先生の性癖のオンパレードを昇華する機能を担わされている。すかぢ先生は可愛い顔をしたキャラに男性器を生やすという属性にコダワリがあることで業界に良く知られているのだが、本作では心鈴がそれを担当することになるのだ。心鈴は恩田放哉から、主人公が亡き恩田圭を思慕していたと聞かされていた。そのため男色の気があるのではないかと思い込み、主人公の生殖器に擬した張形を作り、研究を重ねるのである。心鈴がそれを装着して行為に及ぶ姿は、すかぢ先生らしさがよく垣間見られる閨房描写である。
孤独に慣れていた少女が愛を得た時
今まで孤独だった分、愛への欲求が強い心鈴
心鈴ルートは閨房描写がギャグ多めでホッコリ?する
本間礼次郎も娘を愛しているだけであった
主人公の父と心鈴の父の美による因果交流
ヒキコモリであった心佐夫を創作を通してオープンハートさせた主人公
恩田放哉との和解
「草薙みすゞ」誕生

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