『何処へ行くの、あの日』の感想メモ

MOON STONEの『何処へ行くの、あの日』をクリアしましたのでその感想をば。感想というよりかはメモだな、メモ。

 

 主人公:国見恭介は両親を亡くして妹と二人暮らし。だが、恭介は過去に女の子を殺したという罪悪感を背負いながら、妹の絵麻とセックス三昧を重ねていた。そう、妹に受け入れてもらうことで罪から逃げていたのだ。だが、恭介が勝手に女の子を殺したという罪悪感を背負っているだけで、世間的に殺人などなかったとされている。そのため恭介は精神病院に通った。そんな中、過去に遡れる薬"マージ"というものが出回る。登場人物たちは目を背けたい過去から逃れるため、築き上げた現実を捨てて薬に走っていく・・・恭介は自分を苦しめる罪悪感の正体を突き止めようと"マージ"を使う。
 主要登場人物達は全員過去に縁が結ばれている。彼らは過去の夏に"ソレ"という現象に立ち向かった。"ソレ"は現実を消し去ってしまう存在であった。"ソレ"は幾重もの選択肢の分岐から生じる並行世界を消去する役割を担っていた。つまりは、彼らの現実は並行世界の一つ。恭介はその強い思いにより"ソレ"から現実を守った。それ以来、彼らはただの幼馴染から絆を深めたものに変わっていった。

 

◆麻生桐李
恭介の家のはす向かいの1個上のおっとりお姉さん。受験が目前に迫り毎日が塾通いですが、そんな辛さは見せず恭介のお姉ちゃんであろうとします。だが家庭は複雑で現在の父は再婚した義父であり、警察官である母は忙しく家庭は崩れ、実兄はマザコンであったのに父方に引きとられ、異父妹は死亡したというなかなか重い背景を背負っています。しかも桐李は自分のせいで異父妹が死亡したという罪悪感を背負っています。そんな悲劇。

 

恭介とは仲がよく一緒に二人きりで昼食をつつきあう仲。友達以上恋人未満な関係を重ねてきた。だが二人は罪悪感から恋人への一歩が踏み出せない。過去に遡れる薬"マージ"が出回ると、桐李は異父妹を救うべく手を出し始める。実は"マージ"は桐李の異父妹を救うべく義父が開発したものであった。たびたび過去に遡るがその可能性を変えることはできなかった。桐李はそんな苦しみを恭介に打ち明ける。桐李は今まで人に支えられるのを怖れていたのだが、とうとう恭介に頼ってしまう。人に支えてもらうのを怖れていた理由は、桐李が風邪をひいたとき異父妹に桃のおつかいを頼んだら、そのまま事故死してしまったからだった。恭介はどこへも行かないと宣言し二人は恋仲になる。

 

だがもう一つの事件が進行していた。桐李の兄は母親への歪んだ愛情を、母の警察官の仕事を増やすことで表現しようとする。つまりは殺人事件を起こすこと。彼は"マージ"を使って過去の世界で人殺しをしていた。そこへ恭介たちは出くわしてしまう。恭介たちを殺しにかかる桐李兄。恭介は彼に向かって「母の一生の愛を獲得するには自殺をすることだ」と言い放つ。そして現実に帰ってくると、桐李兄は死んだことになっていた。

 

昔の殺人と桐李兄への自殺教唆を背負い続ける恭介は、桐李がいながら"マージ"を使い続ける。そして恭介は廃人になるのであった。桐李は甲斐甲斐しく丸一年世話をする。眠り続ける王子様はお姫様の接吻で目を覚ますのが定石。ある日、桐李が眠り続ける恭介にキスをすると意識回復。抱き合う恭介と桐李だが、その世界は真っ白に包まれていった。

 

◆茂木一葉
恭介の1個下の下級生。喫茶店でバイトをしておりお菓子作りのプロでパティシエさん。だが、過去に包丁でざっくりやってしまっているため包丁は使えない。双葉という双子の妹がいるが現在は疎遠になっているためか、数年来あっていない。双葉は恭介たちが絆を深めた夏に足を骨折していたため、彼らのグループには入っていなかった。だが偶然病院で恭介と遭遇しておりほのかな一目ぼれ恋心を抱いていた。

 

双子といったら入れ替わりを疑えというのが一種の方程式である。双葉は幼い頃、実兄に性的虐待を受けていた。ついに抑圧された鬱憤が爆発し、兄を刺し殺してしまう。もともと家庭がうまく行っていなかったが、事件を契機に一家離散。一葉と双葉は散り散りになってしまった。双葉は性的虐待の苦悩と兄を刺したという罪悪感により自己を捨て去り一葉としての人格をトレースする。こうして一葉が二人できたわけで、恭介と恋仲になったのは双葉であった。恭介の活躍により双葉は自分を取り戻すことに成功。恭介とともに一葉に会いに行きハッピーエンド・・・かと思いきや、全てが白く包まれてしまう。

 

◆青井智加子
恭介のマブダチ智の姉。智は智加子に珍しい花をプレゼントしようと思って上った崖から転落死している。青井さんはもともと心臓の病であったため、夏の日に恭介たちのグループには入っていない。現在も心臓の病は完治しておらず病院へ通っている。智が死んだことを自分のせいだと思っており、弟の死をまだ認められずにいる。恭介とは図書委員で一緒になることから馴れ初めが始まる。

 

彼女は過去に遡れる"マージ"を手に入れると弟の死を救うべく行動するが失敗に終わる。恭介に心情を吐露していくうちに懇ろな仲になり、後ろ向きで生きていくより恭介との現在を受け入れるようになる。罪悪感を抱きながらも二人で前向きに生きていこうと体を重ね合い出発した直後、智加子は暴力団の抗争で放たれた流れ弾に当たって死亡してしまう。愕然とする恭介だがここで"マージ"を思い出し、もうひとつの可能性を探って自分が身代わりになる。こうして恭介が死んで智加子が残される並行世界が生じた。智加子も同じことを思い立つが恭介の意思は崩せなかった。そして"マージ"を使い続けるうちに意識不明になる。そしてその世界は白く包まれていった・・・

 

◆神崎千尋
並行世界を消すための使者。恭介たちの現実は、本当はあってはいけない分岐から生れた並行世界であり、千尋はその並行世界を消すために現れている使者だった。この選択肢から分岐されたっっていうところが、えろげが孕む矛盾性を逆手に取っており深くなっていると思う。千尋は過去の夏にも恭介たちの世界を滅ぼそうとしたが、恭介の力の前に失敗。だが、今回は恭介の力も失われており消失を待つばかりであった。何百回と並行世界を消却している千尋には記憶が引き継がれないが、何故か過去の夏のことだけは思い出として残っていた。そうその夏は貴い思い出。思い出を残してくれた恭介と懇ろな仲になっていく千尋だが、世界は消失する。

 

◆国見絵麻
恭介の妹。恭介を偏愛し、日常的にセックスを行うような異常な仲である。恭介はそれをなんとか改善したいと思いつつも、絵麻の強い思慕に流されている。絵麻はかつて心臓の病を患っており、そのときに過ごした「兄と二人きりの甘美な時間」に囚われている。心臓手術成功後は、なかなか兄と二人きりになれなかったために健常者になる前が一番良かったと愚痴っている。二人きりの世界でみんながいなくても良いと考える思考に恭介は恐れさえ抱いていた。

 

絵麻は恭介を想うばかりに、彼が他の女性と恋仲になる世界を決して認めようとはしない。恭介が桐李や双葉や青井さんや千尋と恋仲になった世界は、絵麻によって全てデリートされる。『ひぐらしのなく頃に』の梨花ちゃん&羽入のパワーアップ版というところか?。ゲーム中で築いた他のヒロインとのエンディングで世界が白く包まれたのは、絵麻が世界を消去したからであった。ひぐらしで昭和58年が越えられないのと同じように、『何処へ行くの、あの日』では絵麻と恭介が恋仲になるという幻想を越えられない。そのために何度も同じ世界が巡り返される。

 

では何故、絵麻に世界を消去できる力があったのであろうか。それは、本当は絵麻の心臓手術は失敗に終わっており、絵麻という存在がいた世界は手術が成功したという仮定の並行世界だったからである。つまりは絵麻がこうあって欲しいと望んだ世界。だから絵麻が存在する世界は千尋に消却されるべき世界だったのである。本当の世界では絵麻が死んでからの時間が流れており、恭介は妹の死を背負って生きている。そして異父妹の死を背負う桐李と傷を舐めあいながらドロドロとした関係が構築される。桐李好きな私としてはこの展開もありだと思います。特に逢瀬後、死者に囚われて嗚咽を漏らすシーンは気持ち悪くなるぐらいゾクゾクくるほどの感情を呼び起こされたことよ。

 

絵麻は自分自身が自分がもう死んでいたと認識したときに初めて、恭介への思慕の呪いが解き放たれた。恭介と二人きりで恋仲になる世界よりは皆で一緒にいる世界の方がずっといいと認める。自分が生きていたという仮定をした幻想世界の話もこれでおしまい・・・といったところで並行世界の補正者である千尋が登場。彼女は自分の役割を捨て去り、絵麻が認めた世界を受け入れる。そして絵麻自身も含めて全員が揃った"ほんとう"の現実が今、始まる。

 

といったところで『何処へ行くの、あの日』はお開き。