サクラノ刻「La gazza ladra(本間麗華)」シナリオの感想・レビュー

サクラノ詩真琴√の贋作事件の掘り下げ&リベンジ。なぜ麗華が贋作を選んだのか理由が明らかになる。
麗華は本物の鑑定眼を持っていたからこそ、贋作として作られたが現代美術の逸品でもある作品を選んだのだ!
また麗華シナリオを第1章に持ってくることで中村・鳥谷・本間・夏目・草薙・恩田の関係図が整理された。
内容としては中村と鳥谷の離婚問題で中村家に囚われた妾の子(圭)を救う為静流が陶磁器の贋作を作る話。
お家騒動を抜きにして静流の陶磁器修行物語として読んでも面白い。現代と過去、東洋と西洋が交差する。
麗華と静流の間に生じた関係性の変化は、歪んでいるけれども、確かにそれは友情の一形態なのである。

真琴√リベンジ 本間麗華と鳥谷静流の複雑な友情

  • 地方社会における封建的支配とその解放により生じる個人の問題
    • サクラノ詩』では帰属と所属の象徴として郷土・土地・家が描かれます。最終的に主人公くんはヒロインたちのアジールを守るため郷土に埋没することを是とするのです。郷土を舞台装置とするためには、その地方社会を支配してきた封建的な存在が必ず出てきます。それが『サクラノ』シリーズでは「中村家」であり、その周辺に鳥谷・本間・夏目・草薙・恩田といった家系が配置されます。ざっとおさらいすると地方社会の支配者中村家の頭首が中村章一、この正妻が鳥谷紗希であり、真琴はその娘。中村家は過去の伝承に囚われており、その「血」の再現を夢見て、妾の子たちを巨大な屋敷に封じ込めると近親交配を繰り返していたのです。主人公くんの父親である草薙健一郎は中村家に囚われていた水菜さんを救う為に奮闘。『オランピア』の贋作を作り、わざとそれを中村章一に破かせることで、その代償金として水菜の身柄を要求したのでした。地元ヤクザである夏目家の力を借りた草薙健一郎は水菜と藍と屋敷を手に入れましたが、寸前の所で水菜が思わぬ行動に出たため、目論見が完璧には行かなくなります。それ故、中村家に不足金を支払わねばならず、NYに渡ってカネになる芸術作品を作り続けているというワケです。ここまでが『サクラノ刻』第1章時点での時間軸となります。
    • 夏目家と草薙健一郎の奮闘で中村家に打撃が入るのですが、これを利用して鳥谷家がクーデターを起こします。このクーデタ周辺の出来事が第1章の舞台です。中村家は古くから傘下の学園も経営してきましたが、中村章一はその統制を強めていきます。これに学生の身分でありながら加担したのが章一の実妹である麗華でした。麗華はチヤホヤとお姫様扱いされる身分を活用して気に入らない生徒や支配方針に従わない教員を追放していきます。麗華は中村家に立てついた夏目家・草薙家に対して怨念を抱いており、藍が入学してくると、あの手この手を使って嫌がらせをしてきます。最終的には屈強なむくつけき男たちを使って凌辱にまで及ぼうとしました。しかし中村家の強権的な支配はいつまでも続くわけがありません。中村章一の正妻であった鳥谷紗希はついにクーデターを決行し学園から中村家を追放すると、自らがトップに収まると共に離縁を突きつけたのでした。このような複雑な人間関係を舞台にしながら、『サクラノ刻』第1章の語り部である鳥谷静流のストーリーが展開されるのです。

 

  • 鳥谷静流は従妹(真琴)の異母弟(圭)を救うため麗華に贋作を掴ませるそうです
    • 鳥谷静流は鳥谷紗希の姪であり、遠縁でありながらも中村家の末端として様々な恩恵を受けて学園生活を過ごしてきました。麗華とは小学校以来の旧知の間柄で、静流が高校生活において勉学を放棄し陶芸ライフに打ち込めたのもその一環でありました。それは一介の学生身分でありながら高名な陶芸家を指導者として学園に呼んでもらえる程。麗華は家柄と血統をアイデンティティとし自らそれへの依存を深めていたため、かなり高飛車な性格だったのですが静流にだけは自らを曝け出すことが出来たのです。そこには確かに歪んでいたけれども友情があったのです。芸術作品は芸術家だけでは成り立たず、批評家がいなければならない。麗華はその批評家になって静流の作品を評価すると豪語するのでした(第1章の重要な根幹)。
    • しかしながら静流と麗華の間の友情にヒビが入り始めます。始まりは藍が入学してから。上述しましたが麗華は藍に対して徹底したイジメを行ったのです。これを庇って救ったのが静流であり当然麗華は面白くありません。さらに鳥谷紗希のクーデターが成功すると麗華は転校を余儀なくされます。憤怒に駆られる麗華は和解したければ300万円を用意しろと述べるまでになっていました。また静流は中村家の「圭」を巡る騒動にも巻き込まれていきます。中村家が妾を数多く囲っていることは既に述べましたが、離婚騒動の時に紗希は妾の子である圭をも引き取ろうとしたのですが、それが阻止されてしまったのです。真琴は自分だけ救われ圭が囚われてしまったことで、母親とワダカマリを抱えることになってしまいます。静流はこの問題を解決するために一肌脱ごうとします。圭は当初取るに足らない存在として見なされていたのですが、紗希が自分の子でもないのに引き取ろうとしたことから身辺調査が入り、高名な画家である恩田家の血筋を引いていることが明らかになったのです。圭を救出するための麗華との交渉材料とするべく、静流は贋作作りを行うことを決意します。

 

  • 贋作・良心の呵責・歪んだ友情
    • この贋作作りで使われるエピソードが、前作『サクラノ詩』の真琴√で使用されたあの贋作ですよ。絵画は鳥谷紗希の贋作でしたが、工芸は静流の贋作であり、それがどのように作られたのかというシナリオが展開されていきます。サクッとフランスに渡った静流は現地で修行を積み、自分の信念を賭けて一流の贋作を生み出すことに成功。ここで本物ではなく偽物であると一発で分かるようにするためギミックが加えられます。その材料に関し、過去と現在、東洋と西洋で絶対に使われないものを使い、楔としたのでした。
    • 約2年の時を経て帰国した静流は、仲直りを口実に麗華を呼び出すのですが、ここで良心の呵責に苛まれることになるのです。後ろ盾を無くした麗華は東京で男(本間家)に媚びることでしか生きられず元の気高さをすっかり失っていました。それを自嘲する姿が哀愁を誘います。そんな麗華でしたが、静流の贋作を見せられると、すっかり本物と勘違いし、作品をべた褒め。静流の目論見通り麗華を騙すことに成功したのですが、あまりにも麗華が喜ぶので静流は気が引けてきます。そんな静流を救うことになるのが、我らが草薙健一郎!『オランピア』の贋作を作った健一郎なら有益なアドバイスが貰えるかもしれない。一縷の望みに賭けた静流はNYへ。そこでは一発で健一郎が贋作と見抜きその制作者は静流であると看破するのです。そして健一郎の贋作が見るものを意図的に煽るために作られているのに対し静流の贋作はそうではないと諭しつつ、作品が友人に認められて嬉しかったのだろうと静流の心理を言語化していきます。敬一郎の言葉で考えを改めた静流は、麗華に贋作であると告げて作品を渡すことを拒否します。しかし麗華にとっては、自分が静流の作品を贋作であると認めてしまえば、静流への友情を翻すことに繋がります。それ故、渡すのが惜しくなったのだろうと言いがかりをつけ、二人の友情は破局に終わり、別離を迎えたのでした。この後、圭は自分の力で中村家から離脱し、夏目家へ迎え入れられることとなり、本編で死ぬ。
    • 以上の事実を踏まえると、『サクラノ詩』の真琴√で麗華が贋作を選んだのは「本物の鑑定眼」を持っていたからこそだったんですね。贋作として作られてもそれは"逸品"の現代における芸術作品!!麗華は決して単なる無能ではなかった!封建的な家系と血統に翻弄され、方向を完全に間違えながらも、それでも生き抜こうとした人物として浮かび上がってくるのですね。そう考えると『サクラノ詩』の真琴√により一層の深みが出て来ます。スゴイ。静流と麗華の歪んだ百合友情がグッときますね。(真琴√リベンジ・完)。

静流と麗華の歪んだ百合友情!







サクラノ詩&サクラノ刻感想セットはコチラ


参考