サクラノ刻「Mon panache!(夏目圭)」シナリオの感想・レビュー

精神性でのみ絵を描いていた少年が人生を楽しみ師匠によって因果交流を学ぶ話。
第4章は夏目圭の生涯が綴られサクラノシリーズの正ヒロインは圭ですわという心境になる。
圭は不幸な家庭環境に生まれたが、絵画を学ぶことで様々な人々と出会い、逆境を克服する。
その人生を変えることになったきっかけが草薙父子の存在であった。
圭は主人公(草薙直哉)をライバル視しそこに辿り着くために精神を削って絵を描くことで上達する。
一方、精神だけで絵を描く圭に対し主人公の父(草薙健一郎)は人生を楽しむことを教えていく。
そしてまた自分と同じような存在であった本間心鈴に対し絵画を教えたのが圭であった。

遥か昔、すでに死んだ画家の脳の中にあった観念が再び探検家の中でよみがえる。遥か彼方の画家の“心”が生み出した神経細胞の美しき発火を彼もまた体験した。

宮崎破戒が圭に説いた芸術に対する思想
  • 中村家での幽閉時代
    • 夏目圭は主人公の親友枠として用意されているキャラであるが、どんな攻略ヒロインよりも深く掘り下げられメインヒロインしている。夭折した人物ではあるが、主人公草薙直哉への超巨大感情の背景が丁寧に描かれた。
    • 夏目圭は日本画壇の巨匠宮崎破戒(恩田長三郎)の孫であったが、母霧乃が地方事業家の中村章一に強姦され生まれた子どもであった。そのため豪邸の離れに幽閉されていたが、絵画との出会いにより虚無の世界の中に自分を見出すことになる。異母姉真琴が接触したことから絵を描き始め、クレヨンで色を重ねた作品を仕上げたことで、継母の紗希により草薙健一郎と知己を得ることになる。彼の紹介状を得て、圭は母の実家であった絵画学校への入門を許可され、伯父である恩田放哉から美術用具の使い方やデッサンの基礎を教わった。作品が評価され始めると画壇で草薙健一郎の息子:直哉と知り合うことになり、彼の感性に圧倒される。特に火・水の作品に心を打たれることになった。こうして圭は主人公に追いつきたい一心で研鑽を積む。圭は中村家の支配から脱するために養育費6000万を支払う契約し、恩田家から紹介された画商と手を組み賞金の高いコンテストを総なめにしていった。目標の金額が溜まり名声も得ると、善良な画商から今度はカネではなく芸術の為に絵を描くよう助言され中村家から出ようとする。中村章一からは更なる金額を吹っ掛けられたのだが、紗希が1億用意しており完全に中村家の支配から解放された。

  • 夏目屋敷での草薙健一郎との出会い
    • その後、圭は藍の手引きもあり夏目屋敷に入ることになった。ここでもまた圭は寝食を犠牲にして精神だけで絵を描いていたのだが、そこへ草薙健一郎が現われる。健一郎は圭に因果交流や人生を楽しむことの大切さを教えていく。例え話としては文学作品が自分のために書かれたかのように感じることやショーヴェ洞窟に感じるものがあった。特にショーヴェ洞窟を例に語られる思想は本作の主人公が唱えている因果交流の根幹でもあり、是非皆さまにも呼んで欲しいところ。旧石器時代に描かれた洞窟を現代になって発見したというものだが、そこに描かれた壁画を見て3万年前の画家の中の観念が再び探検家の中でよみがえったことが語られる。即ち、絵画は描く者と見る者の神経細胞の発火だと。
    • 健一郎はそれを実践で体験させるため、夏目屋敷に巨大なキャンバスを用意して、圭と共に二人で自由に絵画を楽しむ。また古い原付に圭を乗せてあちこちと出歩き世界を見る楽しさを教えていく。健一郎の教えは圭にとってその芸術の観念を変えるものとなったため、圭は心の師匠を健一郎と定めるのであった。また圭は主人公の変容にも寄り添うことになる。草薙家は健一郎の妻であり直哉の母である水菜のために莫大なカネを稼ぐ必要があったのだが、水菜は死去してしまう。彼女の死は草薙父子の芸術表現に変容を与えるものとなり、健一郎は自己の絵画の完成形を見たし、直哉はこれまでとは異なる作風となった。圭は水菜の死後に作品を発表しなくなった主人公に寄り添い続け、彼が復活するまで待ち続けたのであった。圭の主人公を想う気持ちは攻略ヒロインの中でも屈指のものでありまさにお前がメインヒロインだ!となる。

  • 本間心鈴の師匠となった夏目圭
    • ラストは圭が本間心鈴の師匠となったエピソードが語られる。ある時圭は墓地で心鈴と出会うのだが、彼女は世界に所属することが出来ず感情を殺しており、兄にも暴力を振るわれていた。そんな心鈴に感情を灯させるのが圭の役目。圭一郎が受け継いだ教えを自分が媒介となり心鈴に伝えるのである。圭が与えたクロッキー帳は虚無の中から自分を見出すことになる。また原付に心鈴を乗せて音楽をかき鳴らし疾走する姿は、圭が健一郎にしてもらった大切な思い出でもあり、心鈴の感情を解放させるきっかけにもなた。心鈴ルートで彼女は主人公が圭を好きなのではないかとやたらと気にしていたが、圭と心鈴が従兄妹であり心鈴の精神性の中に圭が宿っているとすると、心鈴が自分の中の圭の部分を主人公が好きになったのではないかと思ってしまうのも納得できる。圭の死因も語られ、心鈴が暴力を振るわれ道路でトラックに轢かれそうになったところを圭が突っ込んで犠牲になったことが判明し、心鈴が圭を殺したという伏線も回収された。
圭に衝撃を与えた主人公の「火水」
母水菜の死により主人公が描き上げた作品
母が死に目的を喪失し温和になった主人公と圭の交流
夏目家に入ることになった圭
水菜を亡くしたことで芸術の境地に辿り着いた健一郎
山月記』を読んで李徴は俺だと思う現象
描く者と見る者がいて芸術は成り立つ
健一郎と圭の因果交流
人と交わることについて
What is mind? No matter. What is matter? Never mind.
圭と心鈴の出会い
健一郎の思想を圭が媒介して心鈴に伝える
素晴らしき日々でも語られた「心意気」
第4章終幕

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