ハイパーインフレーション(58話) ついに感動の最終回を迎える~最後までグレシャムとフラペコの駆け引きが光る~

囚われた姉を救うためという個人的な目的のため立ち上がった一人の少年ルーク。彼は姉を救うためには奴隷を解放して植民地を独立させるというより大きな全体の構造に立ち向かうことになる。初めは帝国と取引をするためにハイパーインフレーションを起こすことを交渉材料としようとするが失敗。だが挫折から立ち上がったルークは金本位制の弱点を突き贋札をばら撒いて良性のインフレをもたらした後に、取引に応じなければ贋札だとバラして帝国経済を崩壊させると交渉。結果として帝国政府はこれを飲み、ルークの目標は全て達成されハッピーエンドとなった。最終回はエピローグとしてルークたちのその後が描かれることとなった。

【目次】

1.奴隷解放と植民地の独立

帝国自治領の奴隷が解放され、その多くが独立した植民地に流入することとなった。両者の対立が危惧されたが、ハル姉が両者を取り持ちまとめ上げた。一方帝国内にはクルツさんの娘が残ることに。クルツさんとは帝国内における解放奴隷であり、努力により地位を向上させた人物であった。作中ではルークを活かすために自らが犠牲になったことで印象深い(所謂中盤でのメガンテ展開)。ルークはそのクルツさんの娘を独立国に誘ったが、彼女はそれを断り帝国内に残るガブール人の地位向上を目指すこととなった。

帝国に残ったクルツさんの娘

 

2.ルークとハルの再会

本作のそもそもの目的。ルークは姉を救うためにこれまで行動してきた。姉を救うという個人的な目標が奴隷解放・植民地独立という全体的な目的へと接続した回はとてもムネアツなものがあった。最終回においてルークは自分がいなくてもハル姉は奴隷を率いて独立していたのではないかと自己の存在意義を疑うが、ハル姉はルークに会うと今まで自己を奮い立たせてきた鎧を脱ぎ捨て怖かった、さみしかったと涙を流しルークに甘えるのであった。ついでに二人を見て家族を羨むダウーであったが、二人に迎え入れられ家族の一員となる。

姉と再会する前、自分のしてきたことに疑問を持ってしまうルーク

 

3.贋札集団と新札作り

帝国でインフレを起こすために贋札作りを行っていたチームは、ルークの独立国家の紙幣作成に取り掛かることに。一方で帝国側もルークの贋札がもたらした良性のインフレに対処するために新しい新札作りを始める。二つの国で新札作りを担うのはビオラとそのライバルであり、人生を賭けた職人魂を感じ取ることが出来る。本編は金本位制度を扱うものであったが、ハイパーインフレーション2では管理通貨制度を題材とすることが求められそう。

自分が命を懸けられるもの

 

4.レジャットの苦悩と肯定

本作のラスボス的存在であったのがレジャット。ガブール人の救世主的資質が証明されたとして帝国の防衛のために調査に邁進すると息巻くも、クルツさんの幻影に取りつかれる。「キミには守るべきものが本当はないんじゃないか?親しい人間はいない。ガブール人にもヴィクト人にもなれず、守るべき国も民族もない」。この言葉は絶えずレジャットを苦しめるものであったが、一方で部下たちが自分を肯定してくれた言葉を思い返しては自己を奮い立たせ、今日も任務に邁進していく。

自分のエゴに対する苦悩と部下からの肯定

 

5.出藍の誉れ~最後までグレシャムとフラペコのギミックが光る~

最終回まで見せ場を作るのがグレシャムとフラペコ。この二人は本当に本作を彩ってくれた。最終回では、グレシャムとフラペコが金儲けに成功し、二人でワインを堪能する姿が描かれる。またフラペコは新規事業を始めるとしてルークやグレシャムの下を去っていく。ルークとフラペコがお互いを対等に話せる存在であったと認め合って分かれるシーンは涙が止まらない。またグレシャムはフラペコを今までの一番の右腕だと賞賛するのであった。別離後の船でフラペコは嗚咽するのであるが、ここまで見るとフラペコが別れを惜しんで泣いていると読者たちは思うであろう!だがここで最終回最大のミスリード!なんとフラペコはグレシャムが得たカネを持ち逃げしていたのである!!!これが分かった後で、フラペコが船で泣いているシーンを見ると二重三重の意味になるのだ。あそこまでグレシャムが評価してくれたのに、カネを持ってっちゃったんだからね……。グレシャムは「人生を賭けた計画が失敗するなんてべつに普通のことではないか」という名台詞を残したことでも有名なので、これからも際限なく金儲けを企み続けるんだろうなと。

別れを惜しむルークとフラペコ
グレシャムにこの顔をさせた後でフラペコのカネ持ち逃げが判明する

カネを持ち逃げしたのはフラペコじゃない説

 

6.救世の力の秘密エンド

生殖能力と引き換えに救世主の力を得たルーク。だがハル姉から秘密の一端が明かされることとなり、力を使わなければ生殖能力が戻ることが判明する。これを聞かされたダウーはルークと子作りができると分かり大喜びする。最後はルークに力を授けた神にハル姉が語り掛ける形で本作は幕を閉じることとなる。ガブール人に救世主としての力を与えた形而上学的存在は、神様でも何でもなくこの世界で最初に生まれた生命なのではないかと。そして、最初にこの世界にもっと命を!と願ったとハル姉は推察したのであった。

ハル姉と形而上学的存在の対話エンド